伝統工芸に触れ、豪華かに会席に舌鼓。福井を丸ごと堪能する旅
今回の列車旅ポイント
- 福井までは北陸新幹線と普通列車を乗り継いで! ゆったり快適な列車旅
- 福井駅近くで、福井の伝統工芸品や名物などのお土産が揃う
- 鯖江駅を起点にして、福井の文化を楽しめる
何年か前、知人たちと食事をしていて出身地の話になった。その中に福井県出身の人がいたので、「どんなところですか?」と尋ねると、困ったように「いいところなんですが、少し地味かな……」と言った。そのやりとりが妙に印象的で、いつか福井県に行ってみよう、とずっと思っていた。
今回、福井を堪能する旅というまたとない機会を頂いたので、知人の代わりにその魅力を堪能し、できるだけお伝えできたらいいと思いながらこれを書いている。名乗るのが遅くなりましたが、ライターの生湯葉シホと言います。北陸は富山も石川も大好きなのだけど、福井は初めてなのでちょっとドキドキしています。
東京駅
車窓から北陸の景色を臨む
朝、東京を出発する。JR東京駅から北陸新幹線「かがやき」で約2時間30分、JR金沢駅へ。金沢駅から北陸本線で1時間30分ほど揺られると、JR福井駅に到着。金沢からは特急に乗ると45分ほどで着くが、福井初上陸ということでまずはのんびり車窓からの景色を眺めたく、普通列車を選んだ。
北陸本線には難しい名前の駅が多い。「次はのみねあがり~、のみねあがり~」とアナウンスが聞こえてきて、頭のなかで漢字変換に悩んでいたら「能美根上」という看板が見えた。ほかにも「松任(まっとう)」とか「加賀笠間(かがかさま)」とか、インパクトのある駅名ばかりでおもしろい。聞いたことのない言葉に触れてワクワクすることができるのも、普通列車の魅力だと思う。
芦原温泉駅
ステーキみたいな油あげ御膳
お昼過ぎに福井駅に到着。ここからさらに北陸本線で約20分、JR芦原温泉駅へ。1日目はランチにおいしい油あげ(!)をいただこうと、お腹を空かせてきた。山の中にあるお店なので、芦原温泉駅からはタクシーを使う。
向かうのは油あげの老舗「谷口屋」だ。運転手さんにお店の名前を伝えると「おいしいですよ~あそこは」と返ってきて、地域に愛されているお店であることを実感する。運転手さんいわく、福井は日本でも有数の浄土真宗の寺院数を誇る「仏教王国」で、精進料理に用いるお豆腐や油あげに関しては特に老舗が多いのだとか。「福井の人はバーベキューでも油あげを焼くくらい、おあげが好きなんですよ」とのこと。私もペンネームにしているくらい大豆製品が好きなので、福井県民に勝手に親近感が湧いてしまう。
20分ほどで谷口屋に到着。大きいおあげがまるまる1枚つくという「油あげ御膳」を注文した。厨房のほうからステーキのような大きなお皿の乗った定食が出てくるのが見え、それが油あげであることに気づいてびっくりする。
重さも厚みもあって箸だけでは食べられないので、ナイフですこしずつ切りながら油あげを頂く。
サクッとした皮にふわふわのお豆腐が包まれていて、ひと口食べるたびにジュワ~っとやさしい大豆の味が溶け出す。油あげでも佃煮や生姜煮、お味噌汁の具とすべて違った食感で、同じ油あげを食べているはずなのに飽きない。
デザートに注文した「とうふソフト」と「豆乳(ホット)」もやさしい甘さでした。
夢のような油あげだった……。
帰りもタクシーを使い、芦原温泉駅へ。芦原温泉駅から北陸本線で福井駅まで戻る。
福井駅周辺
観光物産館でお土産をチェック
駅に着くと日が暮れかかっている。ホテルに行く前に、すこしだけ福井駅周辺を散策してみることにした。
駅から徒歩1分の複合施設「ハピリン(Happiring)」の中にある「福井市観光物産館 福福館」を覗いてみる。
伝統工芸品のコーナーには美しい漆器が並ぶ。
福井の伝統工芸品のひとつである、若狭塗箸をお土産に買った。若狭塗箸にはあわび貝や卵の殻などを使って華やかに仕上げたものが多いが、この箸も螺鈿(らでん)があしらわれていてきらきらと美しい。
ホテルフジタ福井
こんなに「かに」を食べたの、人生初かも…
10分ほど歩いて宿泊先の「ホテルフジタ福井」へ。少し休んでから、夕食会場の和食レストランへ向かう。秋~春限定のかに会席プランを予約したので、夕食は贅沢に北陸のかにを堪能する。
コース料理が運ばれてくる前に、料理長が「このあとお出しする越前がにです」と茹でる前のかにを見せてくださった。立派さに見とれていたら、「イキがいいので気をつけてくださいね……あ痛たたたっ」と、かにのハサミに指を挟まれる「かにジョーク」で楽しませてくれた。なんてサービス精神のあるホテルなんだ……。
