おいしい海の幸や鉄道天国のイメージがある富山は、マンホール好きにとって、憧れのマンホール蓋(フタ)に出会える街でもあります。今回の目的は、もちろん「蓋」探し。せっかく行くなら、多くの蓋に出会いたい! できれば、グルメも鉄道も満喫したい!という欲張りプランを立て、デザインマンホール(デザイン蓋/その土地の歴史や特色がデザインされたマンホール蓋)の探索を中心に、富山県内の5つの市を回ってきました。
路上に何気なく存在するマンホール蓋。実は私たちの生活に密着するもので、その正体は、地下に張り巡らされた上下水道・電気・ガス・電話といったインフラの点検孔(マンホール)の蓋。そんな重要な使命を帯びたマンホール蓋は、「目に見えるインフラ」として、大型車両が通っても割れない強度が求められ、蓋の表面にはスリップ防止に凹凸のある模様(地紋)が付けられています。かわいい絵柄が入ったデザインマンホールと呼ばれる蓋(デザイン蓋)も、その機能を損なわないよう凹凸で絵を表現しています。
2月初旬、北陸新幹線で富山へ。
雪が、ない!! 防寒対策に加え、雪の下から蓋を掘り出すため、ゴム手袋と小さめの掃除用ブラシを持参したのに、少し歩けば汗ばんでくる陽気。正直拍子抜けでしたが、雪中行軍を覚悟していたので好天に感謝です。
積雪対策で、路面に散水して雪を溶かすための消雪パイプ。これが至る所にあるおかげでのおかげで、雪がないのかも。ホッとしたら、おなかがすいてきました。
太麺にスープが絡んでおいしそう! 汗をかく肉体労働者の塩分補給食として考案されたという一品は、噂通りの塩辛さ。醤油だけでなく黒胡椒もガツンと効いた上に、メンマがまた追い討ちをかけて塩辛い! 一緒にご飯を食べるための味付けと聞いて納得。でも麺はもちもち、チャーシューごろごろで美味でした。
食事のあとは、富山市のマンホールカードをもらいに、富山市上下水道局へ。マンホールと同じ柄の紙製コースターと富山市の水道水「とやまの水」も一緒にいただきました。2016年4月に登場したマンホールカードは、マンホールの蓋写真と位置情報、デザインの由来などが印刷されたコレクションカード。カードごとに指定された場所へ行くと、無料でもらえます(一人一枚、配布はほぼ平日のみ)。
配布場所はこちらのサイトを参照。
駅前ではさっそく、カラーデザイン蓋がお出迎え。それ以外にも市電の軌道蓋、上下水道のデザイン蓋、昔からの古い蓋等々、歩く道によって出てくる蓋の表情が変わるのでウキウキします。
1. 富山市のデザイン蓋は、市の花アザミの絵柄。アザミの根は胃痛や神経痛を、葉の汁は皮膚の炎症を抑える効能があるとされているようで、「富山の薬」ともつながることから選ばれたとか。
注意深く観察してみると、同じパターンの絵柄でも、ちょっとずつ違う蓋がいくつかありました。
2. マンホールカードに印刷された蓋はこれ。カードに記された位置情報から探して発見!
