今回の列車旅ポイント
東北の温泉にロマンを感じる温泉ライターの泉よしかです。今回は、秘湯の宿に泊まってその土地ならではの食材を楽しみ、自然の中を散歩して癒やされたいと旅に出ました。
行き先は、岩手県八幡平市の「松川温泉 峡雲荘」。新幹線の停まるJR盛岡駅からバス1本で行けるのに、山の中で秘湯ムード満点。温泉は白濁した硫黄泉を贅沢に源泉掛け流し。期待に胸を膨らませて出発です!
旅の始まりはJR東京駅から。
盛岡駅まではおよそ2時間強の列車旅です。
岩手への旅は「JR東日本びゅうダイナミックレールパック」を利用すると、新幹線と宿をお得なセットで申込みできます。
盛岡駅で路線バスに乗り換え。
バスの乗車時間は約1時間50分。終点が目的地の松川温泉です。
盛岡駅を出発したバスは、やがて町を離れ乗り降りする乗客もまばらに。岩手山の北側をぐるりと半周するルートなので、左手の車窓からは頭を雲に隠した雄大な岩手山がずっと見えていました。
宿泊する「松川温泉 峡雲荘」に到着。
山あいにあり、秘湯の趣のある宿。
玄関を入ると、受付の前に年代物の木製スキー板とストック。なんと昭和初期の品で、うち1つは裏にアザラシの毛皮が貼られていました。
鉄瓶が下がる囲炉裏が、素朴かつ洒落た雰囲気を醸し出すロビー。奥に置かれたロッキングチェアーはくつろげそう。
今回宿泊するお部屋は2階の和室。シンプルながら、畳が新しく居心地良い。窓を開けると松川のせせらぎの音。本当はちらりと岩手山が見えるらしいのですが、あいにくこの日は山頂の雲が邪魔をして見えませんでした。
お部屋で一息ついた後はさっそく温泉です。これが楽しみではるばるやってきたのです。
峡雲荘の浴室は、女性用の内湯と露天風呂、男性用の内湯、そのほかに混浴露天風呂もあります。泉質は単純硫黄泉で殺菌効果が高く、火山性の温泉らしい硫化水素臭が特徴です。何より空気に触れることで色づく、青と緑と白の水彩絵の具を混ぜたような美しい濁り湯に癒やされます。
浴室は2024年にリニューアルされているため、壁も床もとてもきれいです。以前から、峡雲荘のお風呂にはシャワーはなく、髪などを洗うときには洗い場の掛け湯槽からお湯を汲んで使っていました。この掛け湯槽も新しく大きくなり、数人が並んで使えるようになっています。
そして露天風呂がまたいいんですよね。空が広く、木々の緑が目に鮮やか。
お宿の方に伺った話では、八幡平では秋にはナナカマドやカエデの赤、ブナやナラの黄、トドマツの緑などが交ざり合い、色とりどりの紅葉が楽しめるとか。例年、山頂は9月最終週から染まり始め、峡雲荘周辺の紅葉最盛期は10月中旬頃だそう。きっとこの露天風呂からもそれが一望できるのでしょう!
