駅弁食べ歩き歴18年、ライターの望月崇史です。
これまでのべ約5,000個をいただいてきましたが、駅弁の食べ歩きは「終わりなき旅」。
各地の駅弁屋さんが次々と新作を開発しますが、ひと握りだけがロングセラーとなっていきます。
今回は、東北新幹線および北陸新幹線沿線で、新作、ロングセラーを含めた10の駅弁を厳選いたしました。
今や仙台名物として全国区の人気を誇る「牛たん」。
牛たん駅弁は数多くありますが、その元祖とされるのが、2020年で創業100周年を迎える、仙台の大手弁当会社・こばやしが製造する「網焼き 牛たん弁当」(税込み1,100円)です。仙台では昔から牛たんを食べる習慣があり、発祥とされるお店では、御主人が七輪を使って牛たんを焼き上げていたといいます。
牛たん駅弁の誕生は今から約30年前、牛たん専門店の人気が高まっていた時期。
しかし、冷めると固くなりやすい牛たんの特性が、駅弁化を阻んでいました。
そこへ登場したのが、紐を引き抜いて蒸気で温めるタイプの「加熱式容器」。
この容器を使って、熱が通りやすい厚さ3ミリの牛たんとすることで、今に続く「網焼き 牛たん弁当」が生まれました。
JR仙台駅から列車に乗り込めば、程なく紐を引き抜く音とシューッという蒸気の音があちこちから聞こえてきて、やがていい香りが辺りに漂ってきます。
これもまた、東北新幹線ならではの列車風景です。
世界文化遺産・平泉、そして岩手が誇るブランド「前沢牛」のふるさと・前沢。
これらのエリアの玄関口となるJR一ノ関駅では、昭和40年代から牛肉駅弁が販売されてきました。
注文から短時間で作ることが求められる駅弁の特性上、シンプルなものが一般的でしたが、その定石を覆し、とことん手間暇をかけて生み出された駅弁が、斎藤松月堂が製造する「ひふみ弁当」(税込み1,350円)です。
一ノ関発祥、東京でも有名店となっている「格之進」のブランド肉・門崎熟成肉を中心に、「ひふみ」の名の通り、3つの味が楽しめます。
斎藤松月堂の技が光る「門崎熟成肉」のあぶり焼き。
国産牛と白金豚を使い「格之進」で作られた生のパテを1つ1つオーブンで丁寧に焼き上げたハンバーグ。
特別に用意された圧力鍋を使い、醤油と山椒で甘辛く煮込まれ、うまみが凝縮された牛すじ煮。
そのいずれも無駄のない、牛肉の美味しさを余すところなく感じられる駅弁です。
「いちご煮」と聞いて、果物のいちごを思い浮かべた方、いませんか?
アナタにはまだまだ、「東北」が足りていません!
「いちご煮」とは、新鮮なうにとあわびでお吸い物風に仕立てたもので、うにを熱いお湯につけると、きいちごのように見えるところから、この名前がつけられたといわれます。三陸沿岸を代表する郷土料理のひとつで、青森県内では、八戸市周辺のお店を中心にいただくことができますが、このいちご煮をあんかけ風にアレンジした新作が、2019年、誕生しました。
八戸を拠点に駅弁を製造する吉田屋の、その名も「あんかけいちご煮丼」(税込み1,200円)といいます。
めかぶ・あわび・うに・いくらが贅沢に載ったご飯に、別添になっている、しそ入りのあんを、とろ~りかけていただくと、辺りにはフワッと磯の香りが漂います。
焼き物、揚げ物が多い駅弁にあって、あんかけのウェットな食感はとても新鮮です。
「美味しいものをチョットずつ食べたい!」
旅に出るたび、そんな思いに駆られる方も多いのではないでしょうか。
五所川原に拠点を置く「つがる惣菜」が製造し、JR新青森駅で販売されている駅弁、「津軽めんこい懐石弁当 ひとくちだらけ」(税込み1,350円)は、そんな旅人たちの贅沢な思いに、見事応えた駅弁!
青森の郷土料理が、なんと「24」のマスに小分けされているのです。
コレ、ひとつの駅弁が完成するまでに「24」もの製造工程があるということ。
郷土料理が小分けされた駅弁は各地にありますが、ここまでくると圧巻の「景色」です。2019年秋、東日本エリアを中心に開催された駅弁の人気投票「駅弁味の陣2019」でも、「盛付賞」を見事受賞しました。
ラインナップは、イカメンチ、生姜味噌おでん、紅生姜の入ったいなり寿司、十和田ゆかりの牛バラ焼き、黒石やきそばなど、個性的な青森の郷土料理の多くを網羅。可愛らしい盛り付けと共に、青森をぐるっと1周した気分になれる駅弁です。
上越新幹線と北陸新幹線が分岐するJR高崎駅。
この高崎駅で、昭和9年から販売されている「超」ロングセラー駅弁が、高崎弁当が製造する「鶏めし弁当」(税込み1,000円)です。
高崎弁当の先代の御主人が、九州出身だったことが縁で鶏を使った駅弁が誕生。
まだ新幹線のなかった時代、信越本線や上越線の列車で、上信越に点在するスキー場を目指した若者たちに愛されたともいわれ、地元・群馬の皆さんからもアツい支持を受けている駅弁です。
茶飯の上に敷かれた鶏そぼろと焼き海苔がとてもいい風味。
メインのジューシーな食感が楽しめる鶏の照り焼きと、ついついクセになるコールドチキンを引き立ててくれて、ご飯がどんどん進みます。
この駅弁を味わいながら、碓氷峠を越え、上越国境の長いトンネルに入っていった昔の人たちを思い浮かべると、一層美味しくいただけることでしょう。
軽井沢を訪れると、駅弁は「峠の釜めし」という方も多いハズ。
でも、昼前におぎのやさんの売り場をのぞいてみると、時折、緑色の掛け紙に包まれた細長い駅弁の折を見かけることがあり、旅慣れた風情の方が買い求めていく様子が見受けられます。
じつはこの駅弁こそ、知る人ぞ知る「玄米弁当」(税込み650円)!
