今回の列車旅ポイント
岩手県盛岡市のつなぎ温泉は900年を超える歴史ある温泉地。リポートするのは、『盛岡の「ふだん」を綴る本 てくり』のスタッフ・水野です。肌にやさしい湯巡りと県産食材たっぷりの食事、冬ならではの景色、そして伝統工芸を体験する楽しさをお届けします。
東京から東北新幹線で2時間ちょっとの岩手県盛岡市。
「盛岡手づくり村」は、JR盛岡駅発の「繋温泉行き」または「繋温泉経由鶯宿温泉行き」の路線バスに乗って30分ほどで到着します。
岩手に息づく生活や食文化、南部鉄器の製造工程を見学したり、盛岡冷麺や南部煎餅をつくる体験ができたり、東北特有の「南部曲り家」も見学できる同施設は、全国各地から観光客が訪れます。
1階の「おみやげ館」では、岩手県の工芸品、食材や地酒などの特産品およそ4,000種を販売しています。目の前にドーンと鎮座する南部鉄瓶のオブジェがインパクトたっぷりです。
人気の工房エリアには、11業種14軒の工房が並びます。職人がものづくりする様子を近くでじっくり観察したり、制作体験できることが、盛岡手づくり村ならではの面白さ。30分から60分程度で体験できるプログラムが多く、その場で申し込みが可能なものもあります。
まずは、ちょっと一巡り。
岩谷堂箪笥(いわやどうたんす)は、奥州市や盛岡市で作られる岩手の伝統工芸品。漆を塗ったツヤのある和箪笥に施した金具細工が特徴で、使うほどに深みのある美しさを増していきます。
南部鉄器の工房も4つ入っていて、その中には盛岡で唯一となる鉄瓶の鉉(つる)をつくる工房もあります。デザインを見比べたり、複雑な工程の製造現場を見たりできるのは「盛岡手づくり村」ならでは。
せっかくなので、実際に体験教室に申し込んでみました。竹細工、木工、陶器の絵付けなど、どれにするか迷うところですが、選んだのは「はたおり教室」。
さっそく会場へ向かうと、部屋いっぱいに機(はた:布を織る機械のこと)が並び、体験する前からモチベーションもあがります。当日の予約で大丈夫ですが、修学旅行シーズンの5、6月頃は小中学生の申し込みが多いそう。冬は比較的空いているので、狙い目かも。
はたおり教室は、つくるものや素材によって数種のコースがありますが、今回は手つむぎの毛糸を使ったミニマットをつくってみます。鮮やかな糸から1色を選び、自分だけの作品づくりに、いざ挑戦!
機に座るだけでドキドキ。佇まいがシャキッとして心も整います。最初は手足の動きもぎこちないですが、10分も経てばリズムに乗ってくるのでご安心を。プロの職人が丁寧に教えてくれるので、不器用な方でも心配はいりません!
思えば、古くから伝わる布づくりの技法「はた織り」は言葉で知っていても、実際に体験できる機会って多くはないですよね。同教室では、たて糸をあらかじめ張ってあり、その間によこ糸を織り込むので、子どもから大人まで気軽に体験できるそう。
今回チャレンジしたミニマット「ホームスパン(小)」は、およそ30分で完成。トントン、カッタンと機の音も心地よく、織姫になった気分を味わえました。
はたおり体験を楽しんだ後は、再び館内を散策。「MORIOKA 手づくり村マルシェ」にある喫茶コーナーで、一休みすることにしました。
気になったのは、「なんじぇら?」という不思議なネーミングのスイーツ。岩手名物である南部煎餅とジェラートの組み合わせを略した「なんじぇら?」は、同施設オリジナルのアイスです。
5種類のジェラートから選んだのはアロニア。盛岡ブランドの一つであるアロニアはベリー系の果実で、アントシアニンたっぷりで疲労回復にもぴったりなのだそうです。さっそく味わってみると、ゴマとクルミの風味に加えてほんのり塩味が効いた煎餅とジェラートが見事にマッチングし、満足のおいしさです。
さて、いよいよ「盛岡の奥座敷」といわれるつなぎ温泉へ。「盛岡手づくり村前」バス停から路線バスに乗って約5分、「繋温泉」バス停で下車してホテルに向かう前に、温泉の歴史を知るべく近隣を散策してみました。
