旅のプロがご案内!富山の「薬売り文化」にたっぷり浸る旅へ 北陸

富山の「薬売り文化」に触れる旅。薬膳料理&薬の製造体験も!

2019.09.17 北陸富山
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POINT

今回の列車旅ポイント

  1. 小ぶりの駅弁を朝食代わりに
  2. 富山駅前から市内観光に便利な「富山市内周遊ぐるっとバス」に乗車
  3. 路面電車「富山地方鉄道」でめぐる旅

エッセイストの柳沢小実です。暮らしのエッセイを書いていますが、旅も好きで、毎年合わせて2カ月前後は旅に出ています。

今回の目的地は富山県。「富山の薬売り」は、江戸時代から300年ほど続く伝統文化です。富山の「薬文化」を通じて、自分自身の健康や日々の暮らしを見つめ直し、健やかさを学ぶ旅をしてきました。

 

JR東京駅

北陸新幹線「かがやき」に初乗車!

北陸新幹線「かがやき」

東京駅から北陸新幹線「かがやき」に乗って、JR富山駅まで2時間ちょっと。北陸新幹線のおかげで、富山をはじめとする北陸エリアが、首都圏からもぐっと近くなりました。

朝のおむすび弁当

小さめの駅弁を買って、車窓を眺めながらゆっくり朝食をとるのが列車旅の醍醐味です。飛行機、列車、車と、まんべんなく旅をしている私ですが、列車旅のいいところは駅弁やおやつを食べたり、本を読んだりできること。お酒を飲む人にとっては、飲めることも楽しみのひとつでしょう。そして、座席がゆったりしているのと、乗り物酔いしづらいというのも高ポイントです。

富山駅

旅情が深まる、路面電車

富山市の路面電車

あっという間に富山駅に到着しました。富山駅周辺は、路面電車やバスなどの交通網が充実していて移動がしやすく、初めて来た人でも安心して動き回れる街です。整然と整っている街並みに、行き交う路面電車がほのぼのした味わいを添えています。「路面電車のある街は、いい街」という自分の中でのジンクスがあり、テンションが上がります。まずは、富山地方鉄道の路面電車で約9分、富山駅から西町駅へ移動しましょう。

池田屋安兵衛商店

丸薬作りを体験!

池田屋安兵衛商店

最初の目的地は、西町駅から徒歩2分、歴史を感じさせるどっしりとした土蔵造りの「池田屋安兵衛商店」です。ここは昭和11年に創業した、和漢薬種問屋。つまりは薬屋さんです。

池田屋安兵衛商店

富山は古くから薬製造業がさかんで、江戸時代から「反魂丹(はんごんたん)」という胃腸薬を製造しています。富山の薬が全国に知られるようになったのは、江戸城で他藩のお殿様が腹痛になった際に、富山藩主が渡した「反魂丹」がすこぶる効いたことがきっかけといわれています。

越中反魂丹

ここで、現役の丸薬師の指導で、丸薬の製造体験をさせていただきました。手動の機械からところてんのように出てきた短い棒状の薬のもとを等間隔に並べ、ずっしり重い木の板を上からかぶせて、円を描くように均等に力をかけます。

丸薬の製造体験

自分でやってみると、等しく力をかけるのが難しい。丸ではなく、楕円形になってしまいましたが、このように一粒一粒人の手で作られているのだなと、知ることができました。

池田屋安兵衛商店内

「池田屋安兵衛商店」は、釘を使わずに建てられた建物の太い梁や、漆喰の壁、小上がりなど、今の建物にはない装飾も見どころのひとつです。そして、天井の高い店内には、昭和はじめ頃の漆塗りの古い看板も飾られています。この看板は、取引のあった卸問屋に薬メーカーから提供されたものだそうです。

復刻パッケージ入りの薬

また、かつてのパッケージを復刻した袋入りの薬や、漢方薬、漢方食材なども販売しています。女性に人気があるのは、血の巡りを良くして体を温める「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」だそう。当時の置き薬を模した薬セットもお土産にピッタリです。

おらっ茶と越中反魂丹

私はお土産に、ドクダミとハトムギ、杜仲(とちゅう)入りの健康茶「おらっ茶」を選びました。ドクダミはデトックスと胃腸を整える効果、ハトムギは肌荒れ改善、杜仲は血流を良くしてお肌をキレイにする効果があるそう。女性にはありがたいお茶ですね。
このような薬膳茶は、弱火で5〜8分ほど煮出すと最も成分が出るそうです。ティーバッグのようにお湯を注ぐときは5分ほど待ってから飲みましょう。

池田屋安兵衛商店

薬膳コースをいただきます!

「池田屋安兵衛商店」の2階には、レストラン「健康膳 薬都」があります。せっかくなので、薬膳食材をふんだんに使った健康膳コースをいただきました。

健康膳 薬都

薬膳には、「その土地でとれた旬のものを食べることが、体には最も良い」という考え方があります。たとえば、夏のコースでは、体の熱を冷まして水分を体外へ排出する夏野菜を、冬のコースでは、体を温めて体内で燃焼させる根菜類を用いています。

薬も食べ物も、すべて「性(性質)と味(味覚)」があるといい、体の状態に合ったものを取り合わせて食べるのだそう。

夏のコースは、季節の前菜と煮物、じっくり煮込んだ高麗人参と鶏団子のスープ、ポリフェノールを多く含む黒米の山菜おこわ。高麗人参のほか、棗(なつめ)や白きくらげなど、貴重な漢方食材が加わることで栄養分が増し、味わいも深まります。上品な味つけで、どのお料理も美味しくいただきました。

