生ウニ丼、いちご煮、うに弁当!岩手「ぼっち旅」でウニを食べ続けてみた
大好物を食べているとき、「一口ちょうだい」と言われたらどう思うだろうか? ぜひ食べてほしい、このおいしさを共に分かち合いたい、と手放しで喜べるだろうか? たいへん心の狭いことを承知で言う。私は嫌である。一口くらいなら……としぶしぶ分けるものの、すべて独り占めしたかったというのが本心だ。それも、こちらが想定していたよりも大きめの“一口”だった日には、恨み節のひとつも言いたくなる。
そもそも、大好物を人に分け与えてもいいというのは、好物への愛が足りないと思う。「一口ちょうだい」は例えるなら、自分の恋人を「一晩貸して」と言われているようなものではないか。恋人を毎晩独り占めしたい、と思うように、大好物も一口一口すべてを独り占めしたいと思わないのか。
さらにいえば、「どんなに好きでも、三食カレーは嫌だ」というのもよくわからない。いくらでも食べたいと思うから、大好物なのではないか。三食ずっと食べ続けるのは嫌だ、と思ううちは、その程度の愛なのである。「彼氏のことは好きだけど、朝から晩まで一緒にいると鬱陶しいな」などと言う大学生は、往々にして社会人1年目で別れるではないか。本当に好きなら恋人を朝から晩まで独り占めしたいと思うように、本当に大好物なら朝から晩まで食べ続けたいはずだ。
だからこそ、大好物を食べるのが目的の旅は、一人で行くに限ると思っている。私はウニが好きだ。ここまでの文章は、すべてウニのことを思い浮かべながら書いていた。三食ウニを食べてもいい、「一口ちょうだい」とも言われない、そんな旅をしに、東北へやってきた。
【行程】
- 1日目:さっそく朝市でウニを買う
- 海鮮の店にて「生ウニ丼と、生ウニのお刺し身と、いちご煮をください」
- 駅前の魚菜市場で、思いがけないウニとの出会い
- 屋台街「みろく横丁」で、ウニのあんかけチャーハンを
- 2日目:1日20個限定!幻の駅弁「うに弁当」を食べる
- 海女衣装を着せてもらえる! 小袖海女センター
さっそく朝市でウニを買う
今回は初日に青森県の八戸へ行き、2日目に岩手県の久慈へ寄る。青森はウニのイメージがあまりないかもしれないが、ウニを使ったお吸い物の「いちご煮」が名物である。お吸い物の中に浮かぶ赤みがかったウニの塊が、いちごの果実のように見えることから、「いちご煮」と名付けられたらしい。
駅の外を見て回ると、駅前に朝市の店があった。ここでウニを買って、近くのベンチで食べるのもいいかもしれない。
ところが、店にあったのは冷凍のウニ、いちご煮の缶、ウニのレトルト味噌汁。どれもすぐには食べられそうにない。これらをレジに持って行った私に向かってお店のおばちゃんは、今日は何時に帰るの? あら今日は泊まりなの? どこから来たの? 東京なの? ホテルには冷凍庫ついてるの? 明日は何時頃に東京帰るの? としきりに確認しながら、冷凍のウニ瓶を丁寧に包んでくれた。厳重に保冷剤を詰めてくれているおばちゃんを前に、「違うんです、それ、今夜ホテルで食べ切るつもりなんです」とは言えなかった。
海鮮の店にて「生ウニ丼と、生ウニのお刺し身と、いちご煮をください」
お昼少し前、八戸線に乗った。八戸駅から4駅先の陸奥湊駅の店に、ウニ丼を食べに行くのだ。
陸奥湊駅を出て右手に5分ほど歩くと、『みなと食堂』が見えてきた。ここは、ヒラメの上に卵黄がぷるんとのった「平目漬け丼」が有名な店。なのだが、私の目当ては「たっぷり生うに丼」である。「平目漬け丼」のために行列ができるこの店で、「平目漬け丼」を丸無視して「たっぷり生うに丼」を食べる。それでこそ真のウニ好きと言えよう。
ところが、しばらく並んで店の扉の前に来たタイミングで、店内を覗いてみると、なんと壁に貼られた「たっぷり生うに丼」の文字のところに赤いバツ印と売り切れの文字が……。いっそ、せっかくだから「平目漬け丼」を食べてしまおうという考えが、頭をよぎらなかったと言えば嘘になる。この店に来たことがある人はきっと、ここまで来て「平目漬け丼」を食べないなんて……と思うことだろう。けれど、私はあくまでもウニを食べに来たのである。ウニ以外のものを口にするのは道義に反する。私は並んでいた列を離れた。
探してみると、あるではないか、近くに海鮮を扱っている店『やま文』が。
『やま文』へ行き、席に着いた私は、こう注文した。
「生ウニ丼と、生ウニのお刺し身と、いちご煮をください」
いくら自由に好きなものを食べられる一人旅とはいえ、ひとつの店で同じものばかり注文するのは、まあまあ恥ずかしいことだとわかった瞬間だった。
