いざ、蔵王キツネ村へ!冬の宮城はゆるやかな異界に溢れていた
今回の列車旅ポイント
- 東京駅から東北新幹線で白石蔵王駅まで乗り換えなし
- キツネだらけの白石蔵王駅
- 白石蔵王駅で買える蔵王大吟醸味のアイスクリーム「フロム蔵王」
そもそも、旅の本質ってなんだろう。
それは「現実逃避」に他ならない、と思っている。我々は非日常が味わいたくて、旅に出ているのである。だから旅行先は、「日常から逸脱している」場所であることが好ましい。
だが、なにも大きな非日常を旅先に求めているわけではない。「この村の建築物はすべてバームクーヘンで造られています」とか「バスタオルを醤油で煮しめたものがこの町の名産品です」などとパラレルワールド感強めの非日常を提示されても、こっちとしては戸惑うばかりだ。旅人が欲しているのは、あくまでささやかな非日常であり、日常とのゆるやかな誤差なのである。
私、ワクサカソウヘイは、そんな「コンパクトサイズの異界」に旅情を求めて、いままでさまざまな土地に足を向けてきた。そんな私の耳にこの冬、こんな情報が流れてきた。
「宮城県の白石蔵王駅周辺はキツネにまみれているらしい」
おお。
キツネにまみれているなんて。実にちょうどいい非日常を予感させるではないか。
「キツネに化かされる」なんて用語もあるように、キツネは異界への水先案内人(?)として、昔からそのキャラクターを確立している。そんなキツネにまみれているというJR白石蔵王駅周辺は、私の「異界フェチ」を存分に満たしてくれる土地なのではないか。
いてもたってもいられず、さっそく旅へと出ることにした。
東京駅
異界までは2時間もかからない
白石蔵王駅に向かうため、まずはJR東京駅から東北新幹線に乗り込む。乗り換えなしで所要時間はたったの1時間49分。「東北」って遠いイメージがあったが、新幹線を使うとこんなにも近いとは。
東北新幹線に乗るのは生まれて初めてだ。「新幹線のカラーといえば青」という固定観念を爽やかに打ち砕くようにピンクの線が1本走っていて、キツネにつままれているような気分になる。さっそく非日常感が高まり、胸が躍る。
弁当に箸を伸ばし、車窓の景色を楽しんでいるうち、あっという間に白石蔵王駅へ到着した。
白石蔵王駅
そこはキツネだらけの駅
白石蔵王駅は、ひたすらにキツネの乱れ打ち。
駅の構内は、すべてキツネに染まっているではないか。
どこを見渡しても、キツネばかり。まるで駅全体がキツネに化かされているかのようだ。
ああ、予感は正しかった。
私はいま、「ほどよい異界」へと足を踏み入れたのだ。
宮城蔵王キツネ村
ひたすらキツネにまみれたい
なぜ白石蔵王駅はキツネに染まっているのか。
それは、「宮城蔵王キツネ村」なる施設がこの駅の周辺に存在しているからである。
そこでは満足いくまでキツネにまみれることができるという。そのような異界、行くしかないではないか。
白石蔵王駅から宮城蔵王キツネ村までの移動手段はレンタカー、タクシーなどがある。所要時間は約20分から30分、今回はタクシーを使った。ちなみに、駅にはJRの駅レンタカー白石蔵王駅営業所が併設されている。
宮城蔵王キツネ村に到着して、私はいきなり呆然とした。最初に目に入ったのが、キツネではなく、ヤギだったからである。
そしてゲートの前へと立ち、私は再び、呆然とする。
そこに待ち構えていたのは、キツネではなく、ゴリラだったからである。
これは、キツネが本格的にこちらを化かしにかかっているのではないか。宮城蔵王キツネ村なんて、本当は存在しないのではないか。
疑心暗鬼におちいりながら、私はおそるおそるゲートの先へと足を進める。
すると、そこには、
キツネにまみれた「宮城蔵王キツネ村」が存在していた。
よかった、ヤギやゴリラは、あくまでイントロに過ぎなかったのだ。
この宮城蔵王キツネ村では、たくさんのキツネが放し飼いにされていて、そのキツネの生活ゾーンに我々がお邪魔させてもらう。そこでは異界に迷い込んだ気分が存分に味わえる。
ひと口に「キツネ」といっても、ここではさまざまな種類のキツネに出会える。一般的なイメージであるキタキツネに、真っ白なホッキョクギツネ、珍しいギンギツネなどが、エリア内をウロウロと歩き回っている。
あっちを見てもキツネ、こっちを見てもキツネ、足元を通り過ぎていく者ありと思ったらそれもキツネ。ああ、頭の中の「キツネ情報処理能力」が追い付かない! と、日常ではなかなか味わえない混乱におちいることができて、とても楽しい。
