この世界には温泉というものがある。地下から湧き出たお湯のことだ。旅に出て温泉があるとテンションが上がる。温泉街を浴衣で歩くのも乙だ。大人の旅とは温泉をメインに据えたものかもしれない。
有名な温泉地はいくつもあるが、その中でも横綱級なのが「鳴子温泉郷」ではないだろうか。宮城県大崎市にある温泉地で、山形との県境、山深い所に位置する。鳴子温泉郷には源泉が370以上存在し、日本に存在する11種類ある泉質のうち、9種類が鳴子温泉郷にはあるのだ。温泉といえば鳴子なのだ。
鳴子温泉郷は鳴子温泉、東鳴子温泉、川渡(かわたび)温泉、中山平(なかやまだいら)温泉、鬼首(おにこうべ)温泉の5つから構成されている。そして、4つの共同浴場が存在する。この4つすべてに入ってみたいと思う。共同浴場という、地元の方が入る温泉に入るのだ。
せっかくの鳴子温泉郷なので、浴衣を着てみた。東京駅から着るのは早すぎたな、と思う。理由としては寒いのだ。ただ寒い時期の温泉は気持ちがいい。むしろ、この格好こそが正解なのだ。
強がってはみたけれど、すぐに着替えた。東京駅7時16分発の新幹線なのだ。寒くて、寒くて仕方がないのだ。鳴子温泉郷は、東京より寒いだろう。こんな格好をしていられないのだ。
東京を7時すぎに出て、10時には鳴子温泉駅に到着した。早い。乗り換えは1回だけ。3時間くらいで到着してしまうのだ。映画「タイタニック」とほぼ同じくらいの時間。そんなわずかな時間で高い建物が並ぶ東京とは違う、趣ある温泉地になるのだ。
電車を降りた瞬間に硫黄の匂いがした。11月後半のこの日、鳴子温泉の気温は5度。浴衣で来なくて本当によかった。震えが止まらなかったと思う。この格好でも寒いのだ。そんな冷えた体を鳴子温泉の共同浴場で温めようと思う。まずは「鳴子・早稲田桟敷湯」に向かった。
名前からも分かるように、こちらの共同浴場は戦後間もない頃、掘削の実習で早稲田大学の学生が堀り当てた温泉だ。共同浴場になっており、地元の人は無料で、観光客も540円で入ることができる。
冷えた体にしみる。お湯にとろみを感じる。片栗粉が入ってんじゃないのか、と思うほどだ。実際はトロトロなんてしていないのだけれど、体をやさしく包み込む感じだ。やはり温泉。普通のお湯とは違うのだ。
温泉を出て驚いた。寒い日だったので、次の温泉までに体が冷えてしまうだろうと思っていた。しかし、ポカポカなのだ。温泉により体の芯まで温まっているのだ。今なら浴衣でも大丈夫かもしれない。東京駅のコインロッカーに浴衣は置いてきたけれど。
「早稲田桟敷湯」から徒歩5分ほどの場所にある「滝の湯」。鳴子温泉で一番古い温泉だ。1000年以上の歴史を持つ由緒正しき温泉である。木造の建物からも雰囲気を感じる。浴衣が似合うだろう。東京駅のロッカーに置いてきたけど。
湯気が充満している。木造の建物や、浴槽の面積など、今の建築基準では建てることのできない建物だ。先の施設から5分ほどなのに、泉質が異なるのもポイント。早稲田桟敷湯が「含食塩・芒硝泉」で、こちらは「酸性含明ばん・緑ばん・芒硝硫化水素泉」。少しの距離で泉質が変わるのも鳴子の特徴だ。
お湯も熱かった。地元の人に聞けば、冬場でも10分くらい、夏場なら5分で出る、と言っていた。そのくらいの時間で体が芯から温まるのだ。そして、冷えにくい、というのもポイント。これが温泉パワー。値段も150円と破格だった。
滝の湯を後にして、「鳴子観光ホテル」に向かった。滝の湯からは徒歩2分くらいだ。こちらは共同浴場ではない。ただ今夜、ここに泊まるので入ることにしたのだ。もっとも日帰り入浴は行っていて、「湯めぐりチケット」を買うとよりお得に入ることができる。
湯めぐりチケットは鳴子温泉郷の5つの地域で使うことができる。普通にお金を払って入るより、お得になるのがうれしいところ。私は鳴子温泉駅で購入した。鳴子観光ホテルは泊まれるので、使わなかったけど。
