今回の列車旅ポイント
編集者の藤田華子です。私がひっそり続けている趣味のひとつに、港町めぐりがあります。人々の営み、海の力を肌で感じる地に、昔から惹かれるものがありました。
今回は、富山県のほぼ中央、富山湾に面した射水市(いみずし)へ。射水市の北側、富山湾につながる富山新港からのびる河川「内川」の周辺は、19世紀に北前船の中継地として栄えた港町です。
古代の人々が河川や地下水など水の豊かな様子を「出(い)ずる水(みず)」と呼んだことから、「射水」という名がついたそうです。いまは「日本のベニス」ともいわれる射水市へ、いざ!
富山へと、JR東京駅から出発します。JR富山駅までは北陸新幹線「かがやき」で2時間10分ほど。北陸って「えんやこら行く遠い場所」というイメージだったのですが、あっという間に到着してびっくり。
富山駅から、射水市に向かうため、あいの風とやま鉄道に乗り換えて小杉駅へ。あいの風とやま鉄道って、愛の風? いえいえ、「あいの風」は、春から夏にかけて吹く北東のさわやかな風のこと。富山では、なんと『万葉集』が詠まれた時代から豊作や豊漁など「幸せを運ぶ風」として県民に親しまれているそうです。
10分ほど列車に揺られ、小杉駅へ。駅から射水市コミュニティバス「きときとバス(新湊・小杉線)」に乗って50分ほど、今回の目的地・射水市の内川エリアに到着します。
ちなみに、土日はバスの本数が少ないのでご注意を(詳しくはこちら)。富山駅から高岡駅に行き、そこから万葉線に乗り新町口駅で降りるルートもありますよ!
きときとバスをかぐら橋口バス停で降りて1分ほど歩くと、さっそく港町らしい風景が見えてきます。
淡水と海水が交わるこの河川は「内川」と呼ばれ、富山新港から東西約3.5キロメートルを結ぶ運河です。
潮の香りに誘われて散策すると、明治〜昭和初期に建てられた家が連なるノスタルジックな町並みが。川沿いには、それぞれの家の船を留める「係船柱」があります。驚いたのは、川辺に柵がないこと。内川がここに住む人々にとって身近な存在だという証のようです。
散策の拠点「川の駅 新湊」が見えてきました。ここは、地域のコミュニティスペースとして人々が集うほか、毎年10月1日に行われる「新湊曳山(ひきやま)まつり」で、射水市新湊地区(旧新湊市街地)を引きまわす「曳山」が展示されています。
普段は格納庫に入った曳山をガラス越しに見るのですが、今回、特別に扉を開けていただきました。
全貌が写真に収まりきらないほどの大きさなんです……!
海の神様への行事として始まった「新湊曳山まつり」は、朝から晩まで13基もの曳山が町中に連なります。最も古い曳山には約370年の歴史が! なんとも豪華絢爛なこの曳山を50人ほどで「イヤサー、イヤサー!」と引き歩き、海から神様をお迎えして先祖の霊とともに「祭る」のが主目的だそうです。海の近くで脈々と暮らしてきた、人々の営みに思いを馳せました。
2階にある内川に面したデッキで一息。併設のカフェで、射水名物の「かけ中(うどんの出汁にラーメンを入れたメニュー)」もいただけますよ。
お昼は「cafe uchikawa 六角堂」へ。元畳屋だった当時築70年ほどの古民家に一目惚れした現オーナーの明石さんが、当時の所有者に取り壊しを止めてもらえるよう働きかけ、梁や柱を残してリノベーションしました。
オーガニック素材にこだわったメニューのなかでも、オススメは「六角堂ルーベンサンド(コンビーフサンド)」。8年前、この町の風景に惹かれて移住してきたという店長の北原さんがつくるこちらは、ザワークラウトの酸味、こだわりのコンビーフとチーズが美味しい! 店頭で焼き上げるパンは、もっちりと食べ応え満点です。
「内川は、よそにはない空気や風景があります。ここを起点に、もっと射水市が楽しく盛り上がっていったら嬉しいです」と店長の北原さん。これまでの歴史を大切にしながら、BARや精肉店など、新しいお店もできているそうです。
※編集部注:「cafe uchikawa 六角堂」は13歳未満入店不可のお店となります。詳しくはお店までお問い合せください
漁船が並んだカーブする川沿いを歩いていると、日没の時間が近づいてきました。
この場所が、さまざまな映画のロケ地になったというのも納得する美しさ。明日は、この町に架かる個性豊かな橋の数々を巡ります。
新町口駅から40分ほど万葉線に揺られ高岡駅へ。本日は、駅近くの宿に泊まります。
2日目は、昨日散策した内川エリアを船に乗って巡ります。まずは高岡駅から万葉線に乗り45分ほど、海王丸駅を目指します。
私が乗った車両はかわいい黄色でしたが、なかにはとってもレトロなデザインのものもあります。
ちなみに、富山の町を歩いていると『万葉集』に由来した言葉をよく目にします。それは、『万葉集』を編んだといわれる大伴家持が、かつてこのあたりに赴任していたから。富山にまつわる万葉歌は「越中万葉」といい、『万葉集』の1割弱を占めるそうです。『万葉集』とつながりの深い土地だと思うと、吹く風も、高い空も、いっそう瑞々しく映ります。
街中も、長閑なエリアも走る万葉線。行定勲監督が、島本理生さんによる恋愛小説『ナラタージュ』を映画化した際は、射水市の隣の高岡市を中心に撮影が行われたそうです。
海王丸駅から徒歩約10分、富山新港に架かる新湊大橋のたもとに位置する「海王丸パーク」に着きました。
もともと海洋実習船として建造された帆船「海王丸」。いまは引退し、一般公開されています。
パーク内にある乗り場から新湊観光船に乗り込みます。「内川遊覧&12橋巡り 万葉丸」コースは1周約50分。万葉丸は事前予約もできますし、当日空きがあればその場で乗船することも可能。詳しくはHPをご覧くださいね。
町のなかに川が流れているのですから、橋の数も多い。船のなかで、それぞれの橋のエピソードや特徴などの解説を聞きながら巡ります。
たとえば、放生津小学校の生徒さんが城をイメージしてデザインした「ニの丸橋」。
スペインの建築家が手掛け、「渡るだけでなく、立ち止まり、時を過ごす憩いの橋」という想いが込められた「東橋」。
郷土出身の彫刻家・竹田光幸氏制作の作品があしらわれた「山王橋」は、欄干に音符の音階がデザインされています。歩道側には童謡『海』、車道側には童謡『キラキラ星』のメロディが刻まれている、なんともロマンチックな橋!
わかりやすいよう、船を降りてから撮影した写真を掲載します。
潮風をまといながら、観光船の乗り場に近い万葉線・越ノ潟駅より帰路につきます。
港町で脈々と受け継がれる伝統を肌で感じ、日本の美しい風景を満喫した2日間でした。歴史を知り、どんな風景を未来に残していきたいか……そんな希望を胸に、旅を終えました。
掲載情報は2022年10月6日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR富山駅→小杉駅→川の駅 新湊→cafe uchikawa 六角堂→内川エリア散策→新町口駅→高岡駅(ホテル)
【2日目】高岡駅→海王丸駅→海王丸パーク/新湊観光船→越ノ潟駅→JR富山駅→JR東京駅