郷愁あふれるザ・ローカル線。「由利高原鉄道」でノスタルジックな秋田旅
今回の列車旅ポイント
- 由利高原鉄道でローカル線の旅を満喫
- 由利高原鉄道名物、しゃべる自販機
- 郷愁あふれる曲沢駅
旅をするなら列車に限る、と豪語したりしなかったりする地図好き老舗IT系ライターの荻窪圭です。列車の良さは行程を楽しめるところ。目的地という「点」のみならず、そこへ向かう「線」でも味わえるのです。
今回の旅先は、秋田県南部にある由利高原鉄道鳥海山ろく線。愛称「ゆりてつ」。秋田県南部を子吉川に沿って走るローカル線です。JR東京駅からJR秋田駅まで秋田新幹線で約3時間50分。羽越本線の特急「いなほ」に乗り換えて約30分、由利高原鉄道のターミナル駅である羽後本荘駅へ。
東京駅
最後のひと駅は後ろ向き?
東京駅発のこまちで秋田駅へ。以前から乗ってみたかった秋田新幹線。細身でしゅっとしたノーズと、赤と銀のシャープなカラーリングがカッコいいではないですか。初期のウルトラマンを思い出すのは私だけではないはず。
秋田新幹線は盛岡まで東北新幹線と同じ線路を走り、そこから在来線区間に入って秋田へと向かいます。クライマックスは(というとおおげさか)JR大曲駅から秋田駅の区間。大曲駅からスイッチバックして後ろ向きになるのです。途中から車窓の景色が逆に流れはじめるのは秋田新幹線ならではでしょう。
秋田駅
特急「いなほ」から見る日本海
秋田駅からは羽越本線の特急「いなほ」に乗り換えます。名称が「羽越」なのは、羽後(山形県と秋田県)と越後(新潟県)を結ぶ線だからです。路線名に歴史アリですね。羽後本荘駅までノンストップで約30分。途中、日本海が見えて「おおお!」となります。なりません?
羽後本荘駅
由利高原鉄道名物、しゃべる自販機
羽後本荘駅は改札を出なくても由利高原鉄道へ乗り換えられますが、ここはいったん出ましょう。その方が楽しいから。JR改札の横に由利高原鉄道専用の改札口があり、発車の10~15分前に開きます。
開くのを待つ間に、自動販売機で飲み物を買うことに。
由利高原鉄道には、おばこ号の愛称で5種類の車両が走っており、その中で、YR3001(緑)、YR3002(赤)、YR3003(青)という3種類の車両ラッピング色をモチーフにしたオリジナルの飲料自販機が、羽後本荘駅、薬師堂駅、矢島駅に置かれているのです。
駅から外に出ると、緑色の車両・YR3001をモチーフにした自販機を発見。お金を入れると……自販機がしゃべりました。思わず動画を撮っちゃったのでどうぞ。
硬貨を入れたらいきなり「ドアが開きます」!
発車時刻になり、由利高原鉄道に乗ります。ホームに止まっていたのは緑色のYR3001。車体に大きく「おばこ」とあります。「おばこ」は東北地方の言葉で少女や娘を指すことば。
乗り込んでびっくり。めちゃくつろぎ車両。車体のラッピングカラーと座席の模様が一致しています。向かい合わせの4人席が左右4組ずつあるのですが、テーブルも広いし足元もゆったり。お弁当を広げてゆっくり食べながら2往復くらいしたい感じです。
お弁当といえば、「昔ながらの秋田由利牛すきやき弁当」。由利地域には地域ブランド牛の「秋田由利牛」という黒毛和牛があるのです。そのお肉を使っためちゃおいしいお弁当(らしい)です。「らしい」と書いたのは……このお弁当、5個以上からの予約でしか購入できないため、今回は口にできなかったのです。残念。
編集部注:お弁当の問い合わせは、由利高原鉄道本社 TEL:0184-56-2736 平日9:00〜17:00まで
薬師堂駅
駅のホームにしゃべる自販機
おばこ号は、羽越本線と少し平行して走ったのち、左へゆるやかにカーブしながら離れていきますが、そのカーブ手前にあるのが薬師堂駅。小さな無人駅で、ホームの端っこに由利高原鉄道の自販機がちょこんと設置されてます。こちらは赤い車両・YR-3002がモチーフ。これは買わねばなりますまい、ということで降りちゃいました。
木造の愛らしい薬師堂駅と自販機(右)。裏は完全にYR3002のラッピング。思ったより凝ってました。
では自販機の動画をどうぞ。先ほどとは違うパターンの音声です。
駅員さんが何を言っているかよく聞き取れなかった……
次の列車が来るまで1時間ほどあるので、駅名の元になった薬師堂へ行ってみることに。駅から徒歩約1分の距離にあり、現在の名称は「医薬神社」。奈良時代に創建され、かつては薬師堂という名称だったのですが、明治政府による神仏分離政策で医薬神社へ改称されたそうです。
駅舎に戻ると次の列車が来ました。赤いYR3002です。非電化区間なので架線がなく、車両がよく見えてよいですね。
矢島駅
ローカル線は地域の宝
30分ほどで矢島駅着。駅構内は観光客歓迎ムード。随所に由利高原鉄道の絵が飾ってあったり、グッズコーナーには「ローカル線は地域の宝」(ほんと、そう思います)という幟(のぼり)があったりと賑やかです。
そして、車両・YR3003をモチーフにした青い自販機もありました。
春から秋(4月中旬から10月下旬)は、駅のホームで「ゆりてつホームカフェ」がオープンします。珈琲と地元のお菓子が並ぶそうなので、次回はぜひその季節に来たいと思う次第です。