いいホテルだったので、少し早くチェックインした。15時である。これが贅沢。せっかく遠出したらいろいろ行きたい、ってなるじゃない。でも、行かないのだ。ホテルを楽しむのである。
やはり滝の湯とも、早稲田桟敷湯とも泉質が異なり、今度は「硫黄泉」である。白く濁ったお湯が、ザ・温泉という雰囲気だ。お湯がやさしい。包み込む感じなのだ。母のやさしさ的なお湯だ。こんなに幸せでいいのか、と困るほど素晴らしい。
お風呂が終われば部屋でまったりして、いよいよ夕食となる。朝も早かったので、ホテルでひと休み、と思っていたけれど、もったいない! という貧乏根性でホテルの温泉に何度も浸かってしまった。
最高である。人生にピークがあるとすれば今だ。温泉に3箇所入り、豪華な晩御飯を食べる。
川渡温泉浴場 ぐっすり眠り、朝が来た。また豪華な朝食を食べて、ホテルの温泉に入り、2日目のスタートである。こんなに豪華なスタートがあっただろうか。私の人生のウィキペディアを脳内で読んだけど、なかった。初体験だ。
鳴子温泉駅で駅レンタカーを借りて、まずは「川渡温泉」を目指す。車で20分ほどの場所だ。ちなみに鳴子温泉駅から川渡温泉とは逆に20分ほど走れば、山形県になる。仙台までの方が遠い。ただ鳴子は完全な仙台の文化圏で、わずか20分の山形とは言葉とかも違うそうだ。
鳴子温泉は温泉地、という感じだったけれど、川渡温泉は人の住む場所、という雰囲気だ。ここに「川渡温泉浴場」があるのだ。雰囲気が素晴らしい。この施設には番台さんもいない。お客さんしかいない場所なのだ。ちなみにこちらも、料金は良心的な200円。自分で料金箱に入れるシステムだ。
こちらは「含重曹・硫黄泉」である。何より「熱い」のがポイント。熱湯として有名で、熱いお風呂が好き人はこぞってここにやってくるそうだ。たしかにその通りで熱かった。お湯が噛み付いてくるのだ。ただやさしい感じもする。甘噛みのようなお湯なのだ。
これで3つの共同浴場に入った。残りは1つ。それは鬼首(おにこうべ)温泉にある。山の中にある温泉で、車で山道を行く必要がある。川渡温泉からだと車で45分くらいだろうか。運転が下手な私には緊張感のある山道である。
共同浴場「すぱ鬼首の湯」は露天風呂があり、高原のそよ風を感じることができる施設だそうだ。今回の旅で楽しみにしていた施設の一つだ。山道を走るのは嫌だけれど、ここに行けるならと思っていた。とにかく楽しみにしていたのだ。
こちらの施設は11月の中頃から4月の中頃まで休業らしい。知らなかった。この45分はなんだったのだろう。雪やらがすごい場所なのだろう。休業しちゃうに決まっているのだ。山道を頑張って走ったのに。休業を見たときの驚きはすごかった。
すぱ鬼首の湯が休業中だったので、「ホテルオニコウベ」にやってきた。こちらは共同浴場ではないけれど、日帰り入浴ができる。鬼首まで来たのだから、温泉に入りたかったのだ。素晴らし景色を見ながら入る温泉は目でも楽しめる温泉だった。
こうして、鳴子温泉郷の旅は終わった。少し調べれば分かる「すぱ鬼首の湯」の休業以外は素晴らしい旅だった。東京から3時間という立地もいい。何回「最高です」と叫んだだろうか。ふらりと訪れるときの選択肢の最上位に、鳴子温泉があっていいと思う。浴衣はこの時期寒いけど。
この記事の内容は2019年4月9日現在の情報です。
鳴子温泉旅館組合
住所:宮城県大崎市鳴子温泉字湯元2-1
電話:0229-83-3441
今回の旅の行程
【1日目】東京駅→古川駅→鳴子温泉駅→早稲田桟敷湯→滝の湯→鳴子観光ホテル
【2日目】鳴子観光ホテル→川渡温泉浴場→すぱ鬼首の湯→ホテルオニコウベ→鳴子温泉駅→古川駅→東京駅
1泊2日/東京駅⇔鳴子温泉駅/夕朝食付き
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