1時間近くも宮城蔵王キツネ村にてキツネにまみれることを楽しんだ。
こんなにもキツネの濃度が高い空間、日常ではとてもではないが出会うことはできない。そこに溢れていたのは、はっきりと「異界のムード」だった。
白石蔵王、すでに最高である。
鎌先温泉
非日常的温泉街
さて、宮城蔵王キツネ村からタクシーで15分、「鎌先温泉」の「すゞきや旅館」が本日の宿である。
鎌先温泉は、かつてこの地の人が草刈りの最中に鎌の先で温泉を掘り当てた、と伝えられていることからその名が付いたらしい。スケールが小さいのか大きいのかわからない伝説をまとわせているところが、「コンパクトサイズの異界」という感じで、実にいい。
こちらの温泉街、そう広くはないのだが、そのかわりに「山間の秘境温泉街」といった雰囲気が全体に満ちていて、深い旅情に浸れる。
湯治の文化が残る旅館や、洒落たカフェもあって、浴衣を着流しての散策も楽しい。
すゞきや旅館は「黄金風呂」「石風呂」という内風呂のほか、「古代檜の露天風呂」もある。
「自分はいま、鎌の先に湧いた温泉に浸かっているのだな……」と先ほどの伝説をイメージしながら入浴すれば、ちょっとファンタジーな気分になれる。
夕食は「これぞ旅館の醍醐味」ともいうべき、小皿料理のラッシュに、仲居さんが火をつけてくれる鍋料理。地元ならではの食材もふんだんに使われている。どれも美味しかった。
そして就寝前にはまた湯船に浸かるという贅沢。
私はいま、キツネに化かされているのではないか。
白石市街
城っぽくない城「白石城」
起きたらそこは一面の枯れた野原でした、ということは一切なく、柔らかい布団の上。よかった、キツネに化かされていたわけではなかった。
夕食の豪華さにも引けを取らない朝食をいただき、すゞきや旅館を後にする。東北本線のJR白石駅まで無料送迎で約15分。
白石市は、宮城蔵王キツネ村以外にも観光スポットが充実している。
その中のひとつ、「白石城」に足を向ける。白石駅からは徒歩約15分。武家屋敷の街並みを抜けた先に、その真っ白な城は現れる。
中に入ると、予想以上に明るい雰囲気。木材の温かみがゆるやかに広がっていて、「城」に訪れたというより、友人の新築の一軒家に招かれたような錯覚に襲われる。引っ越し祝いとか持ってこなくて大丈夫だったかな、という気分である。
でもよく見ると敵を攻撃するための小窓があったりして、ここが「城」であることを思い出す。城のイメージを覆してくる、なかなかに味わい深い観光スポットである。
白石市街
謎の「うーめん」登場
白石城をあとにして、徒歩で目指したのは「うーめん」だ。
この土地では、「うーめん」なる麺料理が名物であるという。「らーめん」や「そーめん」なら日常から耳に馴染みのある語感であるが、「うーめん」というのは聞いたことがない。
「ーめん」界に現れた、謎の「うーめん」とは、いったいどのようなものなのか。それを確かめるべく、「うーめん番所」(※)なるお店へと突入する。白石城からは徒歩約15分。
※2022年1月31日現在は閉店しています。
注文したのは店の中でも一、二を争う人気メニュー「親子うーめん」だ。
果たしてそれは、とても柔和な麺料理であった。
「うーめん」は、ざっくり表現すれば、にゅう麺に似ている。しかし、油を一切使用していないとのことで、角がまったくない。非常に丸い食感をともなっているのである。なんと優しい味わいであろう。「ごんぎつね」の物語に肩を並べる優しさである。
白石蔵王駅
「ちょうどいい異界」に別れを告げて
「宮城蔵王キツネ村」に「鎌先温泉」に「白石城」に「歴史探訪ミュージアム」、そして「うーめん番所」。
白石蔵王駅周辺には、ちょうどいい感じに非日常を味わえるスポットが点在していて、私は「ああ、いい旅だったな」という感慨に浸りながら、帰路へと就いた。
東京へと戻る新幹線の中では、白石蔵王駅で買った「フロム蔵王」というアイスクリームを食べた。それは「蔵王大吟醸」味のアイスクリームで、かなりしっかりとした日本酒の風味が広がる。
私はいま、アイスクリームを食べているのか、それとも大吟醸を呑んでいるのか。この1泊2日の中でずっと流れていた「キツネに化かされている」かのようなトリップ感が口の中で再現される。
私は心地よい混乱を嗜みつつ、異界から遠ざかっていった。
東京駅
掲載情報は2022年1月28日更新時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。