暮らしの中にある“伝統”に触れる旅 金沢からはじまる「KOGEI」の新しいカタチ【前編】

暮らしの中にある“伝統”に触れる旅 金沢からはじまる「KOGEI」の新しいカタチ【前編】

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国内で人口に対する工芸家の数が最も多いといわれる街、金沢。市民に話を聞くと、彼らの生活には、生まれた時から自然と近くに工芸があったそうです。そもそも藩政期以来、「ものづくり」を愛でるという文化が息づいているのが、この金沢という街。

今、その金沢を舞台に、大型工芸フェスティバル「金沢21世紀工芸祭」が長期間にわたって開催されています。街を挙げて、“工芸都市金沢”として日本だけでなく、世界の工芸との交流や対流を行う発着地ともするために。

今回私は、金沢で実際に工芸と触れることで、伝統的な工芸から革新的な工芸のカタチまで、さまざまな工芸を感じる旅に出たいと思います。

1日目:「九谷五彩の色いろ色絵豆皿を作ろう!」体験に参加して、工芸に触れる

様々な種類の九谷焼「色絵豆皿」

「金沢21世紀工芸祭」の体験型イベントとして開催している「金沢みらい工芸部」。今回訪れた12月半ばに開催されていた「九谷五彩の色いろ色絵豆皿を作ろう!」という九谷焼の絵付け体験に参加しました。金沢21世紀美術館から歩いて5分のところに、ノエチカというレンタルスペースがあり、そこでは期間中さまざまな工芸を体験できます。

体験スペースに入室すると、すでに数人の体験者が絵付けする生地を選んでいたり、デザインを描きはじめていたり。友人同士や、カップル、親子、なかにはまだ2歳だというお子さんを連れた家族も参加しています。

レンタルスペース「ノエチカ」前にある金沢21世紀工芸祭のノボリ

ホワイトボードに書かれた九谷焼の絵付けの説明

絵付け体験の先生は、田辺京子さんという石川県出身の工芸家です。伝統的な九谷焼の枠を越え、モダンでユニークな作品が多く、県外にもたくさんのファンがいます。私も、そんな彼女の世界観に惹かれた1人です。

「こんにちは! まずは絵付けする生地(白)を選んでもらって、それからどんなデザインにするか、色も考えてくださいね!」

と元気いっぱい、笑顔で迎え入れていただきました。なんだか、物静かな工芸家のイメージを一瞬で変えてくれる、元気いっぱいの気さくなお姉さんで、こちらの緊張を吹き飛ばしてくれました。

生地は、田辺さんの作品でもよく使われる猫や魚、バナナやぶどうなど、女子的にはワクワクする形が多く、私は大の猫好きのため、迷わず横座りしている猫の生地を選びました。

机の上に並べられた和絵具の数々

石川県出身の工芸家「田辺京子」さん

田辺京子さん

机の上に並べられた制作中の色絵豆皿

色絵豆皿に色を付けるため和絵具(赤)

さて、九谷焼を作る流れは、

  1. にかわで生地を拭く
  2. 絵柄を考えて下描きする(色も考える)
  3. 能登呉須で骨描する
  4. 好みで赤を塗る
  5. 和絵具を塗る
  6. 絵付け完成
  7. 焼成

※ にかわ:動物の皮や骨等を原料としており、工芸品の接着剤として用いられる。純度の高いものはゼラチンと呼ばれる
※ 能登呉須:呉須(ごす)はコバルト色の顔料
※ 骨描(こつがき):彩色前に輪郭線を描いておくこと

九谷焼の特徴は、九谷五彩と呼ばれる和絵具の青(紺青)、緑、紫、黄、赤で色を盛りつけていくこと。濃茶色の能登呉須で模様を描き(骨描)、それから赤で模様を描き、続いて和絵具を載せて色を盛りつけていきます。先生の指導のもと、いざ、絵付け開始!

色が付けられていく色絵豆皿

色が付けられた豆皿の裏側

能登呉須を水で溶き、生地の上に模様を描いていきます。細い筆を扱うのは、難しい!

