ねぶた&たちねぷたの醍醐味を味わう、青森と五所川原の祭り旅
前回の旅では青森市、弘前市、五所川原市という3カ所を回り、それぞれのねぶた祭りの見どころを現地の達人たちに伺いました。その際、達人たちは口をそろえるように、こう話していたものです。「青森には、ねぶたのために1年間生きている人もいるんです」――夏の短い青森が1年間で最もエネルギッシュに光り輝く瞬間、それがねぶた祭りの数日間なのかもしれません。
そんなねぶたを体験するべく、まず向かったのは県内最大のねぶた祭り「青森ねぶた」です。毎年8月2日から7日までの6日間にわたって熱狂が繰り広げられる青森市を8月3日に訪ねました。
6日間で延べ200万人が押し寄せる「青森ねぶた」の熱狂
JR東京駅から東北新幹線に乗って約3時間20分でJR新青森駅に到着。さらに奥羽本線に乗り換えてJR青森駅に降り立つと、駅の構内はすでにねぶた一色。衣装に身を包んだ跳人(はねと)の姿もあちこちで見かけます。前回お邪魔した青森市の文化観光交流施設「ねぶたの家 ワ・ラッセ」の横には地元の郷土料理を販売する出店も並んでおり、駅周辺はすでに祝祭ムード満点です。
駅構内のロッカーに荷物を入れ、15分ほど歩いて善知鳥(うとう)神社へ。各地の祭りを訪れる際、必ずその地の神様にお参りするようにしているんです。
善知鳥神社は青森市内有数の古社。創建年数は不明とのことですが、坂上田村麻呂が荒廃した善知鳥神社を再興したのが平安時代といわれているため、それ以前からこの地の鎮守として祀られてきたことは間違いありません。
お参りを済まして、大型ねぶたの制作小屋「ねぶたラッセランド」へ。こちらには完成した大型ねぶた22台がズラリと並んでおり、前回の旅で拝見したJRねぶた実行プロジェクトの「剣の護法」も。彩色が施された完成型は、目がくらむほどの鮮やかさです。
夜7時の開始時刻が近づくと、街中は跳人の姿でいっぱいに。跳人は規定の衣装を着用すれば誰でも参加できるため、県外からの参加者も多いようです。
僕がまず陣取ったのは、JRねぶたのスタート地点である新町通り。飲食店が集う歓楽街ということもあり、沿道には各飲食店による出店がぎっしり。焼き鳥のいい香りが充満しています。
花火の音を合図に、いよいよ「青森ねぶた」の2日目がスタートしました。明かりのともったJRねぶたは、まるで命を吹き込まれたかのよう。細部にまで手の込んだ作り込みが施されていて、さすが芸術性の高さで知られる「青森ねぶた」です。こうした大型ねぶた最大の見どころは、台座ごとグルグルと回転するシーン。ねぶた自体がその美しさを誇示しているかのような光景に、沿道の観客から自然と拍手が巻き起こります。
また、ねぶたと共に移動するのが、太鼓を中心とする囃子方(はやしかた)と跳人。すさまじい太鼓の音と跳人の「ラッセーラー! ラッセーラー!」という掛け声が響き渡ります。各町内会を中心に運営される地域ねぶたや子どもねぶたなど、個性あふれるねぶたが次々に登場し、見る者を決して飽きさせません。
夜9時ごろ、再び花火が打ち上がって祭りは終了。ただし、まだまだ踊り足りない跳人たちは道路の端で「ラッセーラー! ラッセーラー!」と、ひと踊り。こんな狂乱の夜が、あと4日も続くとは、さすが「青森ねぶた」です。
なお、青森市内のホテルはどこも満室だったため、この日は青森駅から奥羽本線で45分ほどの、JR弘前駅のホテルに宿泊することに。ただし、祭りの余韻がそう簡単に抜けそうもない僕は、青森駅前の居酒屋「鱒の介」で一杯やることにしました。「今日はまだまだ平日だから序の口。明日金曜からが本番なんですよ」という女将さんのお話に耳を傾けながら、夏が旬とされるホヤの刺し身をいただきます。隣の常連客も「ねぶたが日本で一番の祭りだと思ってるんですよ」と話してビールをクイッ。こうして地元の方々との祭りトークに花を咲かせるのも、祭り旅の醍醐味です。