上の蓋と同じように見えますが、よく見ると赤丸部分などの形状が微妙に違います。こちらは、洪水対策(雨水流入防止や蓋の浮上防止)など、安全対策がより進んだ新しいタイプの蓋です。
3. 蓋を路面に固定するための外側の枠(受枠)が少し太いタイプ(飾り口環)。受枠にアザミの葉のデザインが施されている。
4. カラーハンドホール蓋(直径が小さく、手を入れて作業するための穴)
5. もちろん通常の色なし蓋も。通常、色なしの蓋は、このようにカラーのものとは凹凸が逆になっていることが多いです。カラーも素敵ですが、切り絵や版画のような表現が際立つのは色なしのほうです。個人的には、凹凸だけで表現されているこちらが好みです。
6. デザイン付き受枠色なし
7. ハンドホール蓋色なし
8. なぜか愛知県刈谷市のデザイン蓋が! 管理自治体をまたいで存在する蓋を通称「越境蓋」と呼んで愛でていますが、思いがけず出会えてうれしい限り。
神通川に架かる富山大橋。路面電車が走る長い橋を渡り、神通川左岸へ。
9. 神通川を越えると、別のデザイン蓋が登場! 神通川左岸流域の下水道関連蓋。富山舟橋(昔、神通川に架かっていた、舟をつないだ上に板を渡して作られた橋)と常夜灯の絵柄。
続いて、目の前に広がる立山連峰の絶景を見ながら、あいの風とやま鉄道で滑川駅へ。
1. 滑川市のデザイン蓋は、立山連峰とほたるいか漁の絵柄。ほたるいかが大きい!「うちの代表はこれ!」という気持ちが伝わってきます。大群のほたるいかの青白い発光は滑川近くの富山湾に限られ、その美しい群遊海面は国の特別天然記念物に指定されています。蓋以外にも、路上にはいかの絵柄のタイルがたくさんありました。
2.色なし。受枠にあるのはこの蓋独自のデザインではなく、メーカー独自の汎用デザインです。
日も暮れてきたので、1日目はここで終了。富山駅に戻り、富山エクセルホテル東急へチェックイン。ベッドも湯船もゆったりしていて、歩き回って疲れた体をしっかりほぐしてくれました。
富山駅から、あいの風とやま鉄道とJR氷見線を乗り継ぎ、雨晴(あまはらし)駅へ。
源義経が奥州に落ち延びる際、にわか雨に遭い、岩の下で雨がやむのを待ったという言い伝えがある義経岩。万葉集にも出てくる雨晴海岸は穏やかで、心地よい波の音を聞きながら蓋探し開始!
1.高岡市のデザイン蓋は立山連峰と雨晴海岸、義経岩の絵柄。2枚あったのですが、両方とも色が欠けている部分があって、ちょっと残念!
2. 松太枝浜浄化センターの前には夕焼けバージョン。この色は、この一枚しかありませんでした。
3.色なし。こうして並べて見ると、このデザイン蓋は、カラーも色なしも凹凸が同じで、色なしの蓋に色を塗っているのがわかります。
JR氷見線は、ほぼ1時間に一本。乗り遅れたら即終了。急ぎ足で島尾駅に向かって歩いていると、突然目の前に氷見市のデザイン蓋が登場! 蓋の違いで市境を感じられるのも、蓋探しの醍醐味です。
一駅だけでしたが、新車両(2013年から運行)の忍者ハットリくん列車に乗って氷見駅に到着。藤子不二雄Aさん生誕の地だそうで、街中ハットリくんだらけ!
ハットリくんもいいけれど、やっぱり氷見といえば寒ブリ。日本海のブリは、九州で孵化し、北海道でたくさん餌を食べ、産卵のため秋ごろから南下します。11月末〜2月ごろ氷見漁港付近の富山湾に入ってくる時が一番脂が乗っておいしく、氷見の「寒ブリ」は冬の富山湾でしか獲れない貴重なもの。マンホールの蓋にもブリ!
1.商店街へ向かう途中に憧れの蓋が。会いたかったよー!
氷見市のデザイン蓋は、ブリと定置網の絵柄。定置網漁法は固定された網に魚が集まってくるのを待つ獲り方で、いったん魚が入っても出ていけるため、最終的に捕獲するのは網に入っている2~3割だけ。持続可能な「獲り尽くさない」定置網漁法のひとつ、越中式定置網は氷見が発祥の地です。
2.商店街には、色違いの緑バージョンの蓋が続きます。
3.色なし。除雪対応型の受枠。ギザギザがカッコいい! 除雪の際、除雪車のブレードが受枠と衝突し、蓋や枠、除雪車の破損、作業員のけがを防止するため、受枠周囲にガイドとなる傾斜を付けたもの。ギザギザはデザインではなく、衝突回避の安全性と軽量化への配慮から生まれた形状。機能面も見た目もカッコいい!
