現美新幹線で現代アートを鑑賞! 世界一速い美術館!?
黒光りする流線形のフォルム。車体をキャンパスに、大胆かつ繊細に描かれた極彩色の花火。“世界最速の芸術鑑賞”というキャッチコピーの「現美新幹線」。現美、とは現代美術の省略です。つまりこの現美新幹線とは、新幹線そのものが現代美術館の新幹線なのです! その新幹線とは思えない艶やかさに、胸は高まります……。
というわけで、初めまして。鉄道大好きなアイドル伊藤桃です。乗り鉄という趣味が高じて、JR全線の“完乗”までしてしまいました。そんな私ですが、まだ現美新幹線には乗ったことがなく……。今回は念願かなって乗りに行ってまいりました!
※現美新幹線は2020年12月に運行終了しました。
新潟で新鮮な海の幸と絶景を楽しむ!
まずは現美新幹線のスタート地点へ。JR東京駅から上越新幹線に乗って、新潟へと向かいます。
だんだんと木々の緑が濃くなっていく車窓を眺めつつ、約2時間。あっという間にJR新潟駅へ到着しました。
現美新幹線は新潟駅~JR越後湯沢駅間だけの運行で、運行日も基本的に土・日・祝日のみなので、今回は新潟駅周辺で一泊し、翌日に現美新幹線を満喫する計画です。
新潟駅を訪れるのは本当に久しぶり。在来線ホームに止まっている青と水色のラインに彩られた新潟色の115系を見て、「ああ久しぶりに新潟へ来たなぁ」と、うれしくなりました。
せっかく新潟の夜を過ごすのだから、列車を眺めるだけではなくて、おいしいものも食べたい!
新潟といえば「米どころ」&「日本海の魚」!……ということで、新潟駅から徒歩15分、新潟名産の食料品店から食事処までがそろった大きな市場のような複合施設「ピアBandai」へ。東京では考えられないような広い敷地の中に建ち並ぶお店は、どこも魅力的。その中から選んだのは「廻転寿司弁慶 新潟ピア万代店」です。
回転寿司と侮るなかれ。こちらは新潟や佐渡で獲れた地元の魚を2貫130円からとリーズナブルに味わえる、地元でも評判のお店なんです。
ぐるぐると回ってくる寿司はどれもがおいしそうで、思わず目移りします。
驚いたのは「のどぐろ」が回っていること! あの超高級魚が、なんと2貫で520円!
少し炙った、脂ののったのどぐろに、ふっくらとしたシャリが絶妙なバランス。口の中でとろけてしまいました。
気軽に絶品の寿司を楽しめる「弁慶」さん、おすすめです!
さて、おなかもいっぱいになったところで、今回の宿、ピアBandaiから徒歩圏内の「ホテル日航新潟」に向かいました。このホテル、客室の居心地のよさはもちろんですが、とにかく夜景がきれい!
思わぬところで出合えた絶景に、感動してしまいました。
いよいよ憧れの現美新幹線に乗車
さて、いよいよ現美新幹線へ……といきたいところですが、発車まで時間があったのでせっかくならばと朝の新潟の景色を見るために、ホテルの最上階31階にある「Befco ばかうけ展望室」へ。
新潟の街並み、そして遠くに佐渡島が眺められる絶景スポットでした。残念ながら走行している新幹線は見られなかったのですが、新幹線の線路も発見できました。
さて、ホテルをあとにし、駅へと向かいます。新潟駅から越後湯沢駅まで、現美新幹線でのアートの旅が始まります。
エスカレーターの脇に貼られた現美新幹線の写真を眺めながら、ドキドキしつつホームへと向かいました。ついに憧れの現美新幹線とのご対面です。
「かっこいい……!」
そこにあるのは、まさにひとつのアート。
外観デザインは、アーティストとして著名な蜷川実花さんが担当。車両ごとに、長岡の花火大会を映したさまざまな写真を使っているそうです。
ただ花火をそのまま写し出しただけではない、その独特の色使いに、すっかりやられてしまいました。窓がない車両もあり、車体全体に広がるダイナミックなアートを楽しめます。
外装だけではなく、車内でもアートが堪能できます。
写真家の石川直樹さんや、アメリカのアーティストのライアン・アルフレッドさんの映像作品など、一車両ずつ異なるアーティストの手掛けた作品があり、新幹線全体が美術館そのものなのです。
6両編成なのに指定席が1両しかないのが不思議だったのですが、車内に入ってみて、すぐに合点がいきました。
この現美新幹線は、“乗る”だけじゃなくて“楽しむ”ための新幹線なのです。自由に移動して楽しむために、ほとんどが自由席になっているのでしょう。車両にあるのは、ゆったりとしたソファーとアート作品。
ソファーは窓を背にして配され、展示物を眺めながらくつろぐことができます。乗客の皆さんは、自由にひとつひとつのアートを楽しんでいました。
走り始めた現美新幹線。まずはすいているうちに――と、カフェでひと休みすることにしました。この現美新幹線には、おしゃれなカフェもあるんです。燕三条で人気の「ツバメコーヒー」監修のコーヒーや、地元素材のスイーツが楽しめます。
3種類あるスイーツの中から私が選んだのは、ガトーショコラ。通常のくるみより硬い殻に覆われ、濃厚な味わいの魚沼産「鬼くるみ」を使っているそうです。
ゆっくりと流れゆく新潟市郊外の田園風景は、まさに生きた風景画のよう。しっとりとおいしいガトーショコラに舌鼓を打ちながら、風景を観賞します。うーん、贅沢!