1階のロビーもとても良い雰囲気でしたが、2階にも趣のあるスペースがあります。本棚には宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』がありました。湯上がりはここでゆったり過ごすことにしましょう。
峡雲荘の夕食はお部屋食です。お部屋から出たくない、他の人に気兼ねすることなく食べたい時にとてもうれしい。食べている間に膝を崩しちゃっても許されます。
評判のお料理は、川魚や山菜を中心とした山のごちそう。メインとなるのは岩手県産のホロホロ鳥を使ったホロホロ鍋。このほかに、イトウ、岩魚(イワナ)、虹鱒(ニジマス)のお刺身、岩魚の唐揚げ、地元の山菜のサク、ミズ、ソデコなどの小鉢、味噌マヨやもろみ味噌で食べる姫竹などが並びます。秋には地物のキノコもたくさん出るそうですよ。
お刺身の川魚は地元で養殖されたもので、くさみがなく程よい弾力と爽やかな味わい。山菜は初めて名前を聞く珍しいものも多く、それぞれの歯ごたえや味付けが楽しめます。
岩魚の唐揚げは頭からしっぽまで食べられると伺い、きれいに全部いただいてしまいました。
食鳥の女王と呼ばれるホロホロ鳥と地物のお野菜を使った鍋。ホロホロ鳥はキジの仲間なので、良い出汁が出て滋味あふれる味わい。お肉もジューシーです。鍋のなかのネギや春菊、豆腐はたっぷり汁を吸って一口ごとに深い旨みが染み出してきます。鍋の汁はご飯にかけて最後までいただきます。
寝る前にはもう一度お風呂へ。見上げると雲の間からぽっかりと明るい月がのぞきました。
朝は早起きして6時半に玄関前へ。
峡雲荘では毎年6月頃から10月頃まで、日曜・月曜の朝に、希望者に向けて「朝の散歩」を実施しています。単なるお散歩ではなく、八幡平自然散策ガイドの福島さんが、約50分みっちり宿周辺の自然や植物の説明をしてくれながらの散歩です。無料とは思えない充実した時間になります。
ウダイカンバは皮を鵜飼の松明に使うとか、マイヅルソウは氷河期の生き残りで草丈のわりに実が大きいとか、どのお話も面白い。秋にはハウチワカエデは真っ赤に、ハリギリは薄い黄色にと、紅葉情報も教えてもらえます。
ノリウツギは和紙の糊の原料だから糊ウツギ、イタドリは痛みをとるからイタドリと呼ばれるのだそう。興味深い。
キシリトールを含む甘い樹液が取れるというこの木は、イタヤカエデ。
最後は日本の森林、特にブナ林の成り立ちと働きについてのレクチャー。落ち葉が腐葉土となり雨水を保水し、清流と豊かな山や海をつくるのだと教えていただきました。
峡雲荘では、福島さんにガイドをしていただける個人トレッキング(別料金)にも申込むことができ、八幡平の景色や高山植物をさらに楽しめます。
3時間ほどかけて八幡沼を1周するコースは、紅葉の時期におすすめ。
人気の「八幡平ドラゴンアイ(鏡沼)」を見に行くコースも。このコースは5月下旬~6月上旬だけの実施なので、前もって予定を立てておくのがおすすめです。詳しくはお宿のホームページ をご確認ください。
宿に戻ればちょうど朝食の時間。
大広間でいただきます。飲むヨーグルト、納豆、海苔などはセルフサービスです。
注目は八幡平の地熱エネルギーを活用して育てたユニークな「温泉バジル」。トマトとモッツァレラチーズで彩りも鮮やか。味わいは爽やか。
食後はロビーでコーヒーを。そうだ、急いで朝風呂に行ってみよう!
今なら誰もいないかと思い、最後は思い切って混浴露天風呂へ。峡雲荘の混浴は、脱衣所が男女別で入りやすいです。お湯も濁り湯なので入ってしまえば安心。まだ帰りたくないなぁ!
チェックアウト後に盛岡駅まで戻ってきたら、駅から路線バス約10分+徒歩約5分の「南昌荘」へ。
こちらは1885年(明治18年)頃に盛岡出身の実業家で、みちのくの鉱山王と呼ばれた瀬川安五郎が建てた邸宅と庭園。盛岡の有力な政治家、銀行頭取、豪商の手に次々と渡り、現在はいわて生活協同組合が所有。国登録記念物、盛岡市指定保護庭園、景観重要建造物にも指定されています。
特に有名なのが新緑や紅葉がリフレクションする中2階の「南昌の間」。思わずため息が出ちゃう美しさ。初夏は床みどり、秋は床もみじに染まります。ここで抹茶やコーヒーをいただくこともできるんですよ。なんたる贅沢!
なお、こちらの30畳の板の間は、元は畳敷きでした。終戦後に進駐軍の将校がここに居住し、パーティーやダンスのために板張りに変えたという歴史があるのだそう。
お庭も散策できます。池泉回遊式庭園なので、池の周りをぐるりと回れます。振り返るとお屋敷の屋根の赤瓦がつややか。
庭園には落葉樹が多く、紅葉の季節はさぞや! と想像できます。盛岡駅から近いエリアに、こんなに風情豊かな名園があるなんて初めて知りました。
南昌荘から再び盛岡駅へ。帰路につきます。盛岡駅周辺にはまだまだ魅力的なスポットがあると思うので、ぜひ再訪したいと思います。
掲載情報は2025年9月4日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR盛岡駅→松川温泉 峡雲荘
【2日目】松川温泉 峡雲荘→JR盛岡駅→南昌荘→JR盛岡駅→JR東京駅