「大丈夫ですよ、好きに描いて。焼いたら、なんとかなるから!」と先生に励まされつつ、どうしたら九谷焼らしい絵付けになるかと聞くと、「たとえば、小紋柄とか、幾何学模様とか、点とかを入れるといいかも……」と九谷焼図鑑などを見せていただき、先生の見本を見て、ふむふむとイメージをふくらませます。

能登呉須と赤色は、何度でも指や布で拭き取ることができ、助かりました(何度拭き取ったことか!)。

特に和絵具を水で溶く時、絵具の柔らかさのさじ加減を見誤ると、せっかく描いた絵がにじんでしまうのです。ああ、本当に難しい……。でも、どんなふうに焼けるのかと想像するだけで、ワクワクして楽しく作業ができるものです。

さすがというか、同じテーブルで作業していた子どもは、迷うこともなく絵を描いて、和絵具を載せて、あっという間に仕上げていきます。

そうして、えいやっと描いていくこと1時間以上もかかり、なんとか表裏と完成させることができました。

下絵と並べられた色の付いた豆皿

3日後、東京の自宅に完成品が届きました!
こちらに掲載するのがはばかられるほどの拙い仕上がりですが、「なんとかなる!」と先生に言われたように、なんとか形にはなりました。

出来上がってみると、もっと配色に黄を使いたかった、色をもっと盛りたかったなど思うところはありますが、世界でたった1つの工芸品を作った喜びはひとしお。何に使おうかしら?

この体験を通して、一点物に価値を置き、それを日常に使ってきた金沢という街の神髄に触れた気がしました。

筆者(小林希)が制作した色絵豆皿の完成品(表)

筆者(小林希)が制作した色絵豆皿の完成品(裏)

「工芸を作る人と広める人、それぞれの想いを聞く」

金沢の工芸は、作品を作り出す作家たちと、その魅力を国内外に向けて広めようとする人たちの二人三脚な関係があって、それが人気の秘訣だと思います。今回、九谷焼作家の田辺京子さんとノエチカのディレクターで金沢工芸ブランドを県外へとプロデュースする高山健太郎さんに、金沢工芸の魅力や未来についてお話を伺いました。

九谷焼作家の田辺京子さんと「ノエチカ」ディレクターの高山健太郎さん

「金沢の日常に根付く工芸のカタチ」

小林:金沢の街は、歩いているだけでも芸術に触れることができますね。家々の軒下の傘立てやカフェで出てくる食器は、九谷焼などを自然に使っている印象があります。

高山さん:私は県外の人間ですが、文化芸術系の仕事に携わっていると、一般の人でも芸術に関心が高く、教養がある人が金沢には多いと気付きます。茶器や花器、オブジェ、床の間にかける絵画(日本画)を集めている方、使っている方が多く、お花やお茶が習い事ではなくて日常のなかで息づいているのに驚きますよ。

田辺さん:たしかに小さいころから、日常に工芸がありましたね。小学生のころからお茶をやったり能をやったり、鑑賞したり。伝統工芸に対して学校単位でやることは多かったです。でも、当たり前のことだと思っていました(笑)。

小林:いえいえ、そんな小学校は珍しいと思いますよ! 日常のなかで工芸品や芸術品を使っているというのが、金沢の特徴といえますね。

高山さん:山出保前金沢市長は、「京都は文化を売る街で、金沢は文化を使う街」といわれるんです。逆にいうと、金沢は、これから文化を売るチャンスがあるわけです。

「伝統的な工芸にとどまらず、自分らしさを表現する」

猫の絵付けがされた九谷焼色絵豆皿

小林:金沢は人口に対する作家の数が日本で一番多いそうですね。

田辺さん:はい、多いですね。それは肌で感じます。県外で名の通っている作家もたくさんいらっしゃいます。私も県外にお客様が多いので、もっと金沢で頑張らなきゃと思っているところです。

小林:そんな作家の多いなか、田辺さんの作品の魅力ってなんだと思いますか? 初めて田辺さんの九谷焼を見た時、メキシコを旅した時に見た明るくてユニークなキャラクターをモチーフにした不思議な世界観を思い出しましたし、マルク・シャガールのような見るだけでハッピーになる色使いや、非現実的な、やっぱり不思議な世界観を感じました。