4.プラスチック製のハンドホール蓋もブリ
5.ブリではないデザイン蓋も。富山湾と立山連峰、阿尾城ヶ崎、唐島、受枠に市の花ユリの絵柄
ブリの蓋に誘われて歩いていくと、氷見漁港場外市場の「ひみ番屋街」に到着。
ひみ番屋街にある「番屋亭」で、氷見の寒ブリのお刺し身とブリ大根!
肉厚でぷりっぷり! 「脂が醤油をはじくので、お好みで大根おろしを絡めて」とのアドバイス。そのアドバイス通りに大根おろしを投入。醤油ありなし両方堪能。とろけるようなブリの甘みが口の中に広がって、いつまでも食べていたい味。ブリ大根はしっかりとした味で、大根にお箸がすっと通り、口の中でブリがほろほろと崩れて、骨まで全部食べられます。寒ブリの時期にブリの蓋に会いに来られた幸せ。心もおなかも大満足!
今度は、射水(いみず)市に向かうため再度氷見線へ。ハットリくんのアナウンスを聴きながら高岡駅に戻る途中、再び雨晴海岸を通過。
車窓から見た雨晴海岸と義経岩。富山湾越しに立山連峰が見えるのは、冬の限られた晴れの日だけ。この日は運良く晴れて、遠くまで見渡せました。時間の関係で途中下車できず残念でしたが、朝到着した時には霞んでいた立山連峰も、くっきりと見えました。義経岩と冬の立山連峰を一緒に見るなら、昼過ぎがおすすめです。
射水市を走る路面電車は、土・日、祝日は旧新湊市出身の落語家・立川志の輔さんの車内アナウンスが流れ(ドラえもんトラムを除く)、終点までの約50分間、楽しい時間が過ごせます。
1.旧新湊市のデザイン蓋は、市の花ケイトウの絵柄。2005年に射水郡の全町村と合併して射水市になった新湊市。新湊市の「新」文字入りの合併前のマンホール蓋もまだ残っているので、平成の大合併の名残が確認できます。
2.色なし
3.海王丸駅周辺には別デザインの蓋も。市の木クロマツと富山湾の絵柄。通常は凹んだ部分に色を入れていくのですが、これは凸部分にも色を乗せていて面白いです。
4.塗り方違い
5.旧新湊市と同デザインでも、射水市になって作られた蓋には「射」の文字
6.射水市のデザイン蓋は市の花カワラナデシコ、市の木アジサイが市章を囲んだ絵柄。2010年、市内の管渠整備完了から市民意識の一体感に寄与するため、蓋も統一しようと新たにデザインされたもの。
7.ハンドホール蓋。小さくなる分、モチーフが割愛される場合が多いですが、これはそのまま縮小バージョン。
本数が少ない鉄道路線を乗り継ぎ、限られた時間で多くの市を回るのは、ゲームのようでワクワクしました。その街の歴史や特色を凝縮した蓋を旅先で意識して見てみると、訪れた土地の文化に気付き、今をもっと知りたくなるきっかけにもなります。とっつきやすく見えて実は奥が深く、「ナゾ解き」や「知識欲」を刺激され、見ていて飽きないマンホールの蓋。今回はデザイン蓋がメインでしたが、多種多様な蓋があるのも魅力のひとつ。たくさん回るもよし、1カ所をじっくり歩くもよし。旅の楽しみにいかがですか?
氷見漁港場外市場 ひみ番屋街
住所:富山県氷見市北大町25-5
電話:0766-72-3400
営業時間
鮮魚施設 8:30~18:00
物販施設 8:30~18:00
フードコート 8:30~19:00
飲食施設 11:00~21:00
回転寿司 10:00~21:00
※店舗により営業時間が異なります。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR富山駅→富山市上下水道局→周辺散策→滑川駅→周辺散策→JR富山駅→富山エクセルホテル東急
【2日目】富山エクセルホテル東急→JR富山駅→JR雨晴駅→JR島尾駅→氷見漁港場外市場 ひみ番屋街→JR氷見駅→JR高岡駅→新町口駅→海王丸駅→JR高岡駅→JR富山駅→JR東京駅