諏訪湖の美術館・博物館5選!シルク、名画、オルゴール…アート散歩 甲信越

諏訪湖の美術館・博物館5選!シルク、名画、オルゴール…アート散歩

2017.09.14 甲信越長野
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諏訪湖と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 夏の花火大会に冬のワカサギ釣り、7年に一度行われる諏訪大社の「御柱祭(おんばしらさい)」や良質の温泉などなど。ほかにも昨年大きな話題となった映画『君の名は。』の糸守湖が諏訪湖をモデルにしているとされ、「聖地巡礼」の場所としても知られています。

諏訪湖

そんな周辺約16キロの諏訪湖の周りに、個性豊かな美術館・博物館がたくさんあるのをご存じでしょうか。なんと、その数17館! 小規模ながらも地域に根差した館がそれぞれの魅力を発信しています。例年夏には「諏訪湖まちじゅう芸術祭」としてさまざまなイベントも開催される諏訪湖周辺は、アートにあふれた場所でもあるのです。

今回は、17館から構成される「諏訪湖アートリング協議会」の中から5館をセレクトし、1泊2日でその魅力を存分に堪能する旅に出ました。

繭から糸を採る様子が見学できる博物館へ

スーパーあずさ

JR新宿駅を午前8時に出発する「スーパーあずさ5号」(2020年10月現在の名称は「あずさ5号」)でまず向かったのは、JR岡谷駅。
諏訪市や岡谷市は、セイコーエプソンなど精密機器メーカーの工場が多く、この地域は「東洋のスイス」と呼ばれています。中でも岡谷市は、明治時代に製糸業で栄えた街でした。

その土地に根差した文化を知ることが、その街を知る大事な一歩になります。そこでまずは1964年に開館し、2014年にリニューアルオープンした「岡谷蚕糸博物館」(シルクファクトおかや)を訪れました。シルクを五感で感じられる、世界的にも類いまれなる博物館です。

岡谷蚕糸博物館 外観

岡谷蚕糸博物館は日本の近代化を支えたシルクの歴史を学ぶことができるだけでなく、併設の製糸工場で、繭から生糸がどのようにして採られていくのかを実際に見学できます。

岡谷蚕糸博物館 諏訪式繰糸機

最新鋭の製糸機械に加え、昔ながらの人の手で糸を採るまでの神業的工程を観られます。大量生産が可能な機械ものの生糸と比べ、人の手で採った生糸は適度なむらができ、独特な風合いを醸し出します。

シルクソープ

シルクソープ

シルクはそのほとんどがタンパク質成分で構成され、人体との親和性も高い、肌に優しい繊維といわれています。ミュージアムショップではシルクのビューティーパワーをぎゅっと凝縮した石鹸やハンドクリームを販売しています。今回のお土産は、これに決まりです!

明治の初めにヨーロッパから輸入した製糸機械に改良を重ね、世界でも類を見ないレベルまで製糸業を押し上げた日本人の情熱を目の当たりにし、身震いを覚えました。また、1本1本手作業で繭から糸を採る姿は、説明抜きに心を揺さぶられるものがあります。旅の始まりにふさわしい、見どころ満載の博物館でした。

マッサージチェアでくつろぎながら、ルソーやボーシャンの名画を鑑賞!?

しもすわ うなぎ小林 うな重

岡谷駅からJR中央本線でJR下諏訪駅へ。次の美術館へ向かう前に、おなかがすいたので諏訪湖名物のうなぎを「しもすわ うなぎ小林」でいただきました。下諏訪駅から徒歩15分ほどです。
ふわふわでやさしい味付けのうなぎは、並んでも食べる価値のある逸品です。小鉢のとろろ芋も、うなぎとこんなに相性が良いとは! その土地のおいしいものを食べる贅沢も、旅の醍醐味ですよね。

3分ほど歩いて次に訪れたのは、「芸術と素朴」をコンセプトとしたハーモ美術館。積極的にPR活動をしているわけではありませんが、知る人ぞ知る美術館として美術好きの間では名の知れた館です。

