新幹線という移動空間を単なる「移動の場」ではなく、地域の魅力を深掘りし、自ら物語を紡ぎ出して「価値ある体験」へとアップデートする……。そんなツアーがあると聞きつけた、『びゅうたび』ライターの地主恵亮さん、ゆっこさん、藤田華子さん。
山形の魅力に触れながら、新幹線の車内で「ショートショートの書き方講座」を受けるという、「新しい旅の楽しみ方」を体験した3名の様子をレポートします。
【目次】
『びゅうたび』ライター3名が参加した本ツアーの正式名称は「『つばさ』車内で田丸先生のショートショートの書き方講座を体験 物語を作る新幹線旅!山形を“想像してから”旅してみませんか」。
「ショートショート」とは、短い文章で少し不思議な物語を紡ぎ出す短編小説のこと。JR東京駅からJR山形駅に到着するまでの3時間弱で、ショートショートの書き方を学べます。読書をしたり音楽を聴いたり、移動時間の楽しみ方はさまざまですが、新たな楽しみ方が体験できるなんて……なんと欲張りな!
こちらのツアーは、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)と、映像を通じて新たな価値を創出する株式会社ビジュアルボイス、新幹線内の視聴環境の提供をするNTTドコモビジネス株式会社の3社による特別企画の旅行商品で、2026年6月に実施されました。
旅行予約サイト「日本の旅、鉄道の旅」では、今回ご紹介するような、列車と旅先の地域ならではの魅力を楽しむ団体型旅行ツアーを多数ご用意しています。詳しくはこちら
田丸雅智先生
人気ショートショート作家の田丸雅智先生を講師に迎え、目的地である山形を題材にした物語を書き上げるという、これまでにないクリエイティブな新幹線旅。さらに、新幹線車内という移動空間に最適化した「コンテンツ視聴×音響」も体験できるそう。期待が高まります!
株式会社ビジュアルボイスとは
株式会社ビジュアルボイスは、米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」の企画・運営をはじめ、映像制作やイベントプロデュース、メディア事業などを展開。
企業や団体のブランディングに特化した「BRANDED SHORTS」の10周年を機に、映像を通じてブランド戦略、人材育成、ビジネスマッチングを加速させるビジネスプラットフォーム「Visual EXPO by BRANDED SHORTS」もいよいよ2026年9月28日より始動。
旅の始まりは東京駅から。集合場所の改札前で本日のきっぷと資料を受け取り、いよいよ山形新幹線「つばさ」に乗り込みます。ツアー開始を前に、参加メンバーの意気込みも十分です。
左から、ゆっこさん、地主さん、藤田さん
地主恵亮さん:
新幹線の中での創作活動。流れる景色が創作意欲を掻き立てる気がします! また山形駅に着くまで、というタイムリミットがズボラな私には最適かなと! いつか書く、で書かないことも多いので、なんなら一番重要なポイントかもしれません!
ゆっこさん:
初めて訪れる山形を舞台に、旅行前にショートショートを書き上げられるか、正直少し不安です。でも、新幹線車内の講座がどんなふうに進み、受けたあとに山形へのイメージがどう変わっているのか楽しみでもあります。
藤田華子さん:
元々ショートショートが大好きで、名手の稲垣足穂さん(1900~77年)が描くような、不思議な世界に連れて行ってもらえる感覚に憧れていました。自分でも執筆した経験はありますが、プロの先生から直接ご指導いただけるなんて、今から本当に楽しみです!
新幹線が東京駅を出発すると、まずはJR東日本山形駅の社員・高橋さん(所属は取材時)による、山形の魅力紹介が始まりました。
JR東日本山形駅社員の高橋さん
山形県の地理や風土、文化を詰め込んだオリジナルの紙芝居を用いた見どころ紹介は、県内在住者で、山形観光の玄関口・山形駅の社員だからこその説得力。より深く山形の魅力を学び、山形を楽しむ準備を整えます。
紹介された内容は、ショートショートの題材になりそうなキーワードで溢れていました。たとえば……
・さくらんぼ
6月から7月上旬は収穫の最盛期。明治時代、紅花生産に代わる産業として研究され、山に囲まれた山形の気候が適していたため、今では全国の生産量の7割を占める日本一の産地となった。
・4つの名峰
「過去」を表し祖先の魂を慰める「月山」、雪解け水が幻想的な「水没林」をつくる飯豊連峰、幸運の「白猿」伝説が残る吾妻連峰、そして「東洋のアルカディア」と称された置賜盆地を一望できる十分一山。
・夏の味覚
夏野菜を刻んだ郷土料理「だし」や、上杉鷹山が食用と防犯を兼ねて垣根としての栽培を奨励した「うこぎ」など。
お話を伺うだけで、これから降り立つ山形への期待が高まります。
そして、いよいよ田丸雅智先生による「ショートショートの書き方講座」がスタート。
田丸雅智先生
田丸先生は13年間この講座を続けてこられたベテランであり、ファンも多い人気小説家です。今回、目指すところは「空想で世界を彩る」こと。先生がご用意くださった講座のステップにしたがって、ワークショップ形式で制作を進めます。
ステップ1:不思議な言葉をつくる
ステップ2:不思議な言葉から想像を広げていく
ステップ3:想像したことを短い物語にまとめる
田丸先生が例として読み上げてくれた『星さくらんぼ』という作品は、タイトルの言葉の響きだけで、一気に想像の世界が広がります。
びゅうたびライター陣の制作時間をのぞいてみると……
地主恵亮さん:
何を書けばいいのか、という一番重要な最初の手がかりをつくる方法を知ることができました! 言葉を組み合わせて不思議な言葉をつくり、それを紐解いていく。もう書けちゃうじゃん、と説明を受けただけで感じました!
