緑の香り、風の音、刻々と変化する気温……。自然を肌で直接感じられるのは自転車の旅ならでは。自然豊かなサイクリングコースの中で、東日本のチャリダーに人気なのが長野県の安曇野です。私もそんな安曇野ファンの自転車乗りのひとりで、ここ数年は毎年欠かさず走りに行っています。
そびえ立つ雄大な山々、のどかな田園風景、そしておいしい信州グルメの数々! 何度走っても素晴らしい、見どころ食べどころ満載の初夏の安曇野を、ロードバイクで駆け抜けてきました。
【行程】
海のない内陸県の長野での自転車旅というと、自転車で山に登る“ヒルクライム”を想像する方も多いかと思いますが、今回は平地を中心に80kmを走ります。
山に登らずとも、身近に山を感じることができるのが、盆地である安曇野のいいところです。
輪行とは、自転車を専用のバッグに入れて、列車や飛行機などの公共交通機関を使って運ぶ方法のことです。輪行をすることで、日本のいろんな地域でサイクリングを楽しめます。
駅前でロードバイクの前輪と後輪を外し、専用のバッグに収納したら、輪行旅の準備完了です。輪行袋を担いだら、JR新宿駅から特急スーパーあずさに乗り込みます。
車両最後尾のシート後ろに輪行袋を収納し、列車に揺られること2時間30分でJR松本駅に到着。列車を降りれば、そこはもう信州! 遠く雄大な山々が迎えてくれます。
ロードバイクを組み立てたら、さっそくサイクリングスタート。今回メインで走るのは「あづみ野やまびこ自転車道」というサイクリングロードです。自転車専用につくられた道路なので、車を気にすることなく、安心して走ることができます。
松本駅を出発したら、奈良井川沿いを抜けてスタート地点に向かいます。
あづみ野やまびこ自転車道は、江戸後期に作られた農業用水路、拾ヶ堰(じっかせぎ)に沿って走れる全長40.6kmの自転車道です。今回は、北アルプスを眺めながら、松本から安曇野まで約20kmを走ります。
のどかな田園風景の遠く向こうに、常念岳をはじめとする北アルプスの山々が姿を現します。ペダルをこぐたびに初夏の爽やかな風がふわっと通り抜けていくのが気持ちいい! 美しい絵画の中を走っているようです。
信州といえば、やっぱりおそば! スタート地点の松本駅から走ること20km。自転車道を抜けて、お昼はJR穂高駅の近くにある「そば処上條」でいただきました。
温泉卵、小エビの天ぷら、そば焼き味噌、鴨の燻製など個性豊かな10種類の具材と、細くてコシのあるおそばがよく合います。
そばの風味を味わうために、一緒に提供されるのが水そばです。ひと口すすると、そばのやわらかい香りと甘味が、鼻からふわっと抜けていきます。そばと水に自信があるから出せる一品ですね。
このお店のもうひとつの看板メニューがアップルパイ。一昼夜煮込んだ丸ごとりんごとカスタードクリーム、バターの効いたサクサクパイ生地の組み合わせが絶品! おそばはもちろん、アップルパイを食べるためだけに立ち寄る価値アリです。
腹ごしらえも終わったので、ここからは長峰山(ながみねやま)に登ります。長峰山は標高933.5メートル。山頂は北アルプスを正面に安曇野の犀川(さいがわ)、高瀬川、穂高川の三つの川が合流する様子を一望できる絶景スポットです。
頂上までは補給できる販売機などがないので、必ず水分を準備しましょう。
山道のジグザグつづら折りを走ること6km……
この日は空がかすんでいたため、残念ながら北アルプスがクリアに見えなかったのですが、お天気がよければそれはそれは美しい景色が見えるそうです。ちょっぴりつらい登り道ですが、安曇野のパノラマビューは、頑張りがいがある見応えです。
ここからは自転車道を外れて、安曇野市内を走ります。
訪れたのは信州七福神のひとつ「吉祥山東光寺」です。金剛力士像が納められた山門の前には、吉祥仁王様の下駄と呼ばれる大きな赤い下駄が並んでいます。
この大下駄は、履くと願い事がかなうといわれているそうです。
長野県はわさびの生産量が全国第1位ですが、その約9割が安曇野市で作られています。市内にあるたくさんのわさび田の中でも群を抜いて大きいのが、4万5,000坪の広さを誇る「大王わさび農場」です。
湧水の水温は、1年を通して平均13度に保たれているそうです。透明度が高い水は、そのまますくって飲めるほどきれいです。
一番人気の本わさびソフトクリームは、ほんのりわさび風味の爽やかな味わいです。わさび味なのに辛くないなんて不思議! わさびとミルクがこんなに相性いいなんて、新たな食の発見でした。
自転車に付けられるお土産ということで、わさびベアのゆめちゃんを購入し、サドルバッグに付けてみました。手にわさびを持ってます!
