今回の列車旅ポイント
エッセイストの柳沢小実です。普段は衣食住、暮らしについて文章を書いていて、旅も大好き。例年は、年10回以上、国内外へ出かけています。
ここ数年は、旅の目的地に国内の温泉を選ぶことが多くなりました。癒されたい、疲れを取りたいという思いからでしょうか。日本各地の薬効ある温泉に入れば入るほど、その魅力に取りつかれています。今回は、雑誌やインスタグラムの投稿などでよく目にしていつか行きたいと切望していた群馬県の「法師温泉」を目指します。
JR東京駅から上越新幹線で約1時間のJR上毛高原駅へ。上越新幹線は、東京から埼玉県のJR大宮駅、新潟県のJR越後湯沢駅、JR長岡駅などを経てJR新潟駅までをつなぐ路線で、起伏ある車窓風景が魅力です。
取材時に乗車したのはMaxたにがわで、車体の一部は2階建てになっています。(※)トンネルを抜けるごとに景色が変わっていくので、乗車中に車窓を眺めるのが楽しいです。
※編集部注:2階建てのMax車両の定期運行は2021年10月に終了しました。
どうしても終わらない仕事は、行きの列車内でだだだっと終わらせてしまいましょう。新幹線の車内って、一部の座席には電源もあるし、集中力が上がって仕事がはかどりますよね。そのあとに楽しい旅が待っているからでしょうか。
高崎あたりまで街の景色が続きましたが、全長14,857mの中山トンネルを抜けたら、ようやく群馬らしい自然たっぷりの景色に出会えました。ここまで来たら、上毛高原駅も間近です。
上毛高原駅で新幹線を降りたら、関越交通バスで約30分、終点の猿ヶ京バス停で下車。みなかみ町営バス法師線で約20分、終点の法師バス停を降りたら、目の前に今回の旅の目的地「法師温泉 長寿館」があります。歴史ある重厚な建物に期待が高まります。
「法師温泉 長寿館」は、本館と別館、湯殿「法師乃湯」が国登録有形文化財に指定されている由緒ある温泉宿です。三国峠の谷間に位置する法師温泉は1,200年前に弘法大師によって発見されたといわれており、「法師温泉 長寿館」は明治8年に創業しました。玄関と囲炉裏、大浴場「法師乃湯」は、映画『テルマエ・ロマエⅡ』にも登場しています。
入口を入ると、こんな素敵な空間が広がっています。囲炉裏はかつて、従業員や出入りの業者さんが使う場所だったそう。
客室はこざっぱりと整えられていました。別館は2020年に改装したとのことで、由緒ある建物ながら、居心地のいい空間に仕立てられています。
部屋でひと息ついたら、夕食の前にまず温泉に入りたい。ここ「長寿館」には混浴と女性専用の入れ替え制の「法師乃湯」と、男女入れ替え制の「玉城乃湯」「長寿乃湯」、計3つの湯殿があります。すべてのお湯を楽しみたいので、温泉計画は入念に。まずは、総檜造りの「玉城乃湯」へ向かいます。
「玉城乃湯」には内風呂と野天風呂があります。内風呂は胃腸、火傷、動脈硬化などに効果があるとされているカルシウム・ナトリウム硫酸塩泉(石膏泉)。野趣溢れる野天風呂は別の源泉からひいた単純泉で、泉質の違いを楽しめます。広々とした伸びやかな空間で、刻々と色を変えていく夕暮れの空と、行燈のやわらかな光がなんともいえない美しさ。ここは、夕方から夜にかけての時間が素晴らしい。ふわぁーっと立ち上る湯気に、身も心もほどけていくようです。
お風呂から上がったら、楽しみにしていた夕食の時間。お料理は、町内産または県内産の食材を中心に使用し、丁寧に作られた会席料理です。
群馬でしか味わえない最高級ニジマスのギンヒカリや、餌にこだわった安心安全な群馬のブランド豚・上州麦豚をはじめ、谷川茸やゆきわり茸など珍しいキノコの数々や山の幸がふんだんに盛りこまれたお献立。上州麦豚の鍋には、群馬の郷土料理おっきりこみも入っています。松茸の土瓶蒸しも、この世のものとは思えないほどふくよかな旨味で、魂が抜けかけました。