広貫堂(こうかんどう)資料館

食後は、売薬の歴史をまなぶ

食後は、10分ほど歩いたところにある「広貫堂資料館」へ。ここは、富山を代表する薬メーカー広貫堂が運営する資料館。富山の薬文化を深く知ることができます。

広貫堂資料館

江戸時代に広まった富山の薬、その特徴は「先用後利(せんようこうり)」とよばれる、先に無償で置き、あとから使用分だけ代金をいただくシステムです。売薬業は、藩の保護下におかれ一定のルールを設けて、売薬の管理も行っていたことから信用を得て、全国に広がりました。

この先用後利の起源は、平安末期から江戸時代になる前までにあるといわれ、山岳信仰を広める修験者たちが、立山信仰を広げるためのお守りなどと一緒に、山で採取した薬草を乾燥させて丸薬にしたもの(簡単なものであったようで反魂丹ではない)も置きおいて、後から使用分だけ代金をいただいたことにあります。

広貫堂資料館

資料館には、先用後利に使われていた薬箱など、江戸時代より使われていた製造にまつわる道具類や、販売のための品々が展示されていました。かつての薬箱は桐(きり)製で、売薬商人たちは竹や籐を編んで作られた柳行李(やなぎごうり)に薬を入れて担ぎ、運んでいたそう。

親爺(おやじ)

地元の人も観光客も愛する酒場へ

白海老の刺身

広貫堂前駅から再び富山地方鉄道の路面電車で約15分、富山駅へ戻ります。夜は、富山で活動している陶芸家の友人におすすめしてもらった大衆酒場「親爺」へ。

ヒラメやすずき・カジキマグロ・甘海老の昆布締め

富山湾はすり鉢形で立山から栄養分をたっぷり含んだ水が流れ込む、天然のいけす。そんな富山湾でとれた岩もずく、白海老の刺身、ヒラメやすずき・カジキマグロ・甘海老の昆布締め、岩ガキ、がんどかま塩焼き(がんど:ブリの幼名)などを出していただきました。

がんどかま塩焼き

京都からかれこれ15年ほど通っているという女性たちによると、「この店は、毎日通える店。お店の方の距離感がちょうど良くて、ひとりでも入りやすい。富山を味わいたいなら、ここに来たのは正解ね」とのことで、居酒屋研究の第一人者・太田和彦さんや『檀流クッキング』で知られる檀一雄さんなど、世代を超えて愛される店なのだとか。地元の人はもちろん、県外からの観光客も訪れています。

富山の幸を堪能し、満足してホテルへ。今夜は富山駅近辺に宿泊します。

富山駅

いざ、「富山市民俗民芸村」へ

旅の朝はワクワクして、早くに目が覚める。朝食を食べてすぐに、バスに乗り込みます。富山地方鉄道の「富山市内周遊ぐるっとバス」で、富山駅前バス停から民俗民芸村バス停まで約24分。

民芸合掌館

富山市が運営する「富山市民俗民芸村」には、民芸館と民芸合掌館、民俗資料館、考古資料館、陶芸館、売薬資料館、茶室 円山庵などがあり、展示品はもちろん移築された建物など、見所が満載です。

郷土玩具の土人形

越中丸山焼

およそ170年前から作られている郷土玩具の土人形や、越中丸山焼などをひと通り見て、売薬資料館へ。

売薬資料館

売薬資料館

ここには富山の売薬文化の歴史が詰まっていました。特に、デザインや印刷技術、容器の発展にもつながったという、古い薬の包装紙は必見です。

古い薬の包装紙

富山市民俗民芸村

茶室でひとやすみ

茶室 円山庵

ゆっくりと巡った後は、敷地内の「茶室 円山庵」で、青々としたもみじが美しいお庭を眺めながら、お茶をいただきます。こちらの建物は富山の茶人、金子宗峰(かねこそうほう)氏の茶室を移築したもの。茶菓子とお抹茶でひと息つきましょう。

茶菓子とお抹茶

富山駅

駅構内でご当地のお土産を購入!

再び「富山市内周遊ぐるっとバス」で富山駅に戻ったら、新幹線に乗る前に駅の「きときと市場とやマルシェ」でお土産を買いましょう。市内各店で取り扱うお土産品が、ひととおり揃っています。土地勘も時間もない旅行者にはありがたいですね。私はここで大門素麺と、口の中でふっと溶ける薄氷本舗 五郎丸屋の「T五(ティーゴ)」、江出乃月本舗 志乃原のマンゴーや3種のベリー風味の琥珀糖「moco妹子〜こはく〜」を購入。かの有名な「ますのすし」も富山土産の定番です。

moco妹子〜こはく〜

自称「内弁慶」だという富山の人たち。押しつけがましくなく、ことさらにアピールしませんが人情深く、こちらが聞きたいことがあったらていねいに説明してくださったり、困っていないか気遣ってくださったりも。触れ合うほどに、富山の人にも惚れ込んでしまいました。

「観光するところは多くないですが、食は豊かで、住むにはいい街です」
温かさを内に秘めた穏やかな人々と、風光明媚な景色、そして海と山の豊かな恵み。たしかに、ここに住んだら健康で幸せに暮らせるでしょう。また、違う季節にふらりと訪れることにします。

東京駅

掲載情報は2019年9月17日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

スポット情報

親爺

住所:富山県富山市桜町2丁目1-17
営業時間:16:00-23:00
定休日:日曜日、祝日

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1泊2日/東京駅⇔富山駅

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この記事を書いた人

柳沢小実

エッセイスト。暮らしや旅の著書多数。最新刊は、読売新聞連載"軽やか生活"をまとめた『おうち時間のつくり方』(だいわ文庫)。『これからの暮らし計画」(大和書房)、『大人の旅じたく』文庫版も。
Instagram:https://www.instagram.com/tokyo_taipei/
konomi yanagawa:https://note.com/yanagisawakonomi

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