熱海レトロ旅 。地元の人&昔のガイドブックで、昭和バブルの「心地いい名残り」を探す
熱海という場所がある。新幹線も止まる、有名な温泉観光地だ。一昔前は「新婚旅行」といえば熱海だった、なんて話も聞いたことがある。ただ、意外にちゃんと観光したことのある人は少ないのではないだろうか。
熱海には何があるのだろうか。熱海と言われて思い浮かべるのはどうも「昔」だ。浴衣を着た新婚カップルが街中を歩くような。あるいは団体旅行の方々が射的をやるみたいな。そこで、今の熱海と昔の熱海を旅してみようと思う。
今と昔の熱海を比べるために、昭和60年に出たガイドブックと、平成2年に出版されたガイドブックを手に入れた。昭和とバブル期のガイドブックだ。このガイドブックを片手に今の熱海を歩けば、今と昔の熱海の違いがわかるはずだ。
熱海の今と昔
踊り子号で降り立った熱海駅は、とてもきれいだった。ガイドブックによれば、駅の横に「熱海駅デパート」というものがあったようだけれど、今は見当たらない。きれいで大きな熱海駅が鎮座している。最近新しくなったのだろうか?
熱海駅はつい最近、2016年11月25日にリニューアルオープンしたそうだ。それによって「熱海駅デパート」はなくなり「ラスカ熱海」というショッピングセンターになっていた。当時の駅デパートにあったお店は、「ラスカ熱海」にはほぼ入ってないそうだ。
観光客に人気の平和通りは今も多くのお店が営業している。以前に比べれば賑わいは減ったそうだけれど、一時に比べれば賑わいが増えている。いまややこしいことを言ったけれど、熱海については、ガイドブックだけではわからないので、熱海で生まれ、熱海で育った方に熱海についてガイドしてもらった。その方に聞いたのだ。
西海さんは2016年現在「ほぼ60歳」で、大学と社会人1年目の計5年間を除いて、ずっと熱海で暮らしている。熱海の今と昔を知り尽くしている人なのだ。熱海はバブルがはじけて人が減ったけれど、最近また盛り返しているとのことだった。
新婚の熱海…?
西海さんいわく、熱海と言えば新婚旅行のイメージがあるけれど、それは40年以上前の話だそうだ。そのころをピークに熱海へ来るお客さんは徐々に減っていった。バブルがはじけてからはさらに減り、ホテルなども廃業していった。
バブル後は団体旅行のお客さんが減り、ホテルが少なくなった。その代わりに現在はマンションが増えた。東京まで新幹線なら1時間以内に着くので通勤の圏内なのだ。西海さんの娘さんも熱海から東京の大学に通っていたそうだ。
駅前の再開発やマンションの建設など、今の熱海はどんどんと新しくなっている。以前はテトラポットだった海が砂浜(サンビーチ)となり、マリーナができ、オシャレになっているのだ。熱海は実は近代的な場所なのだ。
バブル後は人が減ったけれど、新たに整備されてきたこともあり、またお客さんが増えている。たしかに街を歩くとおもしろい。昔と今の両方があるのだ。懐かしい街の雰囲気を残しつつ、おしゃれなものがある。不思議な感覚だ。
明治の大恋愛小説『金色夜叉』の舞台もココ
熱海といえば「お宮の松」だ。小説『金色夜叉』で、貫一とお宮の別れのシーンで有名になった松が銅像とともに鎮座している。当時のガイドブックにも当然載っている「熱海を代表するスポット」だ。
今もお宮の松はご健在。ただ現在はどこか背景がオシャレだ。南国のようにも見える。逆に昔のお宮の松の写真には、浴衣を着た人々が写っている。団体旅行の人々だろう。今ではあまり見ない光景だ。
次は錦ヶ浦に行こうと思う。というか、連れて行ってもらった。切り立った崖が壮観なスポットで、レストランやホテルなどもある。遠くには初島が見える絶景ポイントだ。
当時のガイドブックそのままの風景が今も残っている。ちなみにここの地面の下は(下の写真)、ホテルの施設になっており、パーティーなどができるガラス張りの会場になっている。すごい開発だ。
さらにガイドブックを見ると「にしき亭」というレストラン下の公園内に 展望トイレがあるそうだ。ガラス張りになっていて、「海を見ながら用を足せる」そうだ。なんでも海側をガラス張りにするのが錦ヶ浦流なのかもしれない。