ウニの刺し身が舌の上で溶ける余韻に浸りながら、ウニ丼をぺろりと平らげる。時折すするいちご煮からもウニの風味が漂ってくる。ウニというのは、いつだって食べ終わったあとに少し足りない気持ちにさせてくる。それはひとえに、口に入れるとすぐに溶けてしまう、あの食感のせいなのではないだろうか。溶けてしまうから、食べた感覚が薄い。けれど溶けるからこそ、おいしく感じる。溶けてこそのウニ。そのままの君でいてほしい。
駅前の魚菜市場で、思いがけないウニとの出会い
もと来た道を戻り、列車に乗る前に、駅前の魚菜市場を覗いてみた。
すると、なんとウニを売っているではないか! 貝殻の中に敷き詰められた蒸しウニ。思いがけない出会いに心躍った。意中の人と道端でばったり会ったとき、人はこういう気持ちになるのだろうか。
駅前のベンチで、さっそく蒸しウニを食べた。ウニが一番きれいに見える角度で写真を撮ってあげたい、などとシャッターを押しまくっているうちに、列車の音が聞こえ、そして去って行った。1時間に1本しか来ない列車とウニ、どちらが大切かと聞かれたら、そんなのウニに決まっている。
屋台街「みろく横丁」で、ウニのあんかけチャーハンを
夜は本八戸駅近くにある「みろく横丁」へ行くことにした。横丁街は八戸の名所でもあるらしい。
駅を背にしてまっすぐ10分ほど進むと、飲食店の立ち並ぶ大通りに差し掛かる。この通りをしばらく歩いたところに、突然横丁が出現する。
東京で言うところのゴールデン街のような雰囲気で、ラーメンや焼き鳥のお店、居酒屋などが立ち並ぶ。その中の『ねね』に入った。スナックのような店名な上に、外観もピンク、地元のおじさんたちが陽気に乾杯する中、私は一人、しずしずと「うにの貝焼」と「うにのあんかけチャーハン」を口に運んだ。
ホテルに戻り、夜食の準備を始めた。瓶詰めのウニをちびちびつまみながら、いちご煮の缶と、ウニの味噌汁をすする。夢のような一日が終わった。ウニと私だけの、誰にも邪魔されない一日だった。明日は三陸海岸の名物「うに弁当」を食べに行く。
2日目:1日20個限定!幻の駅弁「うに弁当」を食べる
八戸から八戸線で2時間弱、久慈駅は『あまちゃん』の舞台になったことで一躍有名になった。『あまちゃん』には、ウニがしばしば登場する。ならば久慈駅は、ウニの聖地と言っても差し支えないのではなかろうか。ウニのサンクチュアリ。ウニのご神体。ウニのパワースポット。
中でも、久慈駅構内の『三陸リアス亭』で買える「うに弁当」は、ウニ好きなら一度は食べたい憧れの逸品。予約必須で、1日20個の限定販売なのだそう。
店頭で「うに弁当」を受け取った私は、息を整えながら駅前のベンチに座った。
ひと思いにふたを開けると、ウニの炊き込みご飯の上に、びっしりとウニが敷き詰められている。
見渡す限り、ウニ、ウニ、ウニ。ああ、こんなことが許されてよいのだろうか。このまま食べずに額縁に入れて飾りたい……。
「うに弁当」を、一口一口かみしめながら味わった。一口食べるごとに、終わりが近づいてしまう……あまりに神々しく尊い食べ物は、そういう切なさもはらんでいる。
海女衣装を着せてもらえる! 小袖海女センター
久慈駅からバスかタクシーで約40分。この旅の締めくくりに、『小袖海女センター』に寄ることにした。ここでは海女さんに関する展示や、海女衣装の試着を楽しめる。本物の海女さんが常駐しているため、夏には素潜り実演も見学できるのだという。
ウニを買い、ウニを撮り、ウニを食べ続けたこの2日間。最後には、日々誰よりもウニのそばで生きる海女さんの気分を味わいたい。海女さんの衣装を着せてもらいながら、私はこれまでに食べてきた数々のウニに思いをはせた。
これだけウニを食べ続けてもまだ、私の中のウニへの欲求は尽きていない。健やかなるときも、病めるときも、私はウニが好きだ。旅立つ前は正直、ここまでウニばかりを食べたら、ウニのことを嫌いになってしまうのではないか、そう覚悟もしていた。けれど、ウニへの愛が変わることはなかった。そのことに誇らしい気持ちすらある。
これが、誰かと一緒に来ていたら、ウニだけでなく、イカ、にんにく、りんごにせんべい汁、満遍なく青森や岩手の特産品を食べることになっていただろう。それはそれでまた別の楽しさがあるとは思うが、私がイカやりんごにかまけている時間、食べられることのないウニはどうなるのだろう。私が食べずして、誰がウニを食べるのだろう。旅行中の短い間くらい、大好物ばかりを食べ続けたい。そういう偏った食のわがままも、一人旅なら許されるのだ。
この記事の内容は2019年3月2日現在の情報です。
スポット情報
みなと食堂
住所:青森県八戸市大字湊町字久保45-1
電話:0178-35-2295
今回の旅の行程
【1日目】東京→八戸駅→陸奥湊駅 「みなと食堂」 「やま文」 「八戸市営魚菜小売市場」→本八戸駅 「ねね」(みろく横丁)
【2日目】久慈駅 「三陸リアス亭」→「小袖海女センター」→八戸駅→東京