ハーモ美術館 外観

監視員を置かず、館内ではおしゃべりが自由。思い思いの感想を言いながら、アンリ・ルソーやアンドレ・ボーシャンらの名画を鑑賞できるのが魅力のひとつです。

ハーモ美術館 館内

そして驚くべきことにハーモ美術館では、展示室内にマッサージチェアが置かれ、自由に使うことができます! 絵を観た後にこれで疲れを取ってほしいとの館長の要望で設置されたそうですが、世界広しといえども、マッサージ機がある美術館を、ほかで見たことはありません。最初に目にしたときに「一体これは何なのだ!」と、心の中で驚きの声を上げてしまいました。

このマッサージチェアのほかにも、展示室内には腰かけることのできるスペースが数多く設けられています。座ってのんびりマティスやルオーの作品を観るなんて、都内の美術館ではとてもできない贅沢です。

ハーモ美術館 マッサージチェア

諏訪湖を一望できる、静かなロケーションにも恵まれています。天気の良い日は2階にある半円形の大きな窓から諏訪湖と富士山をパノラマ写真のように眺めることもできるそうです。とても居心地のよい、ついつい長居をしてしまうハーモ美術館。訪れただけで幸せな気分にさせる、そんな美術館であり、実際に多くのリピーターや友の会のメンバーに支えられているそうです。

繊細かつゴージャス。アンティークオルゴールの音色に酔いしれる

1日目の最後は、諏訪大社下社近くにある「日本電産サンキョーオルゴール記念館 すわのね」へ。下諏訪駅へ戻り、徒歩10分ほどの距離になります。
岡谷市と同じく、精密工業が集まる下諏訪町。そこにあるオルゴールの博物館「すわのね」は、観光地によくある、土産物店のような博物館ではありません。

日本電産サンキョーオルゴール記念館 すわのね 外観

生活になくてはならないモーター類やカードリーダーなどの精密機器を作る、日本電産サンキョー。その原点であるオルゴールを展示しています。精密機器の街としての矜持、そして文化や歴史を守る使命感が、この館には漂っています。

「すわのね」には希少価値の高い、とても大きなヨーロッパのアンティークオルゴールが、約50点所蔵されています。メンテナンスができないと鳴らなくなるオルゴール。技術者たちに守られているからこそ、展示が可能なのです。
コンサートホールでは、この素晴らしいアンティークオルゴールとスクリーン映像、プロの女優の掛け合いを組み合わせたライブショーを、毎時30分より開催。過去に多くの人の耳を楽しませただろう音色を、時代を超えて堪能できます。

※2020年9月現在、ライブショーは中止しています。

日本電産サンキョーオルゴール記念館 すわのね アンティークオルゴール

1階のカフェにも大型のオルゴールがあり、リクエストすれば演奏を聴くことができます。カフェ全体もアンティーク調の雰囲気で、とても心地よい空間となっています。
「カノン」をリクエストし演奏してもらうと、音色の大きさにまず驚きました。小さな箱からかすかな音が流れてくる……そんなオルゴールの認識を一変させられました。次第にその音色にも慣れ、貴族のお屋敷に招かれた気分で、おいしいコーヒーを飲みながら優雅な時間を過ごせました。

隣接の体験工房では、世界でひとつだけの、オリジナルオルゴールを作ることができます。

日本電産サンキョーオルゴール記念館 すわのね カフェ

諏訪大社下社秋宮にお参りして、下諏訪駅からJR上諏訪駅へ。1日目は諏訪湖畔の温泉宿で、体を休めることにしました。

ガレの躍動感と、東山魁夷の静謐。北澤美術館で浸る贅沢なコラボ

2日目は、この地で最もメジャーな美術館。エミール・ガレ、ドーム兄弟、ルネ・ラリックなどのガラス工芸作品と近現代日本画を収蔵する「北澤美術館」からスタートです。

北澤美術館 ガラス・コレクション

日本でも屈指のアール・ヌーヴォーのガラス・コレクションを誇る北澤美術館ですが、もともとは日本画のコレクションから始まったそうです。1階にはガレなどのガラス作品、2階には東山魁夷(ひがしやま かいい)などの日本画のコレクションを常時展示しています。

