今回の列車旅ポイント
鳴子峡の紅葉絶景、上から見るか? 下から見るか?
30年くらい前、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』というテレビドラマがありました。5年ほど前、アニメにもなったので、若い世代でも知っている方はいるかと思います。
日本有数の紅葉絶景、宮城県の鳴子峡。みんなが知ってるのは「上から見る」鳴子峡。でも、陸羽東線(りくうとうせん)に乗っちゃえば、「下から見る」鳴子峡も楽しめるんです!
※編集部注:2024年9月20日現在、陸羽東線は7月25日の大雨の影響で、鳴子温泉駅~中山平温泉駅~新庄駅間が不通となっています。
今回のスタートは、JR東京駅を朝6時12分発の山形新幹線「つばさ」121号。宮城へ行くのに「なぜ山形新幹線?」と思われたかもしれませんが、鳴子峡を通る陸羽東線は、宮城県の東北本線・JR小牛田(こごた)駅と山形県の奥羽本線・JR新庄駅を結ぶ路線。ということは、山形経由でも宮城に行けちゃうという訳です。線路がつながってるって、ホント素晴らしい!
新庄駅では6分の待ち合わせで、10時01分発の陸羽東線の普通列車・小牛田行に乗り換え。
昼間、新庄駅から鳴子峡方面へ向かう列車は、概ね3時間おきの運転(※)ですので、この列車を逃すと、次は13時の発車となります。ローカル線の旅は、乗り継ぎ列車の時刻を調べてから乗る新幹線を決めるのが、失敗しないカギです。
※編集部注:早朝と夕方以降を除く。新庄駅から鳴子温泉駅まで
陸羽東線は1本の線路を上り下りの列車が走る単線のため、列車は途中駅ですれ違います。今回乗った列車も、JR最上駅で新庄駅行と待ち合わせ。時間があったので、ホームに降りると、昨日、鳴子峡に行ってきたばかりだという、おじいさんに逢いました。地元の訛(なま)りでおじいさんが話してくれたことをまとめると、
① 列車からの紅葉は、JR中山平温泉駅からJR鳴子温泉駅にかけてのトンネルとトンネルの間が最高で、列車もゆっくり走ってくれる
② 小牛田駅行の場合、進行方向と逆に後ろ向きで座って、少し上を見るのがいい
③ 鳴子峡の大深沢橋から見る、陸羽東線の列車の景色は、もっと美しい
こんな有益な情報をいただいたら、実践しないわけにはいきませんよね!
中山平温泉駅を出た列車は、しばらく走るとトンネルの暗闇のなかで突然の減速。トンネルの出口のあかりがゆっくりゆっくり近づいてきて、パアッと車内が明るくなると……!
おじいさん、ありがとう! 教えてくれたとおり、ゆっくり走る列車から赤や黄色に色づいた木々が生い茂る峡谷をじっくりと眺めることができます。その上には大深沢橋が架かっていて、紅葉と共に青空に映えています。橋の上から列車にカメラを向けている人もたくさんいますね。
ちなみに陸羽東線の「中山平温泉駅-鳴子温泉駅」間では、紅葉や新緑の見ごろの時期に合わせて、日中の一部列車でスピードを落として運行しています。(列車が遅れていると、通常のスピードで運行することもあります)
おじいさんのアドバイスに従って、今度は大深沢橋からの陸羽東線の列車を見るために、鳴子温泉駅で降りて、駅前から紅葉の時期だけ運行されている臨時バス「紅葉号」(※)に乗ります。大深沢橋の最寄りは「鳴子峡中山平口」バス停。国道の渋滞がなければ、だいたい15分で到着します。
※編集部注:運行期間など詳しい情報は、鳴子温泉郷観光協会ホームページをご確認ください
とはいえ、陸羽東線の列車は、概ね3時間おき。次にやってくる列車までは、1時間半ほどありますので、それまでは鳴子峡をしばしの散策。「鳴子峡レストハウス」の見晴台からは、これぞ鳴子峡という美しい紅葉が楽しめます。
鳴子峡は、大谷川が刻んだ深さ100mにおよぶ大峡谷。2つの遊歩道があり、1つは国道から峡谷まで降りていくことができる「鳴子峡遊歩道」。回顧橋まで約350mの下り坂をゆっくりと下っていきます。
もう1つの「大深沢遊歩道」は、1周約2.2kmの遊歩道で、江戸時代に松尾芭蕉が歩いた「おくのほそ道」と重なる区間もあり、人も少なめで存分に自然を満喫できます。訪れた日は一部区間が通行止めのため、途中で折り返しでした。最新の情報は各自ご確認くださいね。(※)
※編集部注:遊歩道は冬季閉鎖。最新情報は、鳴子温泉郷観光協会ホームページのほか、大崎市ホームページでも確認できます
自然いっぱいの鳴子峡を歩いたら、いよいよ、鳴子峡を走る陸羽東線をカメラに収めます。鳴子峡レストハウスでも、列車を走る時間をお知らせしているので、列車好きもそうではない人も、1日に数回しかない希少な風景を目に焼き付けておこうと、大深沢橋に集まって、今か今かと待ち続けます……。そしてついに、その瞬間がやってきました!!