バス停そばの緩やかな坂を5分ほど歩くと、道沿いの小高い丘に「繋温泉神社」が見えてきます。案内板によれば、900年以上前の平安末期、安倍貞任と戦った源義家がこの地に陣を置いた際に温泉を発見し、近くにあった石の穴に馬をつないで湯を浴びたとのこと。それがつなぎ温泉の名前に由来しているそうです。
神社の脇を見ると、「繋石」と呼ばれる大きな石が祀ってあります。雪の合間にのぞく石には、確かに穴が空いているのが見えました。
そんな歴史あるつなぎ温泉は、透明な単純硫黄泉が多く神経痛や冷え性などに効果が期待できるそう。道沿いには、誰でも利用できる足湯が数カ所設置されています(冬季は雪で閉鎖)。
温泉街に戻ろうとてくてく歩くと、道沿いにまた大きな石が! 看板によれば、源義家が戦いのさなか食糧に困り、山の獣を仕留めて食べ、その骨を山裾に投げ捨てたのだとか。骨は一夜にして大きな猫の形をした石に変わり、義家の殺生を戒めたと伝わっており、長きにわたって「猫石」という名で大切に祀られています。
歴史も十分に予習できたところで、雪に包まれた御所湖を眺めながら5分ほど歩き、「ホテル紫苑」へ向かいました。
湖畔沿いに立つホテル紫苑は、開放感たっぷりのロビーから眺める景色が圧巻です。
チェックインして部屋へ入ると、目の前に雄大な岩手山と御所湖の雪景色が待っていました。これだけでも癒やされる思いですが、館内には時間によって男女が入れ替わるお風呂が4つ、露天風呂が4つあり、それぞれ違ったスタイルで楽しめるのです。
まずは、源泉かけ流し「南部曲り家の湯」で「大岩の湯」を満喫。
露天風呂には石が敷き詰めてあり、足ツボが刺激されます。家族でゆっくり入りたい方には、同じフロアの貸切露天風呂がおすすめです。
温泉に入り、お腹も空いたところで、夕食です。待っていたのは、見た目も鮮やかな「南部曲り家会席」。おいしそう!
活鮑(あわび)の踊り焼き、みそ麹仕立て白金豚のしゃぶしゃぶ、そして、季節の刺身、地元食材をふんだんに使った料理の数々が並んでいます(食事内容は季節によって異なります)。
まず、目を惹いたのは活鮑の踊り焼き。三陸のすき昆布出汁をまとった柔らかい鮑は、岩塩とレモンでさっぱりいただきましょう。
小鉢は、芭蕉菜と干し菊の溜まり漬け、蒸し鶏、リンゴなます、山くらげなど、手間をかけた一皿がずらり。
さらに、バイキングスタイルでビーフステーキや揚げたての天ぷら、茶碗蒸し、サラダ、ソバ、あら汁、デザート3種も用意されていて、心も身体も満足です。
贅沢で心配りを感じる料理を堪能した後は、部屋で澄みきった冬の夜空を眺めながら、ゆったりと過ごします。工芸体験や歴史探訪など、土地の文化に触れた充実の1日となりました。
しっかり体を休めた翌朝は、温泉の効果もあって肌が艶やかになったような……。早めに起きて「ひとりじめの湯」も満喫しちゃいました。
男女入れ替え制のため制覇できなかった湯は、次回来訪のお楽しみに。朝食をいただき、ホテルの無料シャトルバスで盛岡駅へと向かいました。
帰りの新幹線の時間までに少し余裕があるなら、「盛岡駅ビル フェザン」1階の「KANEIRI STANDARD STORE 盛岡フェザン店」にてお土産を買ってみては。実は、『てくり』も取り扱ってくれています。
同店は、東北の工芸品や食品、国内各地の厳選した生活雑貨を取り扱うセレクトショップ。旅で出合った岩手の工芸品や、盛岡にちなんだモノを探してみたら、いろいろありました!
迷った中、盛岡の風物詩「チャグチャグ馬っこ」のかわいらしいミニ便箋&封筒、南部鉄瓶をかたどったペーパーウェイトを購入。
そして、盛岡のナッツ専門店がつくるコーヒー用ナッツも、焙煎コーヒー店の多い盛岡らしい品としておすすめです。見て体験して味わった2日間を思い出しながら、お茶やコーヒータイムのお供にしてみてはいかがでしょうか。
掲載情報は2022年4月14日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR盛岡駅→盛岡手づくり村→繋温泉神社/繋石/猫石/御所湖→ホテル紫苑
【2日目】ホテル紫苑→JR盛岡駅/KANEIRI STANDARD STORE 盛岡フェザン店→JR東京駅