いつでもどこでも、仕事のメールを受け取れてしまう現代。就寝前に急ぎの仕事の連絡が来て、ハラハラして眠気が吹っ飛ぶこともあったり……。さらにSNSを見れば、大量の情報が自分の中にドドドッと流れ込んでくる。そんな生活も楽しいんだけれども、たまに、ふと思うのです。「俗世から離れて、静かな時間を過ごしたい」と。
今回は、そんな自分の夢をささやかにかなえる“デジタルデトックス旅”をしようと思い、JR東京駅から新幹線で約1時間40分のJR福島駅に向かいます。グッバイ、俗世。
まずは雑念をリセットしようと思い、福島駅から飯坂線で花水坂駅まで20分、そこからタクシーで約10分の場所にある、中野不動尊へ。
日本三不動のひとつでもある中野不動尊は、厄除不動明王と眼守不動明王、三ヶ月不動明王が祀られているそう。まずは入り口の「とげぬき地蔵」で、人間が持つという五欲(見・声・香・味・觸の五つの欲)を流します。
体の調子が悪いところと同じ箇所をたわしでこすると「障りのとげが抜かれる」と言われています。私はPCやスマホの使い過ぎによる目の疲れを取りたかったけど、なんとなく地蔵尊の目をたわしでこするのは遠慮しました。たわしで目をこすったら、地蔵尊も痛いよね……? その代わり、強く念じておきます。
中野不動尊の奥には、かつて修験者たちの道場として使われていた洞窟があります。今でも入ることが可能で、1周10分ぐらいで巡ることができます。
洞窟の入り口はとても暗くて、なかなか勇気が出ずに入り口付近でウロウロ。後から来たおばちゃん集団がワイワイと入って行ったのを見て、安心して私も中へ。ひとりだったら、かなり勇気がいるかもしれません。
洞窟の中はところどころ電灯もついているし、一本道なので迷う心配はありません。入り口にロウソクもあるので、それを持って参拝することもできます。道の脇には部屋のような場所があって、そこに三十六の童子が一体ずつ祀られています。
洞窟の出口付近は、外にある不動滝の裏側を通っています。洞窟内に響く滝音に導かれるように進んでいくと、出口に到着。中野不動尊の参拝コースは、洞窟めぐりまで含めて30~40分ぐらい。なんとなく身が引き締まるようなキリッとした空気が気持ちいい場所で、心がスッキリした気がします。
中野不動尊で心のデトックスをしたあとは、花水坂駅まで戻り、駅から徒歩3分の場所にあるおそば屋さん「やなぎや※」へ。
お店に入る直前、通りがかった地元のおばあちゃんに「ここのおそばはおいしいわよ~」と声をかけられました。地元の人がおすすめするおいしさということで、ワクワクしながら店内へ。
ゆっくりと時間が流れるような心地よい雰囲気の店内なので、女性だけでも気軽に入れそう。今回は、天ぷらとかけそばのセットをいただきました。
福島県産のそば粉「会津のかおり」を使用した二八そばは、つるつるとした口触り。おいしくてペロリと完食し、体の中から温まりました!