※編集部注:2024年9月20日現在、陸羽東線は7月25日の大雨の影響で、鳴子温泉駅~中山平温泉駅~新庄駅間が不通となっておりトンネルから出てくる陸羽東線を見ることはできません。最新の運行状況はJR東日本の公式サイトをご参照ください。
紅葉真っ盛りの鳴子峡に、陸羽東線のキハ110系気動車がトンネルから顔をのぞかせると、歓声とともにシャッターを切る音が鳴り響きました。紅葉の中をゆっくりゆっくりと列車が走り抜けていく様子は、まるでお祭りの山車が練り歩くかのよう。1年でこの時期だけの特別な時間、そこにいるだけでも幸せになれる瞬間です。
鳴子峡を1日満喫したらあっという間に秋の夕暮れ。今日は鳴子温泉郷の宿に泊まります。鳴子温泉郷は、日本に11種類ある温泉の泉質のうち、8つが湧き出す、人呼んで「温泉のデパート」。旅の疲れもしっかり取れそうです。
2日目は鳴子温泉駅から、途中下車しながら小牛田駅に向かいます(※)。
※編集部注:鳴子温泉駅から小牛田駅までの陸羽東線は、概ね1時間に1本
さっそく1駅目のJR鳴子御殿湯駅で途中下車し、駅近くの江合川の河原へやってきました。鳴子峡を刻んだ大谷川は、鳴子温泉駅の近くで江合川と合流して大崎平野を流れ下っていきます。この江合川に沿って、陸羽東線の列車も小牛田駅を目指していきます。
陸羽東線のキハ110系気動車は、基本的に4人掛けのボックスシートと2人掛けのボックスシートが並ぶ2両編成ですが、一部の車両は片側のシートが窓側に向けて固定できたり、進行方向に向きを変えられたりするつくりになっています。車窓を存分に楽しめていいでしょう?
JR岩出山駅で途中下車。じつは岩出山駅、今の駅舎の隣に昔の駅舎が残されています。見た目は地場産品の直売所なんですが、一歩足を踏み入れますと……。
昔の改札の先が「岩出山駅鉄道資料館」になっていて、陸羽東線の歴史をはじめとしたこの地域の列車のさまざまな資料が収蔵されているんです。
陸羽東線は1917年に全線が開通し、100年以上の歴史があります。東北地方は南北に走る列車が多いなかで、奥羽山脈を越えて、太平洋側と日本海側を結んでいる大事な路線です。岩出山鉄道資料館の館内には、この陸羽東線の全線が、模型レイアウトによって再現されています。
岩出山駅から10分ほど歩いたところにある城山公園には、国鉄時代に陸羽東線で活躍したC58形蒸気機関車(シゴハチ)の114号機が保存されています。
ちなみに、この場所にかつてあった岩出山城は、若き日の伊達政宗公が居城としたお城。米沢からやって来て、仙台へ移るまでの12年間をこの地で過ごしたのだそうです。
岩出山駅から再び上り列車に30分あまり揺られると、終点・小牛田駅に到着。これにて無事、陸羽東線全線を走破することができました! 東北本線と石巻線へは、この駅で乗り換えとなります。
そして、この小牛田駅にも「お城」があるというんです。
東北本線と石巻線の列車が発着する3・4番ホーム。そのJR一ノ関駅寄り、陸羽東線の0キロポストの向こうに、周りを線路で囲まれたお城のオブジェが見えました。聞けば、元国鉄職員の方が地元を盛り上げるためにつくったものだそう。
東北本線と陸羽東線、石巻線が接続する小牛田駅周辺は、古くから鉄道の町として栄えてきました。東北新幹線の開業後は、JR古川駅が地域の玄関口となりましたが、いまも小牛田駅には、陸羽東線をはじめ、この地域を走る気動車の車庫があって、鉄道で働く皆さんが行き交っているんです。
夕暮れの大崎平野を、週末中心に「仙台駅―新庄駅」間を陸羽東線経由で運行している臨時の「快速湯けむり号」が駆け抜けていきます。
特別仕様のキハ110系気動車の中ではきっと、鳴子温泉郷の素晴らしいお湯に癒やされた人たちが、鳴子峡の美しい紅葉の思い出と一緒に、旅の余韻に浸っていることでしょう。陸羽東線には、私たちにとって何か大事なものが隠れているように感じます。いまこそローカル線を色々な角度から見つめて、その素晴らしさを再発見してみてはいかがでしょうか?
掲載情報は2023年1月12日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR新庄駅→JR鳴子温泉駅→鳴子峡/大深沢橋→JR鳴子温泉駅(ホテル)
【2日目】JR鳴子温泉駅→JR鳴子御殿湯駅→JR岩出山駅/岩出山鉄道資料館/城山公園→JR岩出山駅→JR小牛田駅→JR古川駅→JR東京駅