エミール・ガレの作品の見どころは、なんといっても正確な自然観察に基づいたデザインです。植物学にも精通していただけあり、自然の植物や花の描写は、ほかの作家の追随を許しません。また、よく知る植物がモチーフとなっていることで、より一層身近に感じられます。こんな素敵なガレのガラス作品、ひとつでもいいから部屋に飾りたいものですね。

そんなガレの作品を観たあとは、さっぱりした日本画も楽しみましょう。意外と知られていないのですが、2階展示室には日本画の優品が展示されているのです。東山魁夷の「晩鐘」「月明」は、2017年10月23日までの展示。

北澤美術館 日本画コレクション

また中2階にある喫茶室からは諏訪湖が一望でき、東山魁夷が座った席もあります。美術鑑賞のあとは、席に座って諏訪湖を眺めてみては?

旅の最後は、長野で最も古い公立美術館である「諏訪市美術館」へ。1943年に建てられた片倉製糸の教育施設「懐古館」を、当時の趣のまま利用している珍しい美術館です。

諏訪市美術館 外観

敷地内には1928年に建てられた洋風の大浴場、重要文化財である「片倉館」もあり、古き良き文化財が街中に多く残る上諏訪町の中でも、絶対に観ておきたい建物です。

観光案内所でもらった「古地図でみる かみすわ 建物めぐりマップ」を見ると、ほかにも訪ねてみたい場所が街中に点在しています。次回は、諏訪湖周辺の文化財建造物巡りをしに訪れてみようと思います。

諏訪大社

今回の旅で、諏訪大社創建より前の太古の時代から脈々と伝わる、この土地に根付いた文化の重みを、肌で感じました。諏訪湖周辺の美術館・博物館は単に観光客目当てでこの地に建てられたのではなく、この地だからこそ生まれたものだったのです。養蚕業で栄え、そこで磨かれた技術力を精密機器に生かし発展した企業が、その恩返しとしてアート作品を公開しているのです。メセナ(企業による文化活動)という言葉が日本で知られる前から、諏訪湖周辺美術館・博物館はそれを実践していたのですから驚きですよね。これこそ、諏訪湖アートリングの最大の強みだと思います。

文化や歴史に支えられた美術館・博物館が、都内から2時間ちょっとの場所にあるのです。諏訪大社参りや温泉旅行を兼ねて、ぶらりと行くには、まさにもってこいの場所ではないでしょうか。
そうそう、あずさ(かいじ)の車内販売で「桔梗信玄餅アイス」を食べることもお忘れなく!

桔梗信玄餅アイス

掲載情報は2020年9月29日更新時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

 

今回の旅の行程

【1日目】JR新宿駅→JR岡谷駅→岡谷蚕糸博物館→JR下諏訪駅→しもすわ うなぎ小林→ハーモ美術館→日本電産サンキョーオルゴール記念館 すわのね→JR上諏訪駅

【2日目】北澤美術館→諏訪市美術館→JR上諏訪駅→JR新宿駅

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1泊2日/新宿駅⇔上諏訪駅/夕朝食付き

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この記事を書いた人

Tak(タケ)

アートブログ「弐代目・青い日記帳」主宰。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を毎日発信する美術ブロガー。単行本『カフェのある美術館』(世界文化社)、『美術展の手帖』(小学館)等の編集・執筆、小学館、集英社、朝日マリオン・コム、サントリー文化財団等でコラムを担当。アートイベントも多数行っている。
Twitter:https://twitter.com/taktwi
青い日記帳:http://bluediary2.jugem.jp/

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