南部鉄器をめぐる盛岡の旅。なんと3年待ち!その魅力に迫る
いま注文すると、届くのは3年後……? 生産が追いつかないほどの人気になっている盛岡の伝統工芸「南部鉄器」。何がそれほど人々を惹きつけるのでしょうか? 色? 形? 素材?
南部鉄器の始まりは江戸時代初期のこと。盛岡城築城により城下町が開かれ、鉄器の生産が始まりました。盛岡の歴史とともに生まれた、まさに盛岡を代表する伝統工芸というわけです。
実は最近、南部鉄器は国内外で注目を集めています。お茶文化が根付く中国で茶釜や鉄瓶が評価され、その影響で中国からの観光客が南部鉄器を求めて盛岡にやってくるようになったのです。その評判を受け、国内の需要も年々増加。若い世代にも人気が出てきました。
そのようなトレンドの中、伝統にとらわれない「カラフルな南部鉄器」「南部鉄器の急須」などが作られ、欧米をはじめ世界中に輸出され、人気を博しています。
今回は、地元盛岡で地域に根差したトレンドを発信する情報誌『てくり』の木村敦子さんに、いま人気の南部鉄器を“深〜く知る旅”をコーディネートしてもらいました!
「鈴木盛久工房」は南部鉄器400年の歴史そのもの
盛岡駅までは、東京駅から東北新幹線で2時間ほど。盛岡駅から最初の目的地を目指し、まずは歩いて江戸時代から続くという「肴町商店街」へ……。
歴史ある商店街にほど近い「鈴木盛久工房」で、今回の旅のコーディネーター木村敦子さんと合流しました。
木村さんは盛岡に特化した情報誌『てくり』のディレクター・デザイナーとして活躍する、いわば現地のスペシャリスト。木村さんには、「南部鉄器」というキーワードで盛岡を案内していただきます。
鈴木盛久工房の店内に入ると、数々の作品が目に飛び込んできます。
鈍く光った鉄器から放たれる、重厚な雰囲気に圧倒されます。
さっそく、代表取締役社長の鈴木成朗さんにお話を伺いました。
まずは、南部鉄器の歴史についてお聞きしました。
「盛岡の南部鉄器は4家が南部藩の御用鋳物師として競い合い、400年にわたって切磋琢磨してきました。初代が御用鋳物師として招かれたのが1625年。現在の15代目は、私の母が務めています」
軍需品以外の製造が禁止された太平洋戦争時には、存続の危機に陥りました。このままでは途絶えてしまうと職人が立ち上がり、政府に陳情。少人数のみではありますが、生産を続けることが許されます。職人たちの思いが、政府を動かしたのです。
「よく『鈴木家の南部鉄器の特徴は?』と聞かれますが、当主がそれぞれ好きなことを突き詰めてきたのが鈴木家の歴史で、『これが鈴木家』というものはありません。代々伝えられてきた技を引き継ぎながら、自分なりに突き詰めていくことが役目だと思っています」
南部鉄器の人気を歓迎しつつも、決しておもねらない。南部鉄器の歴史を担ってきたからこその言葉に、強い自負を感じます。
魂を込めて手作りされる南部鉄器。現在なんと3年待ち!
歴史について学んだあとは、いよいよ工房へ。お願いして、特別に見せていただけることになりました。
工房内にはさまざまな道具が所狭しと並んでいました。すべてきちんと整理され、大事に使われているのがわかります。
南部鉄器の制作工程は主なものだけで50を超え、すべて手作業で進められます。わずかな誤差があるだけで作品が台無しになってしまうほど繊細な工程の連続。季節の変化でも素材の状態が変わるため、どんな名人が手掛けても「100%の成功はない」と鈴木さんは言います。
ひとつ完成するのにかかる期間は2か月ほど。制作が注文に追い付かず、現在なんと3年待ちなのだとか! 15代目と4人の職人たちが魂を込めて1点1点作り上げる芸術品。決して安いものではありませんが、待ってでも手に入れたい人が多いのもうなずけます。
南部鉄瓶で沸かしたお湯で楽しむ、甘露な抹茶の世界
制作現場に触れた後は、実際に南部鉄器で入れたお茶を味わいたい!