田辺さん:ありがとうございます(笑)。九谷は加飾をして、色を盛って華やかにしていくのが魅力です。でも、優美や繊細というよりは、気合の九谷というのがあるんです。金銀でゴージャスだけど、ガッツ系(笑)。ちょっと土臭いというかね。特に私は、美大を出ているわけでもなく、自力でやってきたので、よりガッツ系なのかな(笑)。それが作品にも出ているのだと思います。

高山さん:そうおっしゃるんですが、田辺さんは技術力に加え、表現力があって絵画のよう。SFだったり、漫画やアニメだったり、作品の中に物語を感じて、見る人がハッピーな気持ちになります。

小林:ただ使うためのお皿ではなくて、あるだけで心がぽかぽかする、元気が出る作品なんですね。でもやっぱり、オブジェとして手に取っていただくよりは、使っていただきたいですよね?

田辺さん:もちろんです。自分らしい表現を続けながらも、もっと日常で使っていただけるものになったらうれしいですね。

金沢の工芸と未来 ー 工芸を“使う”“愛でる”という遊び方を、もっと増やしていきたい」

色絵豆皿に色付けする九谷焼作家の田辺京子さん

小林:金沢の工芸のカタチを、今後どのようにしていきたいといった目標はあるのですか?

高山さん:日本では、海外のアートフェアや展覧会に出品したことを名誉に思う傾向があります。それだからこそ、海外で活躍する作家の価値が高くなるのですが、できれば世界のすばらしい作家に金沢へ来てもらって、展示、発表していただきたいですね。

ユネスコでは、金沢をユネスコ・クラフト創造都市として認定しています。でも、実際のところ、認定されているとしても、それを知らない人がいっぱいいると思うので、もっと金沢の工芸にふれていただき、親しみをもっていただきたいですね。

絵画を観たり、買ったり、贈ったりするように、工芸品を“使う”“愛でる”という遊び方を、もっと増やしていきたいですね。そのようなことをしていくことで金沢が世界の工芸の街になるのが理想です。

小林:実際に、外国人の方も「金沢21世紀工芸祭」にたくさん来られているのでしょうか?

高山さん:多いですね。これまでに約6000人いらっしゃいました。英語のガイドもしているのですが、金沢の工芸品は、造形が優れたオブジェとしての工芸品もあれば、シンプルで生活になじむ工芸品もあって、日常の中で使える工芸品のバリエーションの多さに驚いていました。
だから、“自分の感性に合うもの”を選び取ることができる。手頃な価格の作品も多いので、買っていかれる方が多かったですよ。

小林:たしかに海外を旅して出会う工芸品には、あまりバリエーションが多いとは感じないですね。

田辺さん:金沢の作家は、ものづくりにこだわり、自分らしいものをつくる人が多いですよね。窯元や工場は金沢にはあまりなく、個人作家が多いので、よりアート性が強いかと思います。

小林:まさに、「金沢から世界へ、世界から金沢へ」ですね。その発着地となること。すばらしいビジョンですね。今後田辺さんは、どのような活動をしていきたいと考えておられますか?

田辺さん:もっと地に足を着けて、金沢でこそ求められるようになりたいですね。私の九谷焼を好きだと言ってくださるファンは、とてもユニークでマニアックな方が多いんですよ。この絵柄が好き!といって、一点ずつ集めてくれるような。それを今後は、もっと金沢で知ってもらえるとうれしいので、がんばります(笑)。

すばらしい工芸作家のひとりである田辺さんと、金沢の工芸に魅了され、その価値を日本にとどまらず世界へと発信しようとする高山さんのおふたりにお話を伺うことで、金沢の新しい工芸のカタチが見えた気がしました。芸術的であり、日常的である工芸。近い未来、当たり前のように「金沢=工芸都市」と認識される日が来るのでしょう。その過程においては、金沢の工芸を生み出す作家と、それを愛して使う人の存在が切り離せないものなのだと、改めて感じました。

この旅の初日は、たっぷりと金沢工芸に触れ、もっともっと工芸の神髄に触れてみたくなりました。

2日目は、九谷焼作家として60年のキャリアをもつ赤地健さんと、定期的に工芸作家の展示会を開催している陶芸家の吉岡正義さんのギャラリーに行って、作品に触れてみたいと思います!

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