福井ではメスの越前がには「せいこ蟹」と呼ばれている。オスよりもひと回り小さいが、「内子」「外子」と呼ばれる2種類の卵がたっぷり入っている福井名物。せいこ蟹をいただけるのは12月頃まで。
コースはせいこ蟹に、茹でたての越前がに、かに足の天ぷら、かに雑炊に至るまで、「こんなに食べて大丈夫ですかね……?」と確認したくなってしまうほどかにだらけ。
正直に言うと、「かにって高級さのわりに地味な味だよなあ」といままでは思っていた(ごめんなさい)が、今回いただいたかには噛みしめれば噛みしめるほど甘さが感じられ、これが本当においしいかにの味か……! と感動してしまった。
最高の満足感とともに部屋に戻り、ぐっすり眠った。
うるしの里会館
蒔絵職人の技を間近で見せてもらう
1日目は福井の食をたっぷり堪能したので、2日目は福井の名産品や工芸品に触れたいと思う。ホテルを出て向かうのは、「メガネの聖地」としても有名な鯖江市。
福井駅から北陸本線で15分ほど、JR鯖江駅へ。そこから鯖江市コミュニティバス・つつじバスに乗り30分ほどで、「うるしの里会館」に着く。
ここは、福井の伝統工芸品である越前漆器の魅力を知ることができる施設。展示によると、越前漆器は1500年以上の長い歴史を持ち、現在も伝統的な技法での製作を続けている一方で、近年ではホテルやレストランで使用される業務用の樹脂製漆器も盛んにつくっているそう。
越前塗りの山車(だし)といったダイナミックな展示のほか、施設内の「職人工房」では実際に伝統工芸士でもある漆職人さんの技術を間近で見ることができる。この日は漆の加飾(彩り豊かに漆器を装飾する技法)を担う、蒔絵師の松田さんがいらっしゃった。
松田さんの加飾の様子を隣で見せていただく。速い筆さばきに見とれていたら、描くときは息を止めて一気に線を引くのだと教えてくださった。下絵は描かず、なんと毎回一発勝負なのだそう。
松田さんはハードロックが好きで、お仕事の休憩時間にはツェッペリンやクラプトンを聴いているという素敵なギャップをお持ちだ(聞いて本当にびっくりした)。日によってさまざまな職人さんが交代でいらっしゃるそうなので、今度来たら塗りの技法や沈金の技法もぜひ間近で見たいと思った。
メガネミュージアム(MEGANE MUSEUM)
鯖江のシンボル、メガネを知る
うるしの里会館をあとにし、再びつつじバスに乗る。25分ほどで体育館北バス停に到着。そこから10分ほど歩いて到着したのが、鯖江のシンボルとも言えるメガネの歴史や製法を知ることができる「メガネミュージアム(MEGANE MUSEUM)」だ。
そもそも鯖江がなぜ「メガネの聖地」として知られているかというと、明治時代、福井県足羽郡麻生津村字生野の村会議長であった増永五左衛門という人物が、市の発展のためにメガネづくりを始めたのがきっかけなのだそう。現在ではなんと国内のメガネフレームの90%以上が鯖江を中心とする福井県産だという。
メガネミュージアムでは、メガネができるまでの工程や有名人のメガネコレクションなどユニークな展示を多数見ることができる。
また、併設のメガネショップでデザイン性の高いメガネを購入したり、「体験工房」でメガネの手づくり体験をすることもできる(※)。
※編集部注:感染症対策のため、体験を休止している場合もあります。詳しくはこちら
メガネストリート
「隠れメガネ」が無数にひそむ道
帰り道は、メガネミュージアムと鯖江駅をつなぐ「メガネストリート」を歩いてみる。
「メガネストリート」という名前のとおり、さまざまなところにメガネを模した柄や模様があしらわれている。「ここにもメガネが!」と気づく瞬間はアハ体験っぽさもあり、ちょっと楽しい。
福井の食と名産品を2日間かけてたっぷり楽しんだところで、そろそろ東京に帰る。メガネミュージアムから鯖江駅までは徒歩10分ほど。鯖江駅からは北陸本線を乗り継ぎ、金沢駅へ。金沢駅から北陸新幹線で東京駅に戻った。
福井県の方には「北陸の中でもうちは地味ですから……」と言われることが多かったのだけど、いやいや、おいしいかにや越前漆器、それにメガネまであって、めちゃくちゃキャラ立ちしてるじゃないですか……! と思わずにはいられなくなる旅だった。今回は秋冬の味覚と景色を堪能できたので、次はあたたかい季節にまた行ってみたい。
東京駅
掲載情報は2022年2月1日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR金沢駅→JR福井駅→JR芦原温泉駅→谷口屋→JR芦原温泉駅→JR福井駅→福井市観光物産館 福福館→ホテルフジタ福井
【2日目】ホテルフジタ福井→JR福井駅→JR鯖江駅→うるしの里会館→メガネミュージアム→メガネストリート→JR鯖江駅→JR福井駅→JR金沢駅→JR東京駅