福島の酒造めぐり&お座トロ展望列車を日本酒マニアが旅してみた
今回の列車旅ポイント
- 新幹線で朝からビール
- 展望もお酒も楽しめる「お座トロ展望列車」
- 会津田島駅の地酒の試飲自販機
福島県は、最近注目の酒どころ。2019年5月に結果が発表された全国新酒鑑評会で、22銘柄が金賞を受賞し、7年連続日本一を独走中なんです。ワタクシ酔っぱライター・江口まゆみとしては、ぜひ福島の地酒を味わいたい。ということで、6時20分発の東北新幹線で、JR東京駅から出発進行!
※編集部注:今回ご紹介する蔵見学はすべて電話での予約が必要です。
東京駅
二本松の「生酛の殿堂」へ
旅のお供に選んだのは、東京名物の深川めしです。アサリの出汁が染みこんだ濃い目の味付け。飲むのは「駅弁屋 祭」限定のコシヒカリエール。石川県産コシヒカリが生み出すクリーンな味わいに、朝っぱらからテンションMAXです。
東京駅から約1時間半のJR郡山駅で東北本線に乗り換え、約23分でJR二本松駅に到着。さらに駅から歩くこと23分ほどのところに、生酛(きもと)で有名な「大七酒造」があります。
酒づくりのビデオを見た後、生酛づくりの心臓部である酒母(しゅぼ)室へ。床に並ぶ半切り桶で、「山卸し」という作業をして、純粋な酒母に必要な乳酸菌を自然発生させます。
仕込み室には木桶が並びます。現代の酒造りではホーロータンクが主流ですが、大七酒造では木桶の復活に力を入れています。木桶には蔵の微生物が棲み着き、酒に個性が生まれます。
最後はズラリとお酒が並ぶテイスティングルームで試飲。生酛づくりのお酒は、しっかりと味がのっていて、ブルゴーニュの白ワインに匹敵するような旨さ。ソムリエの田崎真也さんデザインのグラスやプレート、ワイングラスの老舗ブランド・リーデルの大吟醸グラスなど、器もゴージャスで感激です。
まずは写真右から。生酛というとゴツいイメージがあるお酒なのですが、純米生酛は甘くまろやか。大七はとても飲みやすいので、日本酒初心者にも飲んでほしいお酒です。
純米吟醸の皆伝はスッキリとしていて、冷酒でもお燗でも美味しい万能なお酒。和食だけでなく、中華やイタリアンにも合わせることができるので、大七酒造の太田英晴社長によると、「無人島に持っていくならこの1本!」だそうです。
純米大吟醸の箕輪門は、大吟醸にありがちな、渋みや甘みといった気になるクセがありません。低温熟成による深みがありつつ、まったくひねていないのが大七らしさです。
純米大吟醸原酒の雫酒、宝暦大七は、2016年のビンテージ。良くできた生酛は、ワインのように熟成で旨みが増します。どっしりとしていながら、スッキリした酒質は、まさに大七の真骨頂。ただ、これでもまだ若いそうで、さらなる熟成が期待されます。
最後は、純米生酛の原酒に、紀州産南高梅を漬け込んだ梅酒。上品な甘さと、ビロードのような舌触りは、極上のデザート酒。至福の一杯でした。
郡山駅
七日町駅
お座トロ展望列車で南会津の地酒を目指す
さあ、七日町駅から会津田島駅まで約1時間30分、人気の「お座トロ展望列車」に乗車です。1両目はトロッコ車両、2両目はお座敷車両になっているので、1回の乗車でどちらも楽しめちゃう列車なんです。
クーラーの効いたお座敷車両で涼みつつ、郡山で購入した幕の内弁当をつまみに、大七のカップ酒を一杯。癒される〜。
絶景ポイントでは、列車がしばらく止まってくれます。塔のへつり駅手前の第五大川橋梁でも一旦停止。どうですかこの絶景!
トロッコ車両では、風を受けながら景色を間近に楽しめます。
終点の会津田島駅に到着。この駅には、南会津の地酒が試飲できる自動販売機があります。
※編集部注:お座トロ展望列車の運行日は公式サイトにてご確認ください。
1杯200円で、専用コインを買って、いざ試飲。
男山の本醸造は、会津らしい旨口。花泉の特別純米は、もち四段仕込みのコクが特徴。会津の純米吟醸は、ほどよい酸があり、バランスの良いお酒。三者三様で旨いです。
※編集部注:自動販売機のラインアップは3カ月毎に変わります。
帰りは会津鉄道会津線で会津若松駅まで戻り宿泊、これで1日目が終了。
会津若松駅
奈良萬のふるさと喜多方へ
2日目は会津若松駅から磐越西線で約20分、喜多方駅へ。
朝8時に到着し、駅から徒歩18分、喜多方ラーメンの名店「まこと食堂」へ。喜多方のラーメン屋さんは、早朝から営業していることで有名なんです。朝食にラーメンを食べる「朝ラー」という言葉も、喜多方では定着しています。さすがラーメンの町ですね。
スープは醤油味の魚介系で、中太の縮れ麺はモチモチ。旨い〜〜!