外に出ると、駅の上に時計塔が。東北の駅100選に選ばれたという、日本の昔ながらの駅舎感がよいですね。
■こちらの記事もおすすめ
一度は乗りたいローカル線20選。絶景を楽しむ列車の旅
矢島駅
今夜の宿泊は鳥海山の麓にあるホテル、鳥海 猿倉温泉「フォレスタ鳥海」。矢島駅から無料送迎車(要予約)で20分ほど。
フォレスタ鳥海は、冬はスキー、夏は鳥海山登山の拠点として人気のホテルとのこと。猿倉温泉からフォレスタ鳥海専用の湯を引いた温泉があり、敷地が広いので建物もゆったりしていて落ち着きます。天気が良ければ、鳥海山が綺麗に見えるそうですが、今回は天気が悪くて残念。
夕食は1Fのレストランで。コース料理ですが、さりげなく「いぶりがっこ」がついているところが秋田ですね。今回は、料理写真を撮りやすいよう一度に持ってきて貰いましたが、コース料理なので実際には前菜から順に出されます。ひとつひとつ丁寧に作られており、大変おいしくいただきました。そして、締めのうどんでお腹いっぱい。
さて、お昼に食べられなかった秋田由利牛ですが、どんな味か気になりますよね。ということで、奮発してコースの肉料理を由利牛にしてもらいました。これが美味しすぎ。柔らかいのですが嚙むとじゅわっと肉の味が広がる感じでした。
※食事内容はプランによって異なります。アップグレードの可否等は施設にお問い合わせください。
フォレスタ鳥海
猿倉温泉のトロトロ湯
食後は温泉でひとやすみ。
お湯がとろっと柔らかく、身体に浸透する感じで気持ちよくあったまります。美肌の湯といわれているそうです。
矢島駅
原田栄泉堂のおばこ号サブレ
2日目の朝。深夜に少し雪が降ったようで、部屋の外には一面の雪景色とブナの原生林が広がっていました。
ホテルの送迎車で再び矢島駅へ。乗車前にご当地土産を買おう、と駅から徒歩約3分の老舗和菓子屋「原田栄泉堂」へ。
原田栄泉堂で見つけたのは、由利高原鉄道オフィシャルの「おばこ号サブレ」と矢島銘菓の「虎の子まんじゅう」。
由利高原鉄道みやげなら「おばこ号サブレ」。サブレは、おばこ号デザインの大型サイズ。サクッと口の中でほぐれて食べ応えがあって美味でした。ほどよい甘さとサクサクの食感の両方を味わえます。地元の和菓子好きなら「虎の子まんじゅう」がおすすめ。これぞおまんじゅうという美味しさです。
では駅へ。遠くから見る矢島駅も、日本のローカル駅って感じでいいですね。
矢島駅
アテンダントさんの乗るまごころ列車へ
狙いは9時40分発の「まごころ列車」兼「おもちゃ列車」。「おもちゃ列車」は木材をふんだんに使った車内に子供が遊べるボールプールや木のおもちゃが置いてある車両。「まごころ列車」は絣の着物を着た列車アデンダントが乗車して沿線案内をしてくれるサービスです。この日は車両の都合で、おもちゃ列車の運行はひとつ次の10時43分発になってしまったため、まずまごころ列車に乗り、途中で降りて次のおもちゃ列車に乗ることにしました。車両ごとにサービスが違ったりするので、こういう楽しみ方もできます。いろんな車両に乗りに来ただけかい、といわれたら、もうYesですね。
曲沢駅
田んぼの中にぽつんとある秘境駅
矢島駅から約23分、曲沢駅でいったん降りて、次のおもちゃ列車を待ちます。
この駅がなんとも不思議なのです。田んぼの真ん中にぽつんと小さな無人駅があって、見渡す限り近くに民家がない。他の駅に比べても圧倒的にないのです。ぽつんと佇む秘境駅感がたまりません。
時間があったので駅の外に出て、反対方向行きのおばこ号とともに駅を撮ってみました。
曲沢駅
子供のために作られたおもちゃ列車
1時間ほど待っていると、おもちゃ列車の「なかよしこよし号」がやってきました。ラッピングも他の車両とは違います。
乗車してびっくり。中は完全に「おもちゃ部屋」。木のおもちゃで遊べるようになっているのみならず、座席もユニーク。向かい合わせの席は4組だけで、他は車窓を楽しめるカウンターだったりくつろげるソファーだったりします。車両に「KIDS TOY TRAIN」と書いてある通り、子供が遊べる車両なのですね。言葉で説明するより写真でどうぞ。
約17分乗車して羽後本荘駅着。そのまま特急「いなほ」に乗れば秋田駅まで約30分ですが、復路は各駅停車で約45分かけて秋田駅へ。各駅停車で地元の人と一緒に揺られながら車窓をゆっくり楽しむのもよいものですよ。そして秋田駅からは新幹線で東京へ。
実は今回が初の秋田県訪問で、由利高原鉄道もはじめてだったのですが、まごころ列車といいおもちゃ列車といい、ローカル線ならではのおもてなし心が染み入りました。おばこ号は何往復でもしたいくらい。田んぼの中を1両だけでゴトゴト走る姿も絵になります。
著名な観光地は訪れてないのですが、ローカル線の旅はその方がいいかもしれませんね。見知らぬ土地の空気を楽しみ、その土地の時間を味わう贅沢ができました。
東京駅
掲載情報は2020年3月6日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
スポット情報
菓子司 原田栄泉堂
住所:秋田県由利本荘市矢島町城内八森4
営業時間:9:00〜18:00
定休日:不定休