今回の列車旅ポイント
鍾乳洞というものがある。簡単に言えば洞窟だ。観光用に整備されているところもあれば、整備されているけれど、RPGの勇者が行くやつなんじゃないのかな、と思ってしまうようなところまで存在する。
今回はそんな鍾乳洞へ出かけようと思う。まず目指すは、RPGで勇者が行くような洞窟。福島県の田村市にある「入水(いりみず)鍾乳洞」でケイビングだ。JR東京駅から東北新幹線で1時間22分のJR郡山駅から磐越東線に乗り換え、41分でJR菅谷駅へ。さらに20分ほど歩けば鍾乳洞の冒険が始まる。
小学5年生が私の心に住んでいるのか、いくつになっても冒険に憧れる。温泉でゆったりみたいな旅もしたいと思うけれど、どこかで冒険をしたいという気持ちもあるのだ。洞窟の奥の宝箱を探すみたいな冒険を。
そんな旅をするため、今回は1泊2日で鍾乳洞の旅へ出かける。初日に訪れるのは福島県の田村市にある「入水鍾乳洞」。まずは郡山駅を目指すのだけれど、乗る新幹線によっては東京駅から4駅で到着。早い。
東京駅の時点で非常に寒いと思っていたけれど、郡山駅に着くとさらに寒かった。そして、雪が降っていた。今から行く入水鍾乳洞の中には水が流れていて、私はそこを歩く。大丈夫だろうかと不安になる。絶対に寒いやつだ。冒険はしたいけれど寒さには弱いのだ。
菅谷駅からは徒歩30分、入水鍾乳洞を目指す。周りは田んぼで閑散とした感じだ。雪は雨に変わっている。旅に出て雨だとガッカリするけれど、向かう先が鍾乳洞なので雨でも問題ないだろう、多分。問題があるとすれば、今の気温が「0度」なことだ。寒い。
この冬はあれをしよう、これをしようと暖かい部屋で考えて、いざ実行に移すと地獄を見ることがある。それが今だ。暖かい部屋では冬の寒さを忘れているのだ。冬は寒いのだ。0度で、半袖で半ズボン。入水鍾乳洞では水に入り濡れるので、上記のような装備になるのだ。(※)
※編集部注:半袖半ズボンは筆者が持参した服です。合羽のレンタルなどもありますが、濡れることを前提に注意して楽しんでください。
入水鍾乳洞のケイビングコースは、出入り口から近い順にA、B、Cコース(エリア)に分かれており、もっとも近いAコースは水なしエリア、その先のBコースから水がある。最奥のCコースはガイドなしでは入ることはできず、私の訪れた時期は、Cコースは閉まっていた。A、B、Cコースはつながっているので、どこで引き返してくるか、という問題だ。Cコースは3月末から10月頃までなので、今回はCコースまで行かずBコースで引き返して来る選択をした。
鍾乳洞の洞内の温度は外より暖かい。1年を通してあまり変動はないので、夏は涼しく冬は暖かいのだ。この日は11度だった。外よりは暖かいけれど、11度は充分に寒い。そして、水温は7度くらいと入水鍾乳洞管理事務所の方が言っていた。ちなみに銭湯などの水風呂は17度前後。つまり7度は考えられないほど冷たいのだ。
拝啓、これを読んでいる皆さんは春の訪れを感じている頃だと思います。桜の開花情報などもちらほら耳にするのではないでしょうか。しかし、この撮影をしているのは冬真っ只中です。気温、水、全てにおいて真冬です。震え出しました。敬具
Bコースは往復で1時間ほど。水は冷たいを通り越して痛かった。管理事務所の方に聞いたら、夏は人が多いですね、冬? ほぼ人は来ないな、と言っていた。でも、冒険という意味では冬の方が人は少なくていいかもしれない。上の写真を見て欲しい。割と私が笑っている。楽しいのだ。寒さと楽しさと震えと冒険感が同時に押し寄せるのだ。
戻ってくるとすぐに着替えた。間違いなく楽しかった。冒険している感じがした。ベリーハードでやっているRPGみたいな感じ(※)。管理事務所のストーブの前で温まる。体が冷えきり、震えが止まらなかった。でも、楽しいのだ。
※筆者注:ゲームによっては、「イージー」「ノーマル」「ハード」「ベリーハード」のように難易度を選べるようになっています。今回は「ベリーハード」でした。つまり大変ということです!
