今回の列車旅ポイント
こんにちは、美術ライターの明菜です。今回は滋賀県の近江八幡で、近代の西洋風建築を巡る街歩きと、話題のスポット「ラ コリーナ近江八幡」でバームクーヘンを楽しんできました。早速、東京駅から出発しましょう!
JR東京駅から東海道新幹線で、JR米原駅まで2時間ちょっと。米原駅で琵琶湖線に乗り換えて20分ほどでJR近江八幡駅に到着です。
京都在住の私は、JR京都駅から琵琶湖線に乗車して、近江八幡駅に向かいます。出発した日は残念ながら雨! でしたが、雨滴したたる車窓も情緒があって大好きです。光が水滴に乱反射して、窓がキラキラ光っているように見えます。
近江八幡駅に到着したら、名建築巡りスタートです!
近江八幡駅から歴史を感じる街を30分ほど歩くと、ヴォーリズ学園に到着します。今回訪れた「ハイド記念館」(※)は、学園の敷地内にあります。学園の正門の受付に申し出て、ハイド記念館へ。
※編集部注:開館日は公式サイトをご確認ください
ハイド記念館は、1931年に建設され、2003年まで幼稚園舎として使われていた建築物です。2000年に国の登録有形文化財に指定されました。
この建物を設計したのは、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880-1964年)です。1905年、アメリカ出身のヴォーリズは英語教師として来日し、キリスト教を伝道する施設や個人の邸宅の設計など、建築家としても活動を始めました。近江兄弟社を創業して常備薬「メンソレータム(現:メンターム)」を日本に普及させた実業家でもあります。近江八幡を中心に活動したヴォーリズは、近江八幡市名誉市民第1号に選ばれました。
根強いファンを持つヴォーリズの建築を一言で表すなら、「自由」です。アメリカで普及していた様式を日本に持ち込むだけでなく、日本の建築やデザインの良いところも積極的に取り入れ、日本人が暮らしやすい建築を目指しました。
ヴォーリズが重視したのは、住む人や使う人に優しい建築であること。その思想は、階段によく表れています。アメリカ風に奥行きを長く取り、傾斜を緩くして誰でも上り下りしやすくしました。また、階段や手すりの縁の角が取れて丸みを帯びていますが、経年で丸くなったのではなく、建築された当初からこのようなデザインだったそうです。
ハイド記念館から5分ほど歩くと、淡い黄色の壁が可愛らしい「旧八幡郵便局」に到着します。ヴォーリズの設計で1921年に竣工してから、1960年まで郵便局として利用されてきました。その後は空き家として放置されてきましたが、現在はヴォーリズ建築の保存活動を行う「一粒の会」が保存や再生に取り組んでいます。
洋風の建築に瓦屋根を取り入れるなど、こちらの建築にもヴォーリズの柔軟なアイディアが発揮されています。訪れた日は雨が降っていたので、窓に水滴がつき、物憂げな印象が乙でした。
北に向かって5分ほど歩くと、風情のある「八幡堀」に到着しました。水の音を聴きながら堀に沿って遊歩道を散策すると、気持ちが落ち着いてきます。
雨上がりは緑も鮮やかです。もみじは赤く色づく準備を始めたところでしょうか。
雨に濡れてツヤを増した石畳が美しいです。ハート形の石を発見しました!
八幡堀には「二兎醸造」というクラフトビールの醸造所があります。創業者はオーストラリア出身。近江八幡に魅せられて創業し、また、水源である琵琶湖の環境保全活動にも参加しているそうです。
直営店の「RABBIT HUTCHクラフトビアカフェ」でクラフトビールが楽しめるのですが、取材時は休業中。そこで、近くの酒屋さんで二兎醸造のクラフトビールを購入し、お土産にすることにしました。
※編集部注:「RABBIT HUTCHクラフトビアカフェ」は、2022年10月に「BEER HOUSE」としてリニューアルオープンしました
いくつか種類があって迷ったのですが、酒屋さんのポップでおすすめされていた「金柑ウィット」を選びました。麦の風味に柑橘の香りが爽やかで、飲みやすいビールでした!