※「やなぎや」は2020年現在、閉店しています。
さて、いよいよデジタルデトックス旅の最終目的地「高湯温泉」へ向かいます。旅行者にも人気の秘湯である高湯温泉は、福島駅に戻って、そこから送迎バスか福島交通バスに揺られて山を30分ほど登ったところにあります。
温泉地といえば、箱根や草津のようににぎやかな温泉街を想像するかもしれませんが、高湯温泉はいわゆる「温泉街」とは違います。旅館以外に土産店や飲食店などはなく、とっっっても静かな温泉地なのです。
これには理由があって、各地の温泉地でにぎやかな歓楽街が築かれるなか、高湯温泉は「一切の鳴り物を禁ず」という方針で、昔ながらの湯治場を守り続けてきたのだとか。今回は「俗世と離れる」ことが目的なので、ゆったりとした空気で、キャピキャピしてなくて、とにかく心静かに休める場所として高湯温泉を選びました。
まずはバス停「高湯」の目の前にある「共同浴場あったか湯」へ。ここは日帰り入浴施設で、なんと大人250円で温泉に入れます。プラスして1,000円払えば、貸切露天風呂も予約可能です。
高湯温泉は400年前の開湯以来、ありのままの温泉をそのまま給湯するという意識が代々受け継がれているのだそう。値段は安いのに、とても清潔感のある施設で居心地がいいです。
お湯は加水も加温もしていない、源泉かけ流しの白い濁り湯。お湯の中で肌を触るとスベスベします。この「共同浴場あったか湯」は高湯温泉の中で最も源泉に近い場所にあるので、お湯が新鮮だそう。体全体がじんわりとポカポカして、こりゃあ日々の疲れも癒えます。控えめに言って、最高。
共同浴場あったか湯から歩くこと10分、今回宿泊する旅館「旅館玉子湯」に到着。もうすぐ創業150年となる老舗旅館です。名前の由来は「ここの温泉に入ると、肌が玉子のように滑らかになる」「温泉のにおいがゆで玉子に似ている」ということだそう。
玉子湯の敷地内には、温泉が7つもあります。館内に内湯が2つと、庭園に露天風呂をはじめとした4つのお湯と足湯がひとつ。特にかやぶきの湯小屋「玉子湯」は開業時からの歴史があり、昔の湯治場の雰囲気が残っています。
温泉は、自然に湧き出る源泉を100%かけ流し。庭園に流れる川の音をBGMに、まったりゆったり白い濁り湯に浸かります。時間を忘れるほど幸せ。
お部屋を担当してくださった仲居さんが「うちの温泉は最高なので、ゆっくり楽しんでください」と言っていて、温泉自体にプライドを持っているのがとてもいいなと思いました。実際、高湯温泉は科学的にも免疫力が上がる温泉であることが検証されています。「なんとなく良さそう」で済まさずに温泉の効果を数値化しているって、自信があるからこそですよね。
夜ご飯は、事前に予約しておけば囲炉裏料理が食べられます。イワナの塩焼きや炭火で焼いた食材、お鍋が出てきます。
夕食後は、のんびりと考え事や読書を。普段なら夜はスマホでSNSを見たりネットを徘徊したりしているけれど、今日は絶対にしないと決めています。とにかく俗世と離れたかったので、テレビもつけません。
お部屋からは、かやぶき屋根の湯小屋がある庭園が見えて、窓を開ければ川のせせらぎが聞こえてきます。そんななかでの読書は、すごく贅沢な気がする。
朝、自然と早く目が覚めたので、温泉へ。気温が低いからか、温泉からもくもくと湯気が立っていて、そこに朝日が差し込み、幻想的な景色です。
チェックアウトまでに時間があったので、足湯に入ったり、庭園から遊歩道でつながっている玉子湯温泉神社まで散策したりしてみました。温泉神社までは約1km、10分ぐらいの道のりです。
デジタルデトックスをしてみて感じたのは、日々大量に受け取っている「情報」から距離を取ってみると、頭の中にたくさん余白ができるということ。普段は受け取った情報を処理することだけでいっぱいいっぱいになってしまうけど、こうして余白を作ることで頭の中が整理されて、新しいアイディアがたくさん生まれてくる。こういう時間は、定期的に持ちたいな。
高湯温泉は、福島駅からたった30分の場所なのに、別世界のような、まさに「秘湯」って感じの場所でした。日々に追われて心が疲れてきたら、高湯温泉で癒やされてみてはいかがでしょうか。
掲載情報は2020年1月17日更新時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR福島駅→花水坂駅→中野不動尊→やなぎや→JR福島駅→共同浴場あったか湯→旅館玉子湯
【2日目】旅館玉子湯→温泉神社→JR福島駅→JR東京駅