このカフェには、古武家賢太郎さんの作品が飾られています。かわいらしくもどこかシニカルな水彩画が、カフェの雰囲気にぴったりで、とても居心地がよい空間でした。
カフェからは青色に彩られたキッズスペースが見え、子どもたちが無心で遊んでいました。
車両ごとに異なる現代アート作品を堪能!
贅沢なひと時を過ごしたあとは、“美術館”めぐりのスタートです。まずは11号車にある、1両だけの指定席から。
車両に入ると、どこか近未来的な黄色にきらめいた車内が出迎えてくれました。トンネルの中で下ろしたカーテンにアートが映るようになっているそうです。
12号車は、打って変わって鏡張りの世界でした。
流れゆく外の景色と自分が旅する空間を鏡越しに見ることができるという、なんとも不思議な世界。
続いて13号車にある、最初に向かったカフェ、キッズスペースを抜け、写真が展示されている14号車へ。今回私が一番気に入ったのが、この車両でした。
写真はその人の見ている世界を切り取って映し出す、と私は思っているのですが……そこにある石川直樹さんが撮影した写真はまさに私が見ている、私の好きな世界の姿でした。
春夏秋冬うつりゆく新潟の自然や人々の暮らしをそのまま、だけど二度とない瞬間で切り取られた写真。
淡い日常の中に、世界の美しさは隠れている。そんな美しさが凝縮されている写真に、ただ圧倒されるような共感を覚え、じっと写真を見続けていました。
その次は、ふわふわと浮遊するように、糸につるされた作品でした。
荒神明香さんの作品です。
かわいらしい見た目ですが、列車の振動に合わせて揺れる展示物を眺めていると、どこか不安な気持ちにもなる……。ファンタジックな世界にいざなわれるよう。
ああ現代アートっていいなぁ。
そしてあっという間に最後の車両です。16号車は、映像を使ったアートです。4つの大きなモニターがあり、それぞれに新潟の四季を想起する映像が流れていきます。まるでもう1つの車窓のように、流れていく風景を楽しむことができました。
新潟駅から越後湯沢駅までは、わずか1時間ほど。すべての車両を見終えたころには、越後湯沢駅に到着していました。
正直まだまだ乗っていたかった……。ただ列車に乗っていただけとは思えない、濃厚な時間を過ごすことができました。
お酒にグルメに温泉! 駅ナカが楽しい越後湯沢駅
越後湯沢駅構内には、新潟の特産品が買えるショップや、地元産食材にこだわったレストランなど、さまざまな施設が集まるショッピングセンター「CoCoLo湯沢」があります。越後湯沢駅に行くなら、立ち寄りはマストです。
中でもおすすめは「越後のお酒ミュージアム ぽんしゅ館 越後湯沢店」! 店内には6つの店舗がそろいます。
「利き酒【越乃室】」では、おちょこ一杯100円ほどで日本酒のテイスティングができます。新潟の、すべての酒蔵の利き酒ができるそう。100種類以上ある日本酒に、ひとつひとつ味の説明があって……うーん、どれもおいしそう!
普段あまりお酒は飲まないのですが、フルーティーなものが多く「日本酒ってこんなにおいしいんだ!」と実感しました。
さらに「越後 爆弾おにぎり 雪ん洞」で、大きなお釜で炊き上げた南魚沼産コシヒカリを職人が握った、こーんなに大きな爆弾おにぎりを食べたり……。
こちらは一番人気のしゃけ味です。
駅前の足湯で、のんびりと風を感じながら旅の疲れを癒やしたり……。
最後まで新潟を満喫することができました。
魚に日本酒にお米と、おいしいものたくさんの新潟、そして“乗る”だけではなくて“楽しむ”という、新しい列車の楽しみ方を提案してくれる現美新幹線。
体も心も満腹になれる旅、週末ぶらりと行ける、おすすめの旅です。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR新潟駅→廻転寿司 弁慶 新潟ピア万代店→ホテル日航新潟
【2日目】朱鷺メッセ→JR新潟駅→現美新幹線→JR越後湯沢駅→越後のお酒ミュージアム ぽんしゅ館 越後湯沢店→越後 爆弾おにぎり 雪ん洞→JR東京駅