今回の列車旅ポイント
アートブログ「青い日記帳」を毎日更新しつつ、『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)、『カフェのある美術館』(世界文化社)などアートを身近に感じられる本を書いているTak(タケ)です。
以前、「美術ブロガーが伝授!青森のアートスポットを楽しむ10のポイント」でご紹介した、「十和田市現代美術館」「青森県立美術館」に引き続き、弘前にも新しい素敵な美術館が今年オープンしています。事前リサーチによると何でも、弘前には美味しいフレンチのお店も多いとのこと。アートと美味しいものがあると聞いたら行かねばなりません。
東北新幹線「はやぶさ」でJR東京駅からJR新青森駅まで約3時間、奥羽本線へ乗り換え約40分でJR弘前駅へ到着します。
弘前市は初めての訪問でしたが、コンパクトな街なので観光スポットへは全て徒歩圏内。歩くのがちょっと……という方にはレンタサイクルや市内観光に便利な100円バスもあるので安心です。
最初に目指すのは2020年7月にオープンした「弘前れんが倉庫美術館」。駅からてくてく彫刻が点在する道を歩きながら16分ほどで到着。館内はコロナ対策も万全でした。(検温、アルコール消毒、連絡先記入)
美術館の名所に「倉庫」と付くのはとても変わっていますよね。でも理由を知れば納得。そう、ここは明治・大正期に建てられた煉瓦倉庫をリノベーションした美術館なのです。
「吉野町煉瓦倉庫」「吉井酒造煉瓦倉庫」と呼ばれ地域の人に長い間親しまれてきた場所の記憶と歴史を継承するために、あえて「れんが」を美術館の名称にのこしたのです。
エントランスでは奈良美智さんのワンコがお出迎えしてくれます。
展示室は1階と2階で、一般的な美術館のような特別展・常設展という枠を取り払い、自由な展示プログラムが出来るようになっています。
ワークショップや美術書の閲覧ができるスペース(ライブラリー)も確保され、天井が高く全体的にとても余裕を持った造り。他に類をみない美術館です。
この空間にいるだけで、建物の歴史を肌で感じ取れ、現実生活とは違う場所にやって来たことを強く感じます。
弘前れんが倉庫美術館を担当した建築家の田根剛さんの目指した「記憶の継承」と「風景の創生」が見事に果たされていることを実感しました。
取材時(2020年9月)は、2020年 開館記念の春夏プログラム「Thank You Memory —醸造から創造へ—」が開催されていました。2020年10月10日から2021年3月21日までは、秋冬プログラム「小沢剛展 オールリターン —百年たったら帰っておいで 百年たてばその意味わかる」が開催されています。
さて、歴史ある建築空間でたっぷりアート作品を満喫すると、お腹が空いてきます。
美術館に隣接する「cafe & shop BRICK」へ。ここも美術館同様に田根剛さんが建築デザインを担当しています。
全国各地の美術館・博物館に併設されたレストランやカフェを巡ってきましたが、ここの料理は間違いなくベスト3に入るクオリティーの高さでした。
しかもお値段もとってもリーズナブル。シェアランチAは、サラダ、スープ、バゲット、本日のおすすめ料理、ミニデザート、飲み物が付いて1,450円(税別)です! そして美味しいとあれば言うことなし!!
※シェアランチは2名様からの注文となります。
弘前れんが倉庫美術館へ来たら絶対に立ち寄りたいレストランです。地元の方も大勢いらしていて、昼時は事前に予約しておくのが賢明かもしれません。
さらに、是非飲んでもらいたいのが、シードル(りんご酒)です。
弘前は、国内で初めて大々的にシードル生産が行われた場所です。そしてここ弘前れんが倉庫美術館も、もともとはシードルを製造する酒造工場だったのです。
そんな美術館の敷地内に、「A-FACTORY 弘前吉野町シードル工房」がオープンし、オリジナルのシードルを作っています。
もう、これだけでも弘前に来た目的を十分果たした気分になります。でもでも、まだまだ市内には見どころや美味しいお店が沢山あります。
弘前れんが倉庫美術館から弘前公園内にある「弘前市立博物館」まで徒歩20分ほどで到着。ここもコロナ対策は万全。(検温、アルコール消毒、連絡先記入)
弘前市立博物館は、建築作品群が世界遺産に登録されたル・コルビュジエのもとで学んだ建築家・前川國男が、1976年(昭和51年)に手掛けた建物です。
弘前市は、「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」の世界文化遺産登録を契機とし、日本の近代建築の旗手である前川國男の建築作品を文化交流拠点などに活用している8自治体(弘前市含む)とともに「近代建築ツーリズムネットワーク」を2016年に設立しました。(現在は9自治体に拡大)