震える体にはお風呂。入水鍾乳洞から徒歩4分くらいの場所に「星の村ふれあい館」がある。レストランや大浴場、ホテルなどを兼ね備えた施設だ。大浴場は体が芯から冷えているので嬉しい。たぶん通常時に入るより気持ちよく感じるのではないだろうか。
体が温まる。本当に温まる。芯から体が冷えている状態でのお風呂。最高なのだ。ちなみにお風呂はミネラルをたっぷり含んだお湯。心から「天国」と言ってしまった。
大浴場のお湯は、あぶくまの天然水を温めたもの。地下水を汲み上げた天然水で、飲料水にもなっているし、水源で考えると入水鍾乳洞に流れていた水もこれだ。冷たい天然水を鍾乳洞で味わい、温かい天然水を大浴場で堪能し、風呂上がりに天然水の喉越しを楽しむ。いいじゃない。
レストランも併設しているので、この地域で作られたエゴマを使ったタレで食べるうどんを頼んだ。季節のてんぷらもある。エゴマは体にいいらしいので嬉しい。ちなみにエゴマはシソ科の1年草で、種子はゴマのような使い方をする(すり潰したり、油にしたり)。体を動かした後に食べるうどん。RPGで考えるとボス戦後の宿屋。幸せだ。
食事の後は徒歩で菅谷駅に戻り、磐越東線で約40分の郡山駅へ。駅近くのホテルに泊まった。
翌日は「あぶくま洞」へ行く。また鍾乳洞だ。郡山駅から磐越東線で約45分揺られJR神俣駅へ行き、そこからタクシーで約5分、あぶくま洞に到着だ。
本日は朝から雨だ。めちゃくちゃ雨だ。タクシーの運転手さんが、この時期にこんなに雨が降ったのは記憶にないと言うほどの雨だ。しかし、大丈夫。なぜならあぶくま洞だから。あぶくま洞は鍾乳洞だから。雨は関係ないのだ。(※)
※編集部注:今回の旅における筆者の感想です。状況に応じてあぶくま洞管理事務所に問合せください。(以下同)
あぶくま洞は入水鍾乳洞とは違い整備されており、ほぼ水に濡れることはなく、手軽に探検できる。また、ライティングにより幻想的な空間を生み出している。これはこれでRPGの世界を冒険している感じだ。
8,000万年の時間をかけて作られた自然の神秘だ。昨日も同じことを聞いたけれど、管理事務所の方は、夏は人が多いと言っていた。でも、冬もいい。鍾乳洞内の温度は1年を通じて変動しないので、夏の薄着だと寒い。しかし、冬は着込んでいるので丁度いい。雨も雪も関係ないし。
ベリーハードの冒険が「入水鍾乳洞」、ノーマルの冒険が「あぶくま洞」という感じだ。どちらの冒険をしたいか、レベルによって鍾乳洞が選べるというのがいい。両方行ってもいいけどね。あぶくま洞も1時間ほどで見ることができるので。
冒険でお腹も空いたので、あぶくま洞に併設されている「レストハウス釜山」で、「じゅうねん味噌焼き定食」を食べた。
「じゅうねん」とは「エゴマ」のこと。やはりこの地域で作られたものが使われている。豚肉と相性がよく、美味しいし、健康になった気がする。RPGの薬草とはエゴマのことなのかもしれない。
食べ終わるとまたタクシーで神俣駅に戻り、磐越東線で郡山駅に行く。最後の目的地である「郡山市ふれあい科学館 スペースパーク」を目指した。
郡山駅前に建つ「ビッグアイ」の20階から24階が、郡山市ふれあい科学館 スペースパークになっている。プラネタリウムがあり、地上104.25メートルに位置していることから、地上から世界一高い場所にあるプラネタリウムとしてギネスワールドレコーズに認定されているそうだ。
2001年にオープンしたこちらの施設。宇宙服があったり、昔の宇宙飛行士の訓練を疑似体験できたりなど、雨でも関係なく楽しめる。雨空と鍾乳洞の次は、青空を飛び越して宇宙に来た。ゲームの世界みたいだ。最後のステージは宇宙なのだ。
30代の私が一人、「キャーキャー」言いながら楽しんでいる。だって、予測不能にグルグル回って、普段の生活では考えられないピョンピョン具合ですよ。そして、最後はプラネタリウム。青空を見ることのない旅だったけれど、綺麗な夜空を見ることはできた。
すっきり、はっきり、くっきり星が見える。鍾乳洞に冒険に出かけ、宇宙でボス的なものを倒して、平和になった地球に戻り夜空を見上げる、みたいなストーリーが勝手に頭の中に広がった。
これでこの旅は終わり。旅というより冒険。東京から2時間ほどの距離で、こんなに気軽に冒険ができるんだな、という驚きがあった。私の心に住む小学5年生が喜んでいるのがわかる。ずっとドキドキワクワクだ。だって、最後は宇宙にまで行くんだぜ。大冒険だ。
【全3回 連載】
第1回:男ひとり旅をするなら、幸せに満ち溢れた冬の松島へ
第2回:冬の山寺へ、男ひとり旅。芭蕉ゆかりの古刹は水墨画の世界だった
第3回:本記事
掲載情報は2023年4月11日更新時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR郡山駅→JR菅谷駅→入水鍾乳洞→星の村ふれあい館→JR菅谷駅→JR郡山駅(宿泊)
【2日目】JR郡山駅(宿泊)→JR神俣駅→あぶくま洞→レストハウス釜山→JR神俣駅→JR郡山駅→郡山市ふれあい科学館 スペースパーク→JR郡山駅→JR東京駅