ここにしかない「青」がある。福島県相馬の海岸旅〜SOMA BLUE〜(LOVE)|読んでつなぐ、私の東北。|びゅうたび
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ここにしかない「青」がある。福島県相馬の海岸旅〜SOMA BLUE〜 LOVE

 福島県の浜通り、広い空と真っ青な太平洋が印象的な港町、相馬市。
潮風豊かな海沿いに、2020年、「浜の駅 松川浦」がオープンした。私はまず水産物コーナーにて、しらす、名物の高級あおさ、山盛りの干物など、新鮮な魚介類を購入し、いそいそと冷凍便で家族に送る。

 それから向かうのは、浜の駅の中にある食堂「浜の台所くぁせっと」。豪華海鮮丼や、とれたてをまるまる一匹堪能できる季節限定の「本ズワイガニ御膳」など、魅力的なメニューが並ぶ。その中で断然おすすめなのは、一度で三度美味しい「地魚丼だしバー付き」だ。こちらはその日とれた魚のだしが「鯛、ヒラメ、〇〇」といった具合にお代わり自由のバー形式になっていて、地魚丼の後半をだし茶漬けにして楽しめるというもの。考案したのは、現役の底引き網漁師、菊地さん。気さくで元気な兄貴分。調理場には、旅館業を営む心優しい管野さんもいる。どちらもこの町を愛してやまない浜の男。大阪出身の私が、生まれ故郷ですらない相馬やここで食べる魚を、自信を持ってすすめるまでになったのには、この土地が育んだ「人の魅力」がある。

 私と相馬のご縁の発端は、とある女の子との出逢いだった。

 「お姉さん芸能人?」「ちょっと違う。ミュージシャン」「ふーん。相馬、来てくれますか」
「え?あ?…ウン」
東京に募金活動に来ていた14歳の少女に声をかけられたのは2011年5月のこと。このまっすぐな目をした少女のご案内により、私は震災の年の夏から毎年相馬市に通うこととなった。
 小学校近くの海辺を案内してもらった際に、海に向かって手を合わせている男性を見かけた。「ここね、津波の被害が大きかったところ。4月の入学式は、震災直後だったからね。大きな声でおめでとうとは言えなかった親御さんもたくさんいるんだよ」
 この言葉から、大きな悲しみが流れていること、たくさんの未来が失われたことを知った私は、「今日ここにいるという事」というタイトルのコンサートを主催するようになる。翌年2012年から6年間、毎春開催のコンサートの収益から相馬の小学校に入学・進学祝いの文房具セットを贈った。

 浜の駅のすぐそばには、原釜尾浜海水浴場がある。
そこから1キロメートルほど内陸、まさに津波被害のあった広大なエリアに尾浜こども公園ができたのは2020年のこと。大きな遊具の隣には、愛らしい手描きのタイルで飾られた青空ステージがある。

 実はこの手描きのタイルは、「永遠に色あせない」青の顔料で描かれている。

 アメリカのとある研究室で「永遠に色あせない」青の顔料(100パーセント紫外線を弾くそうだ)が発見されたとのニュースを目にした私は、瞬時に、この新しい青で相馬の子ども達に絵を描いて欲しいと思った。

 その顔料は新種かつ、原料が高価なこともありまだ日本での流通がなかったが、関西の老舗絵具メーカーに「東北のためになら少量なら」と言っていただき、奇跡の絵具作りが始まった。原材料費はクラウドファンディングで集まった。これもまた今日ここライブなどを通して相馬を知ってくれた全国の方々からの支援が主だった。翌年「SOMA BLUEタイルアート」プロジェクトを開始し、様々な人の協力を得てタイルの制作が叶った。

 そんな特別なタイルに絵を描いてくれたのは、町の人や子ども達だ。焼き付けを経て、永遠の希望を伝えるメッセンジャーとなった500枚の四角いタイルをこども公園に飾ることを決めてくれたのもまた相馬の方々である。

 人呼んで、「SOMA BLUE」タイル。日光に晒されても「永遠に色あせない」青の顔料は、様々な支援と相馬の子ども画伯達の手によって絵になり、相馬の空の下で今日も輝いている。

 相馬は、2021年2月13日の、震度6強の余震にも見舞われた。「タイルは無事だよ」と知らせてくれた写真に現地の方々の影が映り込んでいたことが何より嬉しかった。

 私の主催するコンサートは、小学校に6年間文房具を贈ったのち、『LOVEの「今日ここライブ」を相馬のみんなと開催するという事』として相馬の教育委員会との共催となっている。地元の子ども達がプロと同じステージでパフォーマンスをする一日がかりのフェスに成長できたことも、全て大人の方々の協力、運営が基盤となっているおかげだ。これだけのことを10年で起こすことができたのは、相馬の大人達のポジティブさと努力の賜物だ。私の次の夢はあの青空ステージで、子ども達の合唱や、高校生のブラスバンドと歌うことである。

 小さな港町ながら、見どころ食いどころがたくさんの福島県相馬市。
もし訪れる機会があったなら、色あせない希望を未来に運ぶ、「SOMA BLUE」タイルを見て欲しい。そして、この町の子ども達の成長を一緒に見守っていただき、心の中で「おめでとう」と言ってもらえたら嬉しい。

 2012年に小学1年生だった子ども達は、2021年春、中学校を卒業する。

監修 幻冬舎

LOVE
シンガーソングライター・ラジオDJ。DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2007のバックボーカルや、布袋寅泰GUITARHYTHM Ⅴのフィーチャリングボーカルをつとめるなど、歌唱力に定評がある。これまでにアルバム9枚をリリース。
2012年よりライブイベント「今日ここにいるという事」を東京と大阪で主催し、福島県相馬市の全小学校へ計6800セットの文房具を寄贈。継続中の同イベントは2018年より相馬市にて教育委員会との共催で開催。