車通りの少ない裏道を通り、松本に戻ってこの日のライドは終了です。今日走った距離は70km。松本駅前のホテルに宿泊。ホテルのコインランドリーでサイクルジャージを洗濯し、明日に備えます。
2日目は帰りの列車までの時間を利用して、松本市内を気ままに走りました。
松本のシンボルといえば、なんといっても「国宝 松本城」。その美しい漆黒の外観に、市民からは烏城(からすじょう)とも呼ばれています。
ロードバイクを近くの駐輪所に止めて、足元に注意しながら細く急な階段を登り、最上階の6階に到着!
この日は気温33度を超える真夏日だったのですが、天守閣はとても風通しがよく、驚くほど涼やかでした。
松本城から北に少し走ると、和洋折衷の建造物である旧開智学校校舎が立っています。
そばやわさびなど、信州名物をめぐってきましたが、忘れちゃいけないのがお味噌! 皆さん、日本で使われているお味噌の48%以上は長野県で作られているって、知っていましたか? 長野県は味噌王国でもあるんです。
今回ランチに訪れたのは「石井味噌」です。
こちらでは、敷地内の味噌蔵を見学することができます。一歩足を踏み入れると、お味噌のいい香り~!
大樽で3年発酵させる伝統的な信州味噌の製法やこだわりなど、ご主人がお味噌について丁寧に教えてくださいます。
味噌蔵を見学した後は、店内でランチをいただきます。三年味噌を使った豚汁、味噌焼きおにぎり、味噌アイス……と、まさに味噌ずくめ!
アツアツの豚汁をひと口すすると、お味噌の旨味と豚肉の脂が混ざり合った、まろやかでコクのある味が広がります。普段家で作っているお味噌汁と味の深さが全然違う! これが3年熟成させたお味噌の旨味なんですね。あぁ、しみじみおいしい!
ランチは予約制なのですが、お味噌汁の試飲はいつでも行っているとのことなので、立ち寄った際はぜひ飲んでみてくださいね。
店内では、味噌を使った幅広い商品も購入することができます。私は、お土産に、三年味噌と十年熟成味噌ソースを購入しました。
最後に立ち寄ったのは、カラフルな水玉で覆われた松本市美術館です。建物自体が、松本市出身の世界的作家、草間彌生さんの作品になっています。鮮やかな色味と近代的な建物がよく調和していて、カッコいい!
美しい日本の原風景の中を走り抜けた今回の旅。青い空、緑豊かな田園、北アルプス、この3つが一度に味わえる安曇野は、やっぱりサイクリングの最強スポットです。
「どこか景色のいいところへ走りに行きたいけど、いったいどこに行けば?」と悩んでいるチャリダーは、是非とも安曇野へ行ってみてください。素敵なサイクリングが楽しめますよ。
この記事の内容は2019年3月2日現在の情報です。
今回の旅の行程
【1日目】JR新宿駅→JR松本駅→あづみ野やまびこ自転車道→そば処上條→長峰山→吉祥山東光寺→大王わさび農場→JR松本駅
【2日目】松本城→旧開智学校→石井味噌→松本市美術館→JR松本駅→JR新宿駅