ちなみに、食堂内はゆるやかに仕切られて、個室のようになっています。他にも宿泊客が多数いらっしゃいましたが、適度な距離感があるためリラックスして過ごすことができました。
編集部注:食事内容は季節やプランによって異なります。
夕食を終えたら、この旅のハイライトともいえる、「法師乃湯」へ向かいましょう。まず、広々とした天井の高い湯殿の美しさに圧倒されます。明治時代のモダンな建築は、贅沢な湯治場の雰囲気を現代に伝えています。
現在は、20:00〜22:00以外は混浴となっている「法師乃湯」ですが、元々は湯殿の中央に仕切り板が立てられて、男湯と女湯に区切られていたそうです。(※)のちに、大きい浴槽のほうがお客さまも喜ぶのではと、仕切り板が取り払われて、広々としたひとつの空間になりました。
※編集部注:20:00〜22:00は女性専用時間帯になり、宿泊者のみ利用可能。
4つある浴槽の底には大小の石が敷かれていて、その下からカルシウム・ナトリウム硫酸塩泉(石膏泉)が湧き出ています。たっぷりした湯量のため2時間で浴槽がいっぱいになり、お湯は1日に12回入れ替わります。湯温は38℃~40℃とそれぞれ異なり、入口から見て右奥のぬるい浴槽では、旧国鉄「フルムーン」のポスター撮影も行われました。
浴槽の真ん中に渡されている木枕に頭を、浴槽の縁に足を乗せると、さらにのーんびり。この木枕については、1931年(昭和6年)9月にこの宿を訪れた与謝野晶子が「草まくら手枕に似じ借らざらん 山乃いでゆ乃丸太のまくら」という歌を詠んでいます。
2日目。温泉で日頃の疲れを癒して、普段よりも深く眠れたからか、朝の目覚めもすっきり。さぁ、朝ごはんの時間です。数々のお料理と、魚沼産コシヒカリに舌鼓を打ちました。今日もいい日になりそう。最高のおこもり旅ですね!
朝ごはんを終えてひと息ついたら「長寿乃湯」へ。ここはこぢんまりした、家族風呂のようなお風呂です。ぬるめのお湯に身を沈めたら、あまりの気持ちよさに二度寝しそう。朝の光がとてもキレイなので、朝に入ることをおすすめします。
すみずみまで清潔に整えられていた長寿館を、後ろ髪をひかれながらチェックアウト。再びバスで上毛高原駅へ戻り、駅前にある「天丸」でお蕎麦をいただきます。
「天丸」は地元の方や観光客にも人気のお蕎麦屋さん。私が頼んだ「天付き 辛っ風そば」は、しっかり辛い葉ワサビと大根おろしをそれぞれつゆに入れて、2種類の味が楽しめました。
ふぅー、お腹がいっぱいになりました。駅前の「みなかみ町観光センター」内のお土産コーナーでお土産を買い、上毛高原駅から上越新幹線で東京駅に。
右は長寿館オリジナルの卵せんべい。ネギと花豆は群馬の特産品、花いんげん煮豆は数多くある中でこれが一番おいしいとおすすめしていただきました。そして、ドライフルーツに目がないので、あんずも。
帰りの列車であっという間に日常へ。今回の旅では、歴史ある温泉宿でお湯にゆったりとつかり、しばし浮世を忘れてデジタルデトックスできました。こういう旅が幸せを感じさせてくれる。お土産があるので、しばらくは旅の余韻に包まれていられそうです。
掲載情報は2021年2月5日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
天丸
住所:群馬県利根郡みなかみ町月夜野1146-2
営業時間:11時~17時
定休日:木曜
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR上毛高原駅→法師温泉 長寿館
【2日目】法師温泉 長寿館→天丸→みなかみ町観光センター→JR上毛高原駅→JR東京駅