今回は帰宅してから飲みましたが、アルコールを気軽に楽しめるのも列車旅の嬉しいところです。
八幡堀から20分ほど歩き、「十人十家 Vories Cafe & Art Lab」にやってきました。ヴォーリズ建築の旧パーミリー邸を改装した建物で、生パスタやプリンアラモードなどをいただくことができます。
旧パーミリー邸は1924年に建てられ、一部増改築を加えながら、個人の住宅として使われてきました。しかし空き家だった期間が長いため、シロアリによる被害などが酷く、改装には多大な労力がかかったそうです。ヴォーリズ建築は木造が多く、保存も再生も一筋縄では行きません。
ヴォーリズ建築の特徴である暖炉やクリスタルのドアノブなど、オリジナルのまま活用できる部分はそのまま残されています。外観も建築された当初の様子をイメージしたそうで、現代に蘇ったパーミリー邸という印象でした。
築90年以上の趣を堪能しながら、プリンアラモードとクリームソーダをいただきました。卵の味が濃厚なプリンに、爽やかなクリームソーダ、とても美味しかったです。お食事では生パスタもおすすめだそうです!
歩いて近江八幡駅に戻り、1日目はJR草津駅周辺のホテルに宿泊しました。
スカッと晴れた2日目は、糖分を求めて「ラ コリーナ近江八幡」へ! 近江八幡駅から、長命寺行きの近江鉄道バスに乗ること約10分、「北之庄 ラ コリーナ前」バス停で下車します。
ラ コリーナ近江八幡は、和菓子や洋菓子を製造・販売する「たねやグループ」のフラッグシップ店です。和菓子や洋菓子のお土産を購入できるのはもちろん、カフェでできたてのバームクーヘンをいただくこともできました。甘いもの好きには堪らないスポットです。
「自然に学ぶ」をテーマに、自然に囲まれた敷地内には田んぼや自社農園、たねやグループの本社などもあります。
『森のくまさん』が暮らしていそうな緑の建物がメインショップ。当初は芝のみで覆われていた屋根ですが、現在ではほかの植物も育って賑やかな雰囲気に。定期的なお手入れはしつつ、ある程度は自然の流れに任せているそうです。
メインショップでは、たねやの全商品を取り扱っています。和菓子売場では、夏にぴったりの水羊羹など、季節のお菓子がとても美味しそうでした。
バームクーヘンで有名な「クラブハリエ」の洋菓子売場では、ガラス越しにバームクーヘンを焼くところを見られました! 丁寧な手つきでじっくり時間をかけてつくられており、美味しさの秘訣を感じることができました。
2階のカフェでは、焼きたてのバームクーヘンをいただくことができます。一口食べた瞬間、綿のような柔らかさに驚きました。私が今まで食べたバームクーヘンの中で一番美味しかったです!
お買い物だけでなく、敷地内の散策も気持ち良かったです。広々とした田んぼには、社員の方々が田植えをしたそうです。お菓子の原材料についての理解を深めるための試みなのだとか。
田んぼには、オタマジャクシやカエル、メダカなどたくさんの生き物がいました。なんと鴨の親子が目撃されたこともあるそうです! 野生の生き物にとっても住みやすい環境なのですね。
メインショップのほか、カステラショップやフードガレージでもお菓子を購入できます。さらに新店舗の開発も進んでいるようで、ますます楽しいスポットになりそうです。
お土産には、ラ コリーナ近江八幡限定の「たねや饅頭 桑の葉」がおすすめです。桑の葉の粉末を生地に練り込み、若草色が綺麗なお饅頭は、あっさりした優しい甘さでいくつでも食べられる味でした。
ラ コリーナ近江八幡を堪能したら、バスで近江八幡駅に戻り帰京します。ヴォーリズによる人に優しい建築を巡り、真心のこもったお菓子をいただき、心が温まる旅になりました。近江八幡は季節によって違う表情が見られそうなので、再訪したいと思います!
掲載情報は2022年9月13日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR米原駅→JR近江八幡駅→ハイド記念館→旧八幡郵便局→八幡堀/二兎醸造→十人十家 Vories Cafe & Art Lab→JR近江八幡駅→JR草津駅(ホテル)
【2日目】JR草津駅(ホテル)→JR近江八幡駅→ラ コリーナ近江八幡→JR近江八幡駅→JR米原駅→JR東京駅