ここは西海さんも知らなかったそうだ。ちなみに少し遠いので「ヤバい!」という状況でこのトイレを目指したら、漏れると思う。ただ美しい景色を見たら、「それもアリかな」となるのかもしれない。
熱海で出会ってしまった、メチャうまカレー
錦ヶ浦からもカッコよく見えた熱海城。城は今も昔もあり、熱海の景色を見下ろすことができる。見下ろすと「熱海後楽園」が見える。ガイドブックによると、ホテルやショールーム、観覧車などがあった一大レジャー施設だったそうだ。
昔は伊豆周辺では群を抜いた規模の遊園地だったけれど、平成6年(22年前)に観覧車がなくなりボウリング場に、その後ホテルになった。ショールームでは、東京の後楽園ゆうえんちとタイアップして、ウルトラマンや戦隊物のショーがあったそうだ。
持って行ったガイドブックにはめぼしい食事処が載っていなかったので、西海さんに「宝亭」を紹介してもらった。カレーのお店だ。このお店を知らなければ、熱海ではもぐりと言われるほど有名なお店だという。
昔からあるこのお店。カレーがめちゃくちゃおいしかった。王道のやつなのだ。それがおいしいのだ。王道って他と比べられて勝ち負けがはっきりすると思うのだけれど、勝っている味。王道で最高においしいということは、カレー界のキングということ。熱海で出会えるとは思わなかった。
ところで、熱海の夜景は「東洋のナポリ」と呼ばれている。ガイドブックには「東洋のベニス」と書いてあったけれど、西海さんは聞いたことがなかったそうだ。ただ夜景は美しいのだ。ということで、上記のガイドブックにある夜景の場所に連れて行ってもらった。
ガイドブックにある場所に行ったけれど、何も見えなかった。昔のガイドブックを見るとドーム型のものが見える。これはサボテン公園の施設なのだけれど、この写真が撮られた数年後に取り壊され、そこに建物が建った。よって、全然夜景が見えないのだ。
あと、夜景なのになんで昼間に行ったかというと、下見を兼ねてだったのだけれど、この夜、ホテルで私が熱を出したので、結局、実際の夜景を見に行くことができなかった。下見に行ってよかった。熱を我慢して行って、この景色だったら泣いていたと思う。
昭和の香り
翌日は「和田たばこ店」に出かけた。海沿いを走る国道135号線から山側に200メートルほど入った住宅街にある、一見普通のたばこ店である。
たばこもあるのだが、駄菓子屋さんでもあり、「その道」ではちょっと有名なのだ。実はこの「和田屋」には、懐かしのゲーム機がたくさんあるのだ。
これらのゲームが和田屋にやってきたのはバブルの後のこと。バブルの頃まではこのようなレトロゲームはホテルにあった。和田屋はホテルにゲームを貸していたのだ。ただバブルがはじけて、ホテルが潰れ、貸していたゲームが戻り、今のようになったのだ。
和田屋の隣にはレトロゲームだらけの建物もある。10円を入れてレバーを弾くゲームたち。今のゲームとは違う、懐かしさがある。思い描いていた熱海はこのようなゲームがある場所だ。それが和田屋に来れば体験できるのだ。
最後は「梅園」に行った。こちらは12月に梅の咲く場所だ。めちゃくちゃ早いのだ。私が訪れた12月13日はまだまばらだったけれど、一部、本当に一部、梅の花が咲いていた。
1月中旬~3月上旬には、毎年「梅まつり」で賑わうという。これからが本番だ。
昭和とバブル
イメージにある昭和やバブルの熱海と、今の熱海を両方堪能できた気がする。古いガイドブックや西海さんがいたからだけではない。熱海は両方が息づく街だからだ。行けば誰でも体験できる。今と昔を行ったり来たり。そんな不思議な空間が熱海だと思う。はしゃぎすぎて熱を出したのが、熱海の楽しさを裏付けているのではないだろうか。
掲載情報は2020年1月17日更新時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】東京駅→熱海駅→サンビーチ→お宮の松→錦ヶ浦→熱海城→宝亭
【2日目】和田屋→梅園→熱海駅→東京駅