小豆やハト麦と一緒に炊いたという玄米に、がんもどきやひじきの煮物、きんぴらごぼうなどが入っていて、昼前にはほとんど売り切れてしまう、昭和の頃から続くロングセラー駅弁なのです。
この駅弁、化学調味料や動物性たんぱく質、添加物などを一切使用しないで作られており、しおりには「どんなにご多忙でも、ご旅行中の時ぐらいは、ごゆっくりと良く噛んで(一口、八十回~百回)主食を三口、副菜を一口の割合で召し上ってください」とも。「召し上がる方に健康になってほしい」という気持ちもたっぷり詰まった、どの駅弁よりも「お客様思い」の駅弁なのです。
2020年春、北陸新幹線・長野-金沢間が開業してちょうど5年を迎えます。
5年前の2015年は、7年に1度の「善光寺御開帳」の年でした。
新幹線の延伸を記念してJR長野駅に登場した二段重ねの駅弁が「信州 美彩膳」(税込み1,100円)です。長野市を拠点とする「デリクックちくま」が製造、長野駅改札内の「科の木」で販売されています。
地元・信州の食材を使い、北陸新幹線・善光寺を通して結ばれる「ご縁」をテーマにした駅弁。メインの五色の串は、御開帳などの際に前立本尊と結ばれる「善の綱」と重ね合わせて表現したといいます。
ご飯は信州サーモンの燻製が載ったちらし寿司で、明るい彩りが目を引きます。
胡麻和えなどで精進料理風としながら、肉や魚のおかずも使って、現代風に仕上げています。伝統と今が共存することで、現在・過去・未来と、時のつながりも感じられるありがたい駅弁です。
「駅弁味の陣2019」で、見事1位の「駅弁大将軍」に輝いたのが、北陸新幹線・JR上越妙高駅などで販売されている駅弁、ホテルハイマートが製造する「さけめし」(税込み1,200円)です。
汐昆布の炊き込みご飯の上に、焼鮭のほぐし身といくらの醤油漬けがたっぷり載っていて、その見た目に大いに食欲をそそられます。
鮭のふんわりとした食感の秘密は、1つ1つ手作業で、愛情込めて身をほぐしているから。「ホテルハイマート」は、駅弁味の陣で、初代の「駅弁大将軍」に輝いた「鱈めし」の製造元ですが、じつはホテルハイマートの社員さんをはじめ、地元・上越市周辺の皆さんには、この「さけめし」の熱烈なファンの方が多いのだそうです。地域に根差した駅弁が、都市部でも高く評価されたことは、作り手の皆さんや地元の皆さんにとって、喜びもひとしおではないでしょうか。
富山の駅弁といえば、「ますのすし」。
でも、「ますのすしは大きすぎてひとりじゃ食べられない」「マス以外のお魚も食べたい!」といった、欲張りなアナタにおすすめしたいのが、富山の老舗駅弁会社の「源」が製造する「海鮮美食」(税込み1,200円)です。
2015年、北陸新幹線(長野-金沢間)の開業と共に登場した駅弁で、キャッチフレーズは「押し寿司の海鮮丼」! マスに始まり、帆立、甘海老、玉子、マスのはらみ、ブリ、ベニズワイガニと彩り豊かな7つのネタが、四角い枡にギュッと詰まっています。
じつは富山には、昔から各家庭でさまざまな魚を「押し寿司」にして食べる文化があるのだそう。加えて、製造元の「源」は、明治時代の高級料亭・天人楼に由来する老舗駅弁屋さん。各種の魚介を使ったうま煮は、料亭時代の伝統を今に伝える逸品です。その意味では、マスのはらみや帆立の味付けにも、駅弁屋さんのこだわりがギュッと凝縮。富山を訪れたら、これをいただかずに帰ることはできません!
北陸新幹線で金沢を訪れたら、できることなら、奥能登へと足を延ばしたいもの。
ただ、金沢から輪島へは2~3時間ほどかかるので、時間がどうしても取れないというアナタには駅弁で奥能登を味わうのがおすすめ!
JR加賀温泉駅を拠点に、JR金沢駅でも駅弁が販売されている高野商店が手掛ける「輪島朝市弁当」(税込み1,050円)は、輪島市朝市組合も公認の駅弁です。
朝市の風景をイメージした包装を開ければ、フワ~ッと磯の香りが漂い、かきめしをメインに、サザエ、ブリ、タラコに加え、イカの水揚げ港として知られる能登町・小木港産のイカとわかめの酢の物と、能登半島らしい海の幸がいっぱい! 七尾市内で受け継がれてきた中島菜入りの堅豆腐も入っており、ディープな能登の幸を少しずつ、お試し感覚で味わえます。
「駅弁は地域の宝箱」。
地域で受け継がれてきた食文化と、駅弁屋さんの技がひとつの折にギュッと詰まっています。
最近はターミナル駅で買える駅弁も増えましたが、やはり、それぞれの地域に足を運んで、土地の空気と水を堪能しながらいただく駅弁は格別です。
新幹線は今も、あっという間に東北へ、北陸へ私たちを連れて行ってくれる「夢の超特急」。
さあ、思い立ったら即行動!
あの駅で、数々の駅弁が、アナタが手にしてくれるのを、今か今かと待っていますよ!
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掲載情報は2020年2月14日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。