ゆっこさん:
3ステップに分かれたワークショップは、物語の創作が初めての私でも取り組みやすく安心でした。特に「不思議な言葉をつくる」の言葉遊びが新鮮で面白く、本来ならもっと時間をかけたいところ。
頭を悩ませつつも先生のサポートのおかげで、少しずつまとまってきました。先生からの「自由」と「楽しむ」という言葉を大切に、最後まで楽しみます!
藤田華子さん:
段階を経てつくり込んでいくため、驚くほどスムーズに言葉が溢れてきました。「こうやって物語を紡いでいくんだ!」という新鮮な発見の連続で、終始優しい先生のおかげでやる気が湧いてきます。夢中でペンを動かすうち、新幹線がどんどん進んでいく不思議な感覚を味わいました。
ショートショートの制作時間を利用して、車両後方ではNTTグループが連携して開発した、「コンテンツ視聴×音響」の新しい新幹線体験のトライアルも実施されました。
PSZの説明をいただき期待が高まります!
耳元だけに音が広がり、周囲への音漏れを気にせず自分だけの空間を楽しめる「PSZ(パーソナライズドサウンドゾーン)」技術を用いた音響体験。ライター陣も、さっそく体験してみます。
地主恵亮さん:
新幹線での移動中は基本的にイヤホンをつけて音楽を聴いています。それは流れる景色と音楽が一体になってなんだかドラマチックに感じるからなんですが、ただずっとイヤホンをつけていると耳に圧迫感があるんですよね。それが解決! 開放感があるのに、音はクリア!
ゆっこさん:
PSZ技術は、耳をふさがないのに頭の外から音が立体的に届き、新幹線に乗りながら映画館にいるような感覚を味わえました。
それでいて車内アナウンスはしっかり聞こえ、近くの人との会話もしやすいのが不思議でした。大きめのモニターがあると、移動時間の映像視聴がより没入感のあるものになりそうです。
藤田華子さん:
臨場感がもの凄く、まるで別世界に迷い込んだかのような近未来の体験に驚きました! 移動中のエンターテインメントがさらに充実しそうで、新幹線に乗車する時間そのものが新しくアップデートされる予感でワクワクします。
そうしているうちに、新幹線は目的の山形駅に近づいていきます。最後に、作品の発表タイム。びゅうたびライター陣の作品を紹介します。
『畦道のナポレオン』
私はカモシカにまたがり峠に向かい走っていた。ここ最近は忙しくて一日三時間ほどしか眠れていないため、なぜカモシカにまたがっているかは覚えていない。サン=ベルナール峠を越えるナポレオンは馬にまたがっていたし、この辺りはカモシカが生息しているので、峠を目指す私がカモシカにまたがっていても不思議ではないのかもしれない。
カモシカのタテガミを引っ張り、無人販売所の前でカモシカを降りた。初めてカモシカにまたがったけれど、乗りこなせていた。不可能はないということだろう。
無人販売所には、朝採れのさくらんぼがパックに入り並んでいた。五百円を木の箱に入れて、さくらんぼを一パック手に取り、再びカモシカにまたがった。
走るカモシカの背の上でさくらんぼを食べると、その甘さに、その瑞々しさに頭が少しクリアになった。だからと言ってなぜカモシカに乗っているのかは思い出せない。振り返ると雲海が広がっていた。私はもう思い出すことをやめた。前だけを見ようと決めた。進む先を指さすと、カモシカは峠を越えた。
買ったさくらんぼのパックを見ると「ナポレオン」と書かれていた。そういう品種なのだろう。
作品を発表する地主さん
『画面遠のく、さくらんぼ』
ワークライフバランスが浸透した現代ではカフェでコーヒーを飲むようにリフレッシュしたい時に選ばれるおやつがある。甘酸っぱく、ひと粒で気分が切り替わる「さくらんぼ」だ。
山形には、古くからこんな言い伝えがある。
「さくらんぼを食べた日は、文を書くな」。手紙の時代からの言葉だが、今ではスマホのメッセージにも当てはまるらしい。
実際、仕事上での誤送信やSNSでの失言をしてしまった、という話も広がっている。
さくらんぼをひと粒食べると、ふいに誰かへの返信や、思いつきの投稿が頭をよぎる。
だが、その日のうちはなにも送らないほうがいい。理由は誰も知らない。ただ、昔からそう言われている、というだけだ。