澄んだスープを飲み干すと、ドンブリに「大当り」の文字が……。
なんと、まこと食堂のお土産用生ラーメンが当たってしまいました。ラッキー!
喜多方には「夢心酒造」があります。まこと食堂からは徒歩10分ほど。喜多方は小さくまとまった町なので、どこも徒歩圏内。蔵が立ち並ぶ景色を愛でながら、ぶらぶら歩きが楽しい。
昭和50年代に建てられた蔵は、普通酒の大仕込みに適した、当時の最先端。麹づくりも仕込みも機械化されています。だから、できるお酒は均一で、酒質には間違いがありません。
仕込み室は近代的で、この下に6トン仕込みの大きなタンクがあります。
もろみはすべて自動で温度調節しています。
会津田舎家
会津料理にはやっぱり地酒
夢心酒造見学後、ランチに訪れたのは徒歩15分ほどの場所にある「会津田舎家」という地酒と郷土料理のお店。
さっそく、夢心酒造「奈良萬」の無ろ過生原酒を一献。ろ過せず加水していない原酒のため濃いのに、奈良萬はスイスイ入る! 無ろ過生酒にありがちな、重たさもありません。これはつくりが基本に忠実で、無駄がない証拠です。雑味なくきれいな酒質には、夢心酒造の高い技術力が生かされています。
正月など、おめでたい席でふるまわれる郷土料理「こづゆ」は、ホタテ出汁の汁物。具だくさんで、お酒のつまみにもってこいです。
身欠きニシン(ニシンの干物)を使ったニシンの山椒漬けも、かつて生魚が手に入らなかった会津の代表的な郷土料理。
そして馬刺しは、ヒレ・ロース・モモ・ハツの贅沢な四種盛り。厚切りにして、ニンニク味噌で食べるのが会津流です。クセがなくて激ウマ!
喜多方駅からは、磐越西線で会津若松を経由して郡山駅へ約1時間37分、再び東北新幹線へ乗り換えて東京駅に帰ってきました。
自宅
自宅でもじっくり会津の地酒を楽しむ
それではゆっくり、会津土産の地酒を飲みながら、まこと食堂で当たったラーメンをすすって、旅の余韻を味わいましょうか。
開當男山(かいとうおとこやま)は糖類添加の普通酒、鶴ヶ城は糖類無添加の普通酒、国権は精米歩合65%の本醸造酒です。日本酒は通常、グレードの高いものから飲んでいくので、国権(中央)→鶴ヶ城(右)→開當男山(左)となります。ちなみに日本酒のグレードは、大吟醸、吟醸、本醸造、普通酒などに分類され、後へ行くほどグレードが下がります。
国権はややアルコール感が強いですが、米の磨きが良いので、スッキリできれいめなお酒です。鶴ヶ城は、3つの中で一番辛口。酸の感じがとても好ましく、日本酒通向きです。開當男山は、糖類添加のわりには甘くないですね。3つの中では最も飲み飽きしない、脱力系のお酒です。
以上が冷蔵庫で冷やした時の味わいですが、半分飲んだところで、これをお燗してみましょう。じつはカップ酒というのは、このまま電子レンジでお燗ができる、最強のアイテムなんです!
国権は、お燗より冷酒か冷やがオススメですが、開當男山のお燗は、甘さが抑えられて飲みやすい。冷酒でも燗でもイケるお酒ですね。お燗で激変したのは、鶴ヶ城。酸がよりしっかりして、めちゃくちゃおいしくなりました。ちなみにこれを「燗上がり」といいます。
同じ会津のお酒でもこれだけ違いますから、福島には未知の美味しい地酒がひしめいています。海側から山側に向かって、浜通り〜中通り〜会津と呼ばれていますが、ざっくりと浜通りのお酒は辛口、中通りは中口、会津は甘口といわれています。これは食とリンクしており、海側は新鮮な刺身に合う辛口、山側は味噌や漬け物など辛い保存食に合う甘口になりやすいと考えられているためです。その特徴がよくわかるのは、地元で晩酌用に売られている普通酒で、これはほぼ地元以外で飲むことはできません。
列車に乗って、そこでしか飲めない、お気に入りのお酒を探しに行きませんか? ツマミはもちろん、車窓の景色と駅弁で!
掲載情報は2019年11月1日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
スポット情報
まこと食堂
住所:福島県喜多方市小田付道下7116 営業時間:7:00–15:00 定休日:月曜
今回の旅の行程
【1日目】東京駅→大七酒造→末廣酒造→酒蔵カフェ「杏」→お座トロ展望列車→会津田島駅→会津若松駅(宿泊)
【2日目】会津若松駅(宿泊)→まこと食堂→夢心酒造→会津田舎家→郡山駅→東京駅
福島・会津若松JR+宿泊 大江戸温泉物語 あいづ
1泊2日/東京駅⇒二本松駅・喜多方駅⇒東京駅/夕朝食付き
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