福島の個性派美術館へ。世界規模のダリ美術館は必見!
画集やWebサイトで出合った絵に、心を動かされた経験はありませんか? 音楽や小説、演劇と同じように、絵画は人に大きな感動を与えるものです。
アニメや小説の舞台となった場所を実際に訪れる、いわゆる「聖地巡礼」が盛んに行われていますが、絵画の世界でも同じような試みが可能です。それは作品を所蔵している美術館・博物館へ実際に足を運ぶことです。
筆者は、展覧会で目にし、感動した作品を観るために所蔵先の美術館を訪れます。旅の目的として「絵を観に行く」ことを筆頭に挙げることは、なかなかないかと思いますが、これはこれでとても趣のあるものです。
アジア最大規模のダリ常設美術館
さて、今回は2016年に東京・六本木にある国立新美術館で開催された「ダリ展」で出合った1枚の作品に再び会うために、磐梯朝日国立公園内にある諸橋近代美術館を訪れました。ここはサルバドール・ダリの作品を日本一多く所蔵している美術館であり、世界的に見ても、そのコレクションは非常に充実しているのです。
所蔵先の美術館が海外だと、観に行くのにかなり高いハードルを越えなければなりませんが、日本国内であれば、思いついたらすぐにでも出かけられます。Webで新幹線と宿だけをとりあえず押さえて、いざ目指すは福島!
諸橋近代美術館は会津磐梯高原にあります。JR東京駅から東北新幹線に乗り、1時間ちょっとでJR郡山駅に到着。こんなに近かったの!? と驚くほど、あっという間です。新幹線から磐越西線に乗り換え、ひと山越えて40分ほどでJR猪苗代駅へ。都内の列車に乗っているときはスマホの画面ばかり見ている自分も、ローカル線に揺られているときは窓にかぶりついて車窓を流れる景色を追いかけます。
猪苗代駅から路線バスに25分ほど揺られていると、突然西洋風の大きな建物が目に飛び込んできます。ここが世界有数のダリコレクションを誇る、諸橋近代美術館です。
美しい外観を目にしただけで、「来てよかった~」という気持ちにさせてくれます。テンションが上がり、いつもより多めに写真を撮ってしまいました。どこから撮っても「絵になる」、豊かな自然に囲まれた建物です。
観光地にある美術館にしては入館料が安いことに驚かされます。大人950円、中学生以下無料とは太っ腹。
展示室に入ると、ダリの手掛けた彫刻作品が、ずらりと並んでいます。これだけの数の彫刻をまとめて常設で展示しているのは、世界広しといえども、ここだけではないでしょうか。
六本木の「ダリ展」で心を奪われた作品『テトゥアンの大会戦』とも、再会を果たすことができました。「出張先」であった六本木で観たときよりも、何倍も迫力ある作品に見えました。
美術館に行って実物の作品と対面すると、サイズ感に戸惑いを覚えることがあります。思っていたよりも小さかったり、逆に大きかったり。大きさは、第一印象を左右する重要な要素なのです。
Webの画像では、この絵の魅力や迫力はまったく伝わりません。実際の作品は人の背丈の倍はあり(304×396cm)、絵の前に立つと、のみ込まれてしまいそうになります。ダリの作品の中でも、とても大きなものです。
一度展覧会で観ているにもかかわらず、ここで再び対面し、その迫力に圧倒されました。これは展示環境の素晴らしい諸橋近代美術館へ足を運び、「現地で観る」ことでしか決して味わうことのできない、大きな魅力といえます。
同館では、計340点ものダリ作品を所蔵しています。ダリが手掛けた彫刻は37点所蔵しており、これはアジア最大の規模。音声ガイドも無料なので、美術に詳しくなくても、展示を十分に楽しめるのもポイントです。
ミュージアムカフェでトラジャコーヒーを飲みつつ、ダリの優品たちを反すう。窓からの景色も最高でした。そうそう、ショップには、こんなかわいらしいグッズがありました。
ダリ作品にしばしば登場するアリが描かれた「角皿」ですが、1枚1枚アリのいる位置が違います。こういうのを見せられると、全部欲しくなっちゃいますよね~。
築130年の酒蔵を改修した建物は必見
諸橋近代美術館をあとにし、猪苗代駅へ戻る途中に、2014年に開館したはじまりの美術館があります。最寄りのバス停は「バスセンター」です。
「アール・ブリュット」もしくは「アウトサイダー・アート」という言葉を耳にしたことはありますか? 伝統的な芸術教育を受けていない人たちが手掛けたアート作品のことです。「障害者の芸術」として紹介されるケースが多く見受けられますが、決してそうではありません。
はじまりの美術館では、「アール・ブリュット」作品を紹介しつつも、それに特化した展示を目指しているわけではありません。正規の美術教育を受けた方の作品も、そうでない方の作品も、分け隔てなく展示することを目指しています。「障害者と健常者」といった枠組みを取り払うことを主眼としているのです。
