今回の列車旅ポイント
私、池田浩明は全国のパンを食べまくっているパンオタクだが、注目スポットは北関東である。
以前は、おいしいパン屋は都心に集まっていたが、いまは、自然がたっぷりあり、おいしい素材も手に入る地方で、のびのびやる若手が増えている。
なかでも、群馬は小麦生産量第4位の麦どころ。ということで、JR上野駅から上越新幹線に乗って群馬パン食べまくりの旅に出る。
群馬まで行ってからパンを食べまくる予定だったが、我慢できずにアトレ上野のアンデルセンで「パンダ食パン」を買ってしまうパンオタクの性(さが)。
上野駅から上越新幹線に乗って約44分、JR高崎駅へ。そこからJR上越線に乗って約3分でJR高崎問屋町駅に到着。
高崎問屋町駅からタクシーで10分。いま話題の店、Comme’N(コム・ン)へ。(※)
なにが話題かって? 2018年に行なわれたパンの世界大会「モンディアル・デュ・パン」代表選考会でオーナーの大澤秀一シェフが見事優勝、日本代表に選ばれたのだ!
着きましたー! って、ここ喫茶店の駐車場じゃん!?
と、わざとらしくひとりツッコミしてみたが、なんとこのComme’N、喫茶店「珈琲哲學」の駐車場に建つプレハブ小屋を間借りして営業しているのだ。休日ともなれば、駐車場に行列ができる光景は圧巻。
パン売り場はなんとプレハブ小屋の窓!
見てください! パンのこの芸術的なうつくしさを!
特に私の好きなのは手ごねのバゲット。皮バリバリで中はもっちり。噛めば、小麦のフレーバーが豊かに香るのは、手ごねならでは。
世界大会に出ることを夢見て、腕を磨いていた大澤秀一シェフ。世界に挑戦するため、練習の場がほしい! と思っていたところ、珈琲哲學の社長さんが物置を貸してくれることに。
夏は約40度にも達する厳しい環境にもめげず、パンを売りながらトレーニング、昨年のモンディアル・デュ・パン日本代表選考会では、予選通過1位の本命を破る、劇的な大逆転勝利をおさめた。
実は2019年6月からは、10月に行なわれる世界大会に向けたトレーニングに集中するため、お店の営業時間は朝の7〜9時の2時間だけになる。
遠方から来る方には買いづらいけれど、これも応援だと思ってご理解を!
※2020年8月現在、店舗は東京都九品仏駅に移転しています。
再び、高崎問屋町駅から上越線に乗り約1時間、JR水上駅へ。水上駅からは送迎バス(無料)で約2分、利根川のうつくしい渓流に面してそびえる「みなかみホテルジュラク」に到着。
この宿では、川面を見下ろす朝食会場で、高級食パンをはじめとするパンがなんと食べ放題!
明日の朝食を楽しみにしながら、今日は就寝。
そしてお待ちかねの朝食!
バイキングといっても事前に作ったものが置かれているだけではない。目の前で作られたあつあつの料理も好きなだけ食べられるのだ!
群馬県産「大島たまご」と「榛名牛乳」を使用した高級食パンは自分で切って、焼くスタイル。だから、家でできないぐらい分厚く切って、バターとジャムたっぷりなんてこともできちゃう。
テンション爆上がりになったのが、自慢の高級食パンを使って目の前で焼く、チーズとろ〜りのピザトースト!
焼きたてあつあつに、はちみつをたっぷりかけまくってくれるフレンチトーストも!
オムレツも作りたて、デニッシュも、クリームパンも、ジャムも、生ジュースもすべて食べ放題、飲み放題!
パンだけではなく、和食コーナーにも突撃し、あれもこれもと取りまくった結果、「食べ盛りか! 朝食」が完成した!
こんなに食ったらつまみだされるのではないかとヒヤヒヤしたが、そんなこともなく、大満腹で食堂をあとにした。
ホテル内にはベーカリーがあり、おみやげに高級食パンを買うこともできる。
ホテルをチェックアウトし、再び水上駅に戻り、上越線に乗車。所要50分ほどのJR新前橋駅へ行き、両毛線に乗り換え約3分でJR前橋駅に到着。さらに前橋駅から歩くこと約20分、クロフトベーカリーへ。
ここでは、前橋にいるのに世界の最先端のパンが食べられる。どういうことかって?