土地の歴史も深く刻み込まれた、五所川原の「立佞武多祭り」
さて、ねぶた巡りの旅2日目に目指すのは、津軽半島の根っこに位置する五所川原市です。JR弘前駅から深浦行きの五能線に乗ってJR五所川原駅へ。こちらのねぷたは「立佞武多(たちねぷた)」という、高さ23メートルもの高さの「立ちねぷた」で知られています。
この日は祭りの初日ということもあって、「いよいよ始まるぞ」というワクワク感が、行き交う人々の表情からもうかがえます。
ところで、五所川原でどうしても食べたかったものがひとつありました。それが十三湖で採れる名産のしじみを使った、しじみラーメン。五所川原中心部から十三湖までは、車で往復1時間強。祭りの最中だと、なかなかその時間も取れません。そんなときに気軽においしいしじみラーメンをいただけるのが、五所川原駅からも近い文化施設「立佞武多の館」の展望ラウンジ「春楡」です。津軽平野を一望できるラウンジでいただくしじみラーメンは格別。旅の疲れも吹っ飛びます。
空腹を満たすと、「立佞武多の館」から歩いて10分ほどの元町へ。「五所川原」という地名の発祥の由来とも関係する、1661年に勧請されたという古社、八幡宮へお参りします。横を流れるのは、白神山地に源を発する岩木川。境内は、中心市街の喧騒が嘘のような静けさに包み込まれています。
夕方5時半ごろになると、「立佞武多の館」に保管されていた大型ねぷたが次々に路上へと出陣。大きな扉が開き、1台1台が姿を現す光景は非日常的なスケール感です。
夕方6時20分ごろからは開会式が執り行われ、五所川原出身の吉幾三さんも登場。「立佞武多祭り」のテーマ曲である「立佞武多」を熱唱します。「ヤッテマーレ! ヤッテマーレ!」という五所川原ならではの掛け声を吉さんが叫ぶと、沿道からも熱烈なレスポンスが。ロック・コンサートさながらの熱狂です。
そして、夜7時。花火の合図とともに、五所川原立佞武多祭りの初日がスタートしました。「立佞武多祭り」と「青森ねぶた」の大きな違いは、五所川原のほうが沿道とねぷたの距離が近いということ。高さ23メートルもの大型ねぷたが目の前を闊歩していくわけですから、思わずのけぞってしまうほどの迫力です。太鼓の重低音や跳人たちの掛け声をすぐそばで体感できることにも感激してしまいます。
「立佞武多祭り」では毎年1台、大型ねぷたの新作が作られることになっているのですが、今年の新作は、前回の旅で制作風景を拝見した「纏(まとい)」。この題材には1944年と1946年の大火から復興を遂げてきた五所川原市民の不屈の精神が表現されているそうで、今回は五所川原市消防団のまとい振りとの共演も実現しました。そのように、土地の歴史もしっかりと盛り込まれているところにも「立佞武多祭り」の奥深さがあります。
ねぶた祭りとはもともと、お盆に灯籠とお供え物などを海や川に流す「灯籠流し」や、夏の睡魔を払う「眠り流し」といった素朴な民俗行事が源流にあったとされています。いつの日からか、そこに太鼓のリズムが加わり、エネルギッシュな踊りが加わるようになりました。ねぶた祭りが国内外の観光客が押し寄せる夏の一大イベントとなった現在も、根底にはその土地の歴史と、そこに住む人々の思いが込められているのです。
夜9時。終了時刻を過ぎても一向に熱狂の収まらない五所川原を後にしながら、ねぶた祭りの素晴らしさを改めてかみ締めていました。海外からの観光客も増え、ますます注目度の高まるねぶた。来年も、ぜひあの熱狂を体験したいものです。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR新青森駅→JR青森駅→善知鳥神社→鱒の介→JR弘前駅
【2日目】JR弘前駅→JR五所川原駅→春楡(立佞武多の館内)→元町八幡宮→JR五所川原駅→JR東京駅