もともとはじまりの美術館の存在は、クチコミで広がっていました。その存在をより知らしめることになったのは、福島県建築文化賞の正賞とグッドデザイン賞、日本建築学会作品選奨と、今年に入り、立て続けに権威ある賞を受賞したことが挙げられます。
明治時代に建てられた酒蔵をリノベーションした建物自体も必見です。とにかく行ってみると分かるのですが、遠目からでも「いいな~」と思わせる魅力をたたえています。それは、都会の美術館では決して味わうことのできない素朴な佇まいです。
美術作品だけでなく、建築自体にも見応えがあり、福祉についても学べる。国内でも珍しいタイプの美術館なのです。
横長の建物は全長約35m。約33mの太い梁(はり)が天井の中央に通っています。一家を支える大黒柱ではないですが、天井に横たわるこの梁が大きな存在感を示していると同時に、来館者を温かく迎えてくれます。
床は、何パターンかの組木で敷き詰められています。美術館展示室には靴を脱いで入るので、足裏から木々の感触を感じつつ、足つぼを刺激されながら作品と向かい合えます。いつもよりセンシティブな絵画鑑賞体験ができました! 靴を脱いだだけでこんなに感じ方が変わるなんて、大発見です。ほかの美術館でやったら、怒られちゃいますよね。
猪苗代駅へ徒歩で向かい、駅前にのれんを掲げる、あまの食堂へ。メニューにあった会津名物の「ソースカツ丼」を迷わず注文。やわらかい国産豚肉に、濃厚でちょっと甘めのソースがベストマッチ! 揚げたてのカツの下には、シャキシャキのキャベツの千切りが隠れているのです。ボリューム満点でしたが、ぺろりと平らげてしまいました。脂っぽくなく、いくらでも食べられそう。ごちそうさまでした!
この日は、郡山市内へ戻り、駅前のホテルで一泊しました。
地域に密着した、ガイナックスのアニメ美術館
翌日は、郡山駅から磐越東線で13分のJR三春駅へ。福島県三春町に2015年に開館した、空想とアートのミュージアム 福島さくら遊学舎に向かいます。
もしかしたら、ガイナックスという会社の名前を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか? 数多くのヒット作を世に送り出した、設立約40年のアニメ会社です。
そのガイナックスから福島出身の浅尾芳宣氏が独立し設立したのが、福島ガイナックスであり、2013年に閉校になった旧桜中学校校舎を使いオープンさせたアニメ関連の美術館が、「空想とアートのミュージアム 福島さくら遊学舎」です。常設展示「ガイナックス流アニメ作法展」では、一本のアニメ作品がどのようにして作られるか、実際の現場を再現しながら学べるようになっています。
また地域復興の手助けとして、地域密着型のアニメ作品を、街の人たちとともに制作しています。『みはるのハルミーゴ』『みらいへの手紙」等のアニメ作品は声優として地元の人々が出演したり、町中で無料上映会を行っていたりします。いずれも素朴ながら心温まる作品でした。
ロケ地として名高い、重要文化財の旧中学校
旅の最後は歴史的建造物で国の重要文化財にも指定されている安積(あさか)歴史博物館を訪れるべく、再び郡山市内へ。郡山駅からはバスで20分弱です。
1889年(明治22年)に福島県尋常中学校本館として建てられた校舎は、ほぼ手を加えられることなく、当時の姿をそのまま残す貴重な建物です。使われていた机や椅子、教科書なども展示されています。
テレビドラマや映画のロケ地としても頻繁に使われるので、この外観を目にしたことが一度はあるはずです。
明治の面影を色濃く残す貴重な建物として、また福島県の学校教育の歴史を知ることができる博物館として守り続けられています。
歴史の重みを感じるとともに、伝統を後世に伝える努力を惜しまない姿に感銘を受けました。誰しもがこの古い校舎を訪れると、歴史のあたたかさと懐かしさを感じるはずです。
足早に帰りの列車に乗り込み、東北新幹線名物「ほや酔明」を肴にビールを飲みながら帰途へ。またすぐにでも訪れてみたいスポットばかりで、大満足の福島の旅でした。
この記事の内容は2019年8月9日現在の情報です。
スポット情報
あまの食堂
住所:福島県耶麻郡猪苗代町千代田扇田12-15
電話:0242-62-2064
営業時間:11:00~18:00
定休日:不定休
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR郡山駅→JR猪苗代駅→諸橋近代美術館→はじまりの美術館→あまの食堂→JR郡山駅
【2日目】JR三春駅→空想とアートのミュージアム 福島さくら遊学舎→JR郡山駅→安積歴史博物館→JR郡山駅→JR東京駅