弘前市では前川國男がコルビュジエのもとで学んだ後、帰国し最初に手掛けたデビュー作品である「木村産業研究所」から、晩年作品である「弘前市斎場」まで8作品が現役で利用されています。
どうでしょう、この前川建築の美とモダンを備えた完成度の高さ。何枚も写真を撮ってしまいました。
弘前公園の自然を堪能できるよう、1階のロビーは大きなガラスで覆われ開放感のある空間となっていてとても居心地がよく、心休まる場所です。
前川國男は、この博物館を建てる際に弘前城の景観との調和を重視し、樹木を伐採しないプランを立案し実行したそうです。お天気の良い日はここから雄大な岩木山の絶景が観られます。
博物館に隣接する弘前市民会館も前川國男が手掛けています。
日も暮れかかってきたので、徒歩約20分、今日の宿である「弘前パークホテル」へチェックイン。市街地の中心部にありどの観光地へ行くにも利便性の高いホテルです。
ホテルの朝食で地元産のりんごを使ったりんごジュースを飲んで、いざ2日目の弘前観光へ。まず向かったのがホテルから徒歩約17分の「スターバックス コーヒー 弘前公園前店」。
わざわざ東北まで行ってスタバ?! と思うかもしれませんが、弘前にあるスタバはとってもスペシャルなお店なのです。
クラシックな平屋建てのスタバは、もともと陸軍第八師団長官舎として大正6年(1917)に建てられた建物です。
日本で2店舗目となる登録有形文化財の店舗は、柱や梁を外壁に露出させたハーフティンバー風の造りや可愛らしい三角形の屋根の形状など、大正ロマンを感じさせる空間です。
内装には伝統工芸品である津軽こぎん刺しをあしらったソファーや地元の工芸品をふんだんに使い落ち着きのある空間となっています。
コーヒーをテイクアウトし、東京ドーム10個分以上の広さを誇る弘前公園をのんびりと朝の散歩。
春は桜の名所として名を馳せている弘前公園ですが、四季折々の自然美を満喫することができ、これからの季節は紅葉が目を楽しませてくれます。
また弘前市内には明治、大正、昭和初期に建てられた洋館も数多く残されており、それを見て回るだけでも有意義な時間を過ごせるはずです。
洋館と共に弘前に多いのがフランス料理のお店です。
約17万人の弘前市の人口に対してフランス料理の飲食店が街のあちこちにあり、人口比では日本一ともいわれています。
明治初期から宣教師がこの地に教会を開き、早くから外国人が暮らしていたこともあり、弘前市民の間に洋食文化が広まりました。
今回はスタバから徒歩約20分、老舗の「フランス食堂 シェ・モア」でランチをいただきました。驚いたことに、他のテーブルの方はみな地元(津軽弁での会話)のしかも馴染みの方(「今日はこれをいただくわ」と店員さんと気さくに会話)たちばかりでした。
地元の方に愛される理由は食べてみればすぐに分かります。脂分控え目でさっぱりしていながら、食べ応えは十分。
写真の肉料理にのっているのは青森特産の山菜「ミズ」です。夏から秋にかけて実をつけるミズを食べられるのはまさに今! 旬の野菜を地元で味わえるのは旅の一番の贅沢です。
こんなにも美味しいフルコースのお料理(B-Lunch)が2,800円(税別)で頂けるのですから弘前市の方は幸せです。必ず予約してから行きしょう。
アートと食を巡る弘前の旅もそろそろ終わりが近づいてきました。徒歩約8分、弘前駅へ戻ります。奥羽本線の列車を待つ間、「弘前駅ビル アプリーズ」の1階でお土産を購入。
太宰治『津軽』の文庫本? ではありません。こちらは「林檎ファイバー入りクッキー 津輕文庫本サイズ」です
さらに、青森県産のりんごをまるごと1個パイで包んで焼き上げた贅沢アップルパイ「気になるリンゴ」と、青森県産りんごを大きめにカットし、スポンジ生地と一緒にそのままパイで包んだ「パティシエのりんごスティック」、青森県産のお米「つがるロマン」を粉にしてチョコレートに混ぜ込んだ「パティシエのショコラろまん」は外せません!
りんご畑があちこちに車窓からも見られます。赤く熟し収穫を待つりんごたちに「また来るよ~」と別れを告げ弘前を後にし、帰路に着きました。
レトロな洋館と新しい美術館が共存する魅力あふれ、見どころたっぷりの街・弘前へ皆さんもぜひ出かけてみて下さい!
掲載情報は2020年11月12日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR新青森駅→JR弘前駅→弘前れんが倉庫美術館→CAFE & RESTAURANT BRICK→弘前市立博物館→弘前パークホテル
【2日目】弘前パークホテル→スターバックス コーヒー 弘前公園前店→弘前公園→フランス食堂 シェ・モア→弘前駅ビル アプリーズ→JR弘前駅→JR新青森駅→JR東京駅