世界的にブームを呼んでいる、でっかいパンを高温で豪快に焼きあげるカントリーブレッド。その元祖であるサンフランシスコの「タルティーンベーカリー」が大人気になるなど、注目の店が続々と登場しているアメリカ西海岸。
クロフトベーカリーのオーナーシェフ、久保田英史さんは、ロサンゼルスのパン屋の監修を務め、西海岸の事情に詳しいのだ。
彼らがもっとも注目しているのは、「ローカル」。全国どこでも同じ、大量生産の小麦粉を使うのではなく、地元で育った小麦を、地元の製粉会社が粉にし、挽きたての状態からパンにする。
フレッシュで、その土地ならではの味わいを感じることができる。そんな新しいパンを、久保田さんは前橋に持ち込んだ。
古代穀物のパンは、高崎市すみや農園から直送された挽きたての「農林61号」を使用。さらに群馬県藤岡市「福田農園」産の古代小麦「ファッロ」、キヌアやアマランサスといったスーパーフードも混ぜ込んでいる。
ハード系のパンだが、おにぎりを噛んだときみたいに、口の中でほわっとやわらかくほどける。濃い旨みと香ばしさ。ばちばちと弾ける穀物。玄米のような香りとともに、根菜っぽい香り……おもしろい香りがシャワーのようにあふれ、後にはやさしい甘みが残る。
左上から時計回りに、春キャベツとスナップエンドウ、くらかけ豆のパン、ベーグル&ロックス、そら豆のバジルペスト。
長野県佐久市周辺でしかとれない貴重な在来種「くらかけ豆」を使ったパン。枝豆のフレッシュさと、ピーナッツの土っぽさを併せ持つ豆はこりこり、水分の多い生地はぷるぷる。
自家製のパン種によるやさしい酸味とうまくマッチして、豆ごはんみたいにむしゃむしゃ食べられる。
前橋周辺の地元の食材を使って、地域全体を盛り上げようとしている久保田さん。こんな新しい考え方のパン職人が増えれば、日本のパンはもっともっとおいしくなり、旅をするのが絶対に楽しくなるはず!
※春キャベツとスナップエンドウ、そら豆のバジルペストは季節限定のメニューです。
前橋駅から両毛線でJR井野駅へ。駅から徒歩約8分ほど。
パンメニューはカツサンドのみ。カツサンド道をストイックに邁進する、地元では名の知れた専門店「かつサンド工房PANTON」。
かつて、高速道路のパーキングで営業していたときには、1日1,500個を売り切る、不滅の金字塔を打ち立てた!
「カナダ産大麦三元豚はさっぱりして日本人好み。筋肉が細かいのでカツサンドに向いている」と、オーナーの小澤貴さん。
いろいろ試して最後にたどりついた肉だ。
塩をして1日寝かせて最高の状態になった肉を、低めの温度の油にそっとくぐらせる。「高温だと肉が硬くなるし、味が飛んでしまう。肉に気づかれないように揚げるのが最高だといいますよね」と、小澤さん。
肉は2度揚げし、ソースは埼玉県本庄の高橋ソース、デミグラスソース、有機ケチャップを独自にブレンド。洋食のデミグラスソースっぽいニュアンスもありつつ、後味は酸味とフルーティさに彩られ、肉がよりおいしく感じられる。
食パンも特注。業務用のオーブンで表面だけさっと焼き、軽さを出す。
特選厚切りヒレかつサンド。揚げたてで衣はかりかり。
なのに、ふにゃりとたわんで、さくっ! これ、木綿豆腐? というぐらい、めちゃくちゃやわらかい! 軽い!
ふわふわのパンが繊細な肉味を邪魔せず、油っぽさもないのですいすい食べられる。
※編集部注:現在はテイクアウトのみですが、特別に撮影させていただきました。
特選厚切りロースかつサンド。こっちは分厚い肉をざっくりと噛み破る幸福感!
脂が口の中でちゅるちゅるーと溶けて、肉味もしっかり芳醇。脂とソースの寄り添いっぷりも肉のおいしさを加速させた!
井野駅に戻り、JR両毛線で高崎駅へ戻ります。
果物の香り高さ、ハーブとの組み合わせの斬新さがすばらしく、前々から注目していた渋川飯塚ファームのジャム。購入したのは、「ペパーミント×清見オレンジ」と「ブラックペッパー×和梨」。
なんと、高崎駅ビル「イーサイト高崎」内の「群馬いろは」にて買うことができる! これをお土産に帰宅し、翌朝、群馬でゲットしたパンにつけて、食べる!
ふたをあけただけで香り立つ、フルーティな香り。
「ペパーミント×清見オレンジ」は、国産ならではのやさしいオレンジの甘さに、ペパーミントの清涼感が寄り添ったジャム。
「ブラックペッパー×和梨」も、まったりしがちな和梨の果実味を、ブラックペッパーがコントラストになることによって見事に引き出している。厚切りのバターをのせ、ジャムをたっぷりのせて食べる群馬のパン。
群馬は移住したくなるぐらいに最高のパンどころだ!!
掲載情報は2020年8月21日更新時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】上野駅→Comme’N(コム・ン)→みなかみホテルジュラク
【2日目】みなかみホテルジュラク→クロフトベーカリー→かつサンド工房PANTON→高崎駅(群馬いろは)→上野駅