今回の列車旅ポイント
毎度お騒がせいたします、歌って食べて酔いどれる料理家スヌ子です。
お酒は付き合いの長〜い友だち。
どんなお酒も好きだけど、人生の裏表を知った近ごろは、日本酒がことさら染み入ります。身土不二(しんどふじ)(※)というのか、わが国の豊かな水と米の恵みがありがたく……。
などと深夜ひとりごちていたら、ふと地酒を飲みに出かけたくなりました。冬は新酒の時季、しぼりたてにありつけるかも。
水清らかで山美しく、米どころでおつまみもおいしいところ。
そうだ山形行こう! と、さくっと旅立つことに。
※編集部注:その土地でその季節にとれたものを食べることが健康に良いという考え方。
東京駅8:56発の山形新幹線「つばさ129号」12号車。
乗り口を探してホームを歩いていたら、ん? つばさが出るはずの線路にやまびこが停まってる!?
駅員さんに聞けば、なんと。両車は前後にくっついて東京を発車し、福島で切り離されて進路が分かれるのだとか。知らなかったー! 列車旅って、毎回なにかしら発見がありますね……。
分岐点の福島を過ぎてしばらく進むと左右の車窓に山が見えてきます。「山」形だもんね。
JR東京駅から約2時間40分でJR山形駅に到着。
一軒目は、伝統あるお漬物屋さんで日本酒。
山形駅から徒歩15分ほど、市役所や裁判所が立ち並ぶ一角にある「丸八やたら漬本店」。1885(明治18)年創業の老舗で、建物は国の登録有形文化財に登録されています。
母屋が漬物店、隣の蔵が食事処「香味庵まるはち」。6代目社長の新関芳則さんに、味噌醤油蔵を改装した店内をご案内いただきました。蔵座敷や蔵前ホールなど、空間すべてがレトロな趣で、見ごたえたっぷり。
お待ちかねのお食事。んーと(=えーと。山形弁。以下同)、漬物寿司とお酒と……と、メニューを見れば「ひっぱりうどん」の文字。こいずなんだっす?(=これなんですか?)
「もともとは年末に、家にある乾麺をすべて鍋で茹で、アツアツを引っぱり出しながらつゆにつけて食べたという郷土料理です。おいしくて引っぱるように奪い合って食べるから、とも」。
へええ、そうと聞けば、く!(=食べます!)
納豆、おみ漬け(山形青菜の漬物)、サバ缶とつゆを混ぜ、釜揚げうどんをからめて。
山形納豆がおいしいのは有名ですが、おみ漬けとサバ缶でうまみ倍増! 栄養満点だし、つるつるいくらでもいけそう。こいずいいよっす(=これいいわぁ)!
合わせたお酒は、「純米吟醸 いばらとみよ」。山形の清流に住む魚の名前「いばらとみよ」からつけられたその名称どおり、スーッと清らかな水を思わせる飲み心地でした。
続いて「漬物寿司」。先代が山形の漬物文化と名産の米で何か新しい味をと、みょうが漬けをマグロに、大根漬けをイカに見立てて握り、その斬新な発想が大反響を呼んだのだそう。
実をいえば、「なにも漬物を寿司にしなくても……」と思っていたわたし(すみません)、ひと口食べてたまげだ(=びっくり)! しゃっきり、コリコリした漬物の歯ごたえと塩気が酢飯によく合ってうんめ(=おいしい)。漬物ごとに味わいがちがって口飽きせず、お酒もすすみます。
ほろ酔いで散歩がてら、宿場町の面影残る街道を直進し20分ほど。山形を代表する酒蔵「男山酒造」の歴史ある建物が見たくて行ってみました。
組子を並べた連子格子で覆われた典型的な町家造りの母屋や、筆と墨で書いたような鮮やかな文字が入ったタンクに見惚れていると、柱にこんな貼り紙が。
ほんて?(=本当?) ここで買えるの!? と喜び勇んで、門の奥の事務所へ。
ばんざーい「無濾過本生 純米原酒 令和初しぼり」ゲット! 地元山形以外ではほとんど買えない貴重なお酒です。
男山酒造のお酒は、敷地内の地下100メートルから汲み上げる硬水と山形産の米にこだわって醸す、キレのよい辛口が身上。事前に予約すると蔵見物も可能で、1〜3月の間なら仕込みの工程をすべて見られるそう。その期間に再訪したい!
