粋に桜を愛でるなら…落語の舞台、浅草~向島、飛鳥山を立川志の春と歩く

花見が大好きな日本人。満開ともなると各地の有名スポットが花見客でにぎわいますが、花見が庶民の楽しみになったのは江戸時代からなのはご存じですか?

8代将軍・徳川吉宗が桜を植えて整備し、自ら無礼講の宴を開いて花見を奨励、それにより庶民にも花見文化が広まったといわれています。

庶民の生活を描いた落語には、花見の様子がよく描かれています。今回は、そんな落語に残る、江戸の庶民が愛した花見スポットを実際に歩いてきました。

1日目:「百年目」「花見酒」の舞台。浅草~向島へ

古典落語で花見が登場する噺(はなし)といえば、まず「百年目」が思い浮かびます。

ちょっとだけ、筋をご紹介しましょう。

まったく遊びをしないという、堅物で有名な番頭さん。実はこの番頭さんが裏では結構な遊び人。使用人たちにはお使いに行くとウソをつき、お洒落な着物に着替えて遊びに出ていきます。

向島の桜

向かった先は、ちょうど花見シーズンの向島。隅田川にて屋形船で船遊びというわけです。

最初はバレないように障子を閉め切って遊んでいますが、芸者さんの誘いを断れず、扇子と手ぬぐいで顔を隠して、「目隠し鬼」でどんちゃん騒ぎ。そこで誰かとぶつかってしまい目隠しを取ると、目の前にいたのはなんと店の旦那じゃありませんか! 偶然同じ船に乗り合わせていたんですね。そして、動転してつい「お懐かしゅうございます」なんて口走っちゃう。

真っ青になって店に戻り、悔やみながら迎えた翌日、旦那に呼ばれた番頭さん。

「ああ、これで俺はおしまいだ」と落ち込みますが、番頭さんが店のお金には手を付けず、自分の懐だけで遊んでいることを逆に褒められ、お店も持たせてもらうことになるんですね。最後に旦那が尋ねます。

「いつも一緒なのに、なんで『お懐かしゅうございます』なんて言ったんだい?」

「いえ……ここで会ったが百年目だと思いまして」

派手な遊びのシーンから、打って変わって人情噺になっていく、ちょっとホロリとさせられるんです。私が入門する前、師匠志の輔の「百年目」を聞いて感動したのを思い出します。

浅草から吾妻橋を渡り、向島方面へ。今年はなかなか青空が見えませんでしたが、江戸から続く名所には、今も多くの屋形船が繰り出し、にぎわっています。

向島

向島・屋形船

隅田川に浮かぶ屋形船。「百年目」では、大店の番頭さんが向島で船遊びをするシーンが登場します

かつて番頭さんが吉原の芸者衆と乗り込んだ屋形船。今も変わらず、隅田川に浮かんでいます。

番頭さんたちが、船を着けて上がった岸は、どの辺りだったでしょうねぇ?

向島・浅草は「花見酒」の舞台。夜桜を愛でながら江戸に思いをはせる

間の抜けた2人が繰り広げる滑稽噺、「花見酒」の舞台も向島です。

兄貴分が酒屋に掛け合って酒を借りるんですが、それを売りに行こうとします。

ところが、背負った酒樽から出る酒の匂いについ我慢ができなくなった弟分が、なけなしの10銭を兄貴分に払って1杯飲んじゃう。それを見た兄貴分も、弟分が払ったばかりの10銭を弟分に払って1杯飲んで……。

そんなこんなで、いつの間にかお酒がスッカラカンになっちゃう噺です。お金がなくても花見はしたい。江戸時代の人にとって、花見はそれぐらい大きなイベントだったんですねぇ。

当時に思いをはせながら、夜も花見客でにぎわう浅草公園に繰り出しました。

向島・夜桜

浅草公園の夜桜の向こうにスカイツリー

夜の浅草から向島を眺めると、ライトアップされた夜桜とスカイツリーが幻想的な雰囲気です。江戸の人たちは、まさか未来にこんな風景が実現するなんて、思ってなかったでしょうね。

こうやってみると、スカイツリーの色合いも、何だか“粋”ですよ。

向島・屋形船

夜の隅田川に浮かぶ屋形船

屋形船のライトをきらびやかに反射する、隅田川の水面。そんな景色を眺めながら、桜橋を渡ると……。

向島の夜桜 ちょうちんに照らされた夜桜と、ズラリと並ぶ町内会の屋台がお出迎え。

向島の夜桜

下町の気の置けない雰囲気もきっと、江戸時代から変わらないんじゃないでしょうか。

この日の夜は、現在と昔の光景に思いをはせつつ、桜の香りが乗った夜風に当たりながら、宿泊先の浅草までのんびり歩いて向かいました。

2日目:江戸の飛鳥山には“フラッシュモブ”の原点があった!?

江戸時代、花見のどんちゃん騒ぎといえば、向島か飛鳥山でした。現在では「花見といえば上野」というイメージですが、当時の上野公園は鳴り物が禁止で閉門も午後6時だったため、大騒ぎしたい江戸の庶民には飛鳥山も人気だったそうです。

飛鳥山公園

飛鳥山公園

飛鳥山を舞台にした落語でよく知られているのは「花見の仇討ち」。

目立ちたがり屋の4人組が、花見客でごった返す飛鳥山で「仇討ごっこ」を演じる悪だくみをします。仇討ちをする兄弟役の2人とその仇の侍役が、花見をしているところでバッタリ出くわしてチャンバラになります。そこに六十六部という全国各地に経典を納めに回っている巡礼者役が止めに入り、背負った荷物を開くと経典の代わりにお酒が現れて「みんなビックリ拍手喝采!」。

…となるはずがうまくいかない。本番ではたまたま居合わせた本物の侍が助太刀に加わって大騒ぎとなり大失敗。まぁ、何事も失敗するのが落語ですからね。

大勢集まるところで行われる「ドッキリ劇」。現代でいうフラッシュモブの原点みたいなものかもしれません。

飛鳥山公園2

木の下にはたくさんの花見客

たくさんの地元の人たちでにぎわっている飛鳥山公園を歩きながら、「花見の仇討ちごっこ」でも一席ぶってみようか……そんな思いもよぎります。

都電と飛鳥山

都電と飛鳥山の桜

飛鳥山は電車の撮影スポットとしても有名で、都電や新幹線と桜を一緒に撮影できるスポットもあります。都電がよく見える飛鳥山交差点近くの歩道橋には、カメラを持った方がズラリ。

新幹線と飛鳥山

新幹線と飛鳥山

飛鳥山公園から徒歩5分の北区の施設「北とぴあ」17階展望ロビーからは、ピンクに染まった飛鳥山が一望できます。今はビルに囲まれていますが、江戸時代には江戸随一の観光スポットだったことが想像できます。

今回は、浅草・向島と飛鳥山という、落語に残る2大スポットを歩いてみました。

江戸の人々が愛した桜の名所は、今でも人が集まる花見スポットとして、時代を超えて受け継がれています。

私たち落語家も、江戸の昔から人々が愛してきた「花見」という粋な文化を、噺を通じて残していきたいものです。

ちなみに、花見がテーマの落語がお聞きになりたい方は、少し早めの2月終わり~3月いっぱいくらいに聞きに来ていただくのがいいですよ! まぁ噺家にとっては「みんな花見噺だから、俺はやらないでおくか」なんて、いろいろ気を使ったりもするんですけどね(笑)。

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