そう木村さんに伝えると、岩手県民会館の裏口側にひっそりと佇む「喫茶 carta」へ連れて行ってくれました。
抹茶、ミルク抹茶、またはお茶を注文すると、先ほど訪ねた「鈴木盛久工房」の鉄瓶で沸かしたお湯で、お茶を立ててくれます。お茶の種類は時期によって変わるとのこと。盛岡のおいしいお水が沸騰するまでのひとときも、また楽しい時間です。
お店の雰囲気を楽しみながら、待つことしばし。お茶が運ばれてきました。
飲んでみると、どれも口当たりが優しくほっとする味わいです。店長の加賀谷さんは「鉄瓶で沸かしたお湯はまろやかな口当たりになるので、抹茶には鉄瓶が合う」といいます。
試しに……と出していただいた、普通のヤカンで沸かしたお湯と味を比べてみると、そこには明らかな差が! 舌触りがやわらかく、体の中にスッと沁みて染みていくような不思議な感覚がありました。
南部鉄瓶は、使用するたびに内側に「湯あか」(水に含まれるさまざまな物質)が付着し、これがサビを防止したうえ、味わいを一層深めてくれます。cartaの鉄瓶は2006年のオープンから使い続けているそうですが、「まだ薄くコーティングされているくらいですね」とのこと。
時とともに育っていく南部鉄器。新たな楽しみ方を教わりました。
餃子にアヒージョ。南部鉄器グルメにはビールが合う!?
1日目の最後は、盛岡駅からほど近い、南部鉄器を使ったメニューが並ぶ「AeronStandard」へ。
お洒落な店内にはオレゴン州ポートランド産をメインとしたさまざまなビールが並び、和の雰囲気の南部鉄器とは違う、多国籍なメニューがそろいます。
店長の山田さんによれば、岩手県の食材を南部鉄器で調理し、県産木材のプレートに載せて提供している、とのこと。世界に目を向けつつも、地元の文化にもこだわっているんですね。
今回は、南部鉄器に載せたまま提供されるオリジナルメニューを注文!
南部鉄器は保温性が高く、料理をアツアツの状態で長時間楽しめるのもポイントです!
南部鉄器のテーマパークへ!
2日目は業界最大手のメーカー「岩鋳」のテーマパーク型工場「岩鋳鐡器館」へ。
中に入ると、巨大な鉄瓶などが展示されています。実際に盛岡市内に立っているという、南部鉄器の街灯も! 南部鉄器の守備範囲の広さを感じます。
ゆっくりと展示を見ていくと、工房にたどり着きました。こちらでは実際の作業を見学することができます。
この日はタイミング良く、鉄を型に流し込む作業を見学できました。高熱で溶かされた鉄の温度は1,500℃! この緊張感のある作業を間近で見学することができるのは、かなり貴重です。
ちなみに、鉄を流し込む作業は、金曜の13時半くらいから行われることが多いそう。ただし、厳密に決まっているわけではないので、確実に見たい場合は事前に確認を。
大迫力の流し込み工程は、動画も撮影しました!
帰り道、南部鉄器の街灯を発見! 南部鉄器は、盛岡という街に根付いているんですね。
1泊2日の「南部鉄器ゆかりの場所を訪ねる旅」。南部鉄器の文化が400年もの間受け継がれていることを知り、地元の人々の生活に根付いているのを感じることができました。
盛岡観光の際は、ぜひ南部鉄器をご覧になってみてください。
この記事の内容は2019年3月2日現在の情報です。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR盛岡駅→鈴木盛久工房→喫茶carta→AeronStandard
【2日目】岩鋳鉄器館→JR盛岡駅→JR東京駅