最近では金曜の夜や長期休暇の前にさくらんぼを食べ、スマホを伏せて目の前にいる友人や家族との時間を大切にする人が増えているという。
ふと、デスクの上の箱に目がいく。今朝もらった、さくらんぼだ。
今日は金曜日。
参加者の作品を聞くゆっこさん
『どくだみの花のだし』
うちの冷蔵庫には、そこだけ、キラキラと輝くどくだみの花のだしが入った小瓶がある。知る人ぞ知るひなびた土産屋で、店主に合言葉を伝えると特別に出してもらえるのだ。それは、月夜の晩、月山で神様の使いである白猿たちが、踊りながら、歌いながら、作るそうだ。冷えたお酒に一滴垂らすと、どくだみの青い香りと、砂糖の甘い香りが広がり、たちまち幸福な気持ちになれる。1年のうちどくだみが咲く今は、白猿たちの繁忙期というわけだ。
作品を発表する藤田華子さん
制作時間内に完成した作品には、田丸先生から温かい講評をいただきました。地主さん、藤田さんの作品へのコメントを紹介します。
・地主さんの作品へ:
「神秘性を掻き立てる内容。短い中で突き抜けていて、日常の見え方を変えてくれる作品ですね」
・藤田さんの作品へ:
「白猿たちがつくっている、という設定がそそられます。今の季節感もうまく加味されていて、どこかに白猿がつくった『だし』がないかな? とキョロキョロ探したくなるような雰囲気があります」
地主恵亮さん:
発表できるのがよかったです! 先生の講評も聞けますし、書いたものの反応をその場で知ることができるのは今後もショートショートを書き続けるモチベーションアップになったと思います。あと単純に拍手をもらえるとうれしいのです!
すべてのプログラムを終え、あっという間に目的地の山形駅に到着。最後に全員でお疲れさまの拍手をして、ツアーは幕を閉じました。ツアーを終えての感想を、ライター陣に聞いてみました。
地主恵亮さん:
山形駅までは約3時間。濃密で、いい意味で緊張感がありました。面白いものを書きたいと思うと自然と緊張感が生まれます。ただその緊張感は楽しいものです。山形駅に着いた時は心地よい疲れを感じました。
先生からショートショートの書き方を習ったので、今後も書こうと思います。題材を探そう、と思いながら到着した山形を歩くのは今までにない旅の楽しみとなりました!
ゆっこさん:
旅行前は山形を題材にしたショートショートが書けるか不安でしたが、思ったより自由な形式で取り組みやすく、乗車時間内に形にできてほっとしています。
他の方々の作品も十人十色の山形が描かれていて面白く、滞在中にふと物語の続きを思い出す瞬間がありそうです。
山形駅社員の方による「旬」の見どころ紹介では、名産品の背景を深く知ることができ、こちらも興味深かったです。移動時間から旅が始まり、滞在に深みが出る、そんなツアーでした。
藤田華子さん:
新幹線に身を委ね、物理的に遠くへ移動しながら、自分の思考もどんどん遠くの物語世界へ飛んでいく感覚はこれまでにないほど新鮮でした。この独特の広がりは、新幹線という特別な移動空間だからこそ味わえるものだと思います。
乗車中は物語の世界にどっぷりと浸かり、降りたらもう目的地。まさに一本のショートショートを読み終えたかのような、鮮やかで不思議な移動体験でした。とっても楽しかったです!
新幹線を降りる前、田丸先生は最後にこう締めくくられました。
「想像を広げ、お話をつくることは誰でも楽しんでいいこと。身構えずに、日記を書く感覚で楽しんでほしいです。物語をつくることを通じて、その土地(山形)をもっと知りたいという興味が湧いたり、日常の見え方が変わったりします。生きていることのすべてが題材になり、経験したことすべてが活かせるのがショートショートの醍醐味です」
新幹線の車窓を流れる景色が、これまでとは少し違って見える。
そんな充実した移動時間を経験した、びゅうたびライター陣でした。
掲載情報は2026年8月18日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
\2026年8月25日公開予定/
びゅうたびライターが実際に訪れた!
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