冷蔵必須の生酒なので、10分ほど歩いて山形駅方面に戻り、駅近くのホテルにチェックイン。
お酒を冷蔵庫にしまい、少しゆっくりしながら晩酌に備えました。
「ほっとなる横丁」は、山形駅から徒歩20分ほどの昭和レトロな屋台村。その中でも古株で、郷土料理がおいしいと評判の「紅弥(べにや)」を訪ねました。
おばんですー(=こんばんは)。店内はコの字カウンターを6〜7人くらいで囲むスタイル。おかみさんの心づかいが行き届いたあったげ(=あったかい)雰囲気。
まずは地酒を満喫できる「日本酒三種飲み比べセット」を。
三十六人衆「純米酒 出羽の里」はさらりとした純米。楯野川「山形県限定流通 純米大吟醸」は山形県限定で流通しており、米のうまみがあるのにあっさりしていて食中酒向き。米沢で造られる「九郎左衛門 裏・雅山流 香華(こうか)」は、名前どおり華やかな香りでフルーティー!
クイクイいっていたら、山形名物「玉こんにゃく」降臨! 味しみしみ、辛子が効いた最高のおつまみ。おでん鍋からあれこれ頼み、お酒もおかわり。まわりのお客さんとも話が弾み、杯がすすみます。
心ゆくまで酔いどれたら、シメは「山形いも煮」。山形牛にもっちり里芋、たっぷりの長ねぎにごぼう、こんにゃく。
やさしい味の澄んだ汁で、あったげ〜〜(あったかい)! うんめ(=おいしい)!! と腹くっつい(=お腹いっぱい)。
店を出ると心地よい寒風……火照った頬を冷ましつつ千鳥足でホテルへ戻って就寝。
地酒とグルメを満喫した1日でした。
おはよっす(=おはよう)山形。
本日は帰京しなければならない日……。せっかくの旅だし昼酒はキメたいわぁ。
駆けつけ1杯で「紅葉盛」の熱燗1合、どっしり飲みごたえあり。温まったところで、「澤正宗 純米酒」を頼めば大ぶりのカップになみなみ。米の香りがふわーっと立って、しみじみ、うんめ(=おいしい)。
ランチのおすすめは、古澤酒造が鮮魚店に委託した市場直送の「海鮮丼」。
「山形で海鮮丼〜?」と思ったわたし(またまたすみません)、でもこれが大正解。どれもぷりっぷりで甘みさえ感じる刺身たち。お味噌汁とお漬物がセットで1,100円(税別)ってのもお値打ち!
すこだま(=しこたま)おいしい地酒を飲むミッションを達成してホクホク♪
新幹線に乗る前に、とどめとばかり、S-PAL山形2階の「ふるさと銘酒館 ひのきの里」へ寄り道。地酒にワインもでっちり(=たくさん)揃ってます。
「いろいろ飲みたい党」としては、この量り売りシステムうれしかったー!
「純米大吟醸 愛山」を1合ボトルに詰めてもらい、するっと「つばさ」に乗り込んで。
雄大な山並みに別れを告げながら美酒をちびちび味わって、山形駅から東京駅までの2時間40分ほどをゆったりと過ごしたのでした。
命の洗たく、これにて終了! んだらばまたな(=それではさようなら)。
※文中の方言は筆者による記事上の演出です。
掲載情報は2020年1月23日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
紅弥
住所:山形市七日町2-1-14-6
営業時間:19:00〜24:00
定休日:日曜(祝前日は営業)
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR山形駅→香味庵まるはち→男山酒造→ほっとなる横丁(紅弥)→宿
【2日目】宿→居酒屋 酒蔵澤正宗→ふるさと銘酒館 ひのきの里→JR山形駅→JR東京駅