今回の列車旅ポイント
温泉に入った瞬間に「あぁ」と思わず声が漏れる、あのトロける瞬間、たまりませんね。こんにちは、温泉ソムリエでもある編集者の藤田華子です。
今回は、秋田県の男鹿(おが)温泉郷にある「元湯 雄山閣」へ。男鹿といえばユネスコ無形文化遺産にも認定されている来訪神・ナマハゲが有名ですが、古くは湯治場として人々を癒やした効き湯の郷でもあるんです。また、近年はクラフトサケ醸造所など新しい取り組みも増えているそう。楽しみです!
今回旅した温泉宿は、「地・温泉」のお宿です。「地・温泉」とは、代々湯守が愛情を注ぎ守ってきた伝統的な秘湯・名湯を厳選したお宿。お湯の効能はさることながら、懐かしい景色と心のこもったおもてなし、地のものをいかしたお食事で、心身ともに癒やされる時間を過ごせます。詳しくはこちら
秋田出身の友人に「雪女を怒らせると大雪が降るから気をつけて」と送り出され、ビクビクしながら(笑)、いざ男鹿へ!
JR東京駅から秋田新幹線「こまち」に乗り、3時間50分ほどかけてJR秋田駅へ向かいます。戦隊モノのセンターを思わせる赤い車体が格好いい!
「長いトンネルを抜けると雪国であった」——このくだりが有名な川端康成の『雪国』は越後湯沢が舞台ですが、ここにも白銀の雪景色が!
車窓にうっとりしていると、突然、「大曲駅〜秋田駅」間で新幹線が逆走しはじめてびっくり! これには線形上の理由があるそうで(気になる方は調べてみてくださいね)、お客さん同士で声をかけ、座席を回転させる愉快な体験ができました。
秋田駅で男鹿線(男鹿なまはげライン)に乗り換えます。2両編成のコンパクトな列車は、赤と青のナマハゲカラー。1時間ほど揺られ、JR男鹿駅に到着しました!
「ACCUM」は二酸化炭素の排出量が少ない、環境に配慮した交流蓄電池電車です。車内にはエネルギーの流れがわかるパネルも。
そして到着した男鹿駅は、2018年にエコステーションとして生まれ変わったピッカピカの駅舎。
でもここ、ただ新しいだけではなく未来を見つめる駅でもあるんです。「創エネ・省エネ・エコ実感・環境調和」の4つの柱を掲げる「エコステ」モデル駅として整備されたそう。
天気が良かったので、屋上テラスからは寒風山を眺望できました。また、駅近くには男鹿の豊かな風力を利用した小型風力発電の風車が。
駅前広場では、各種イベントも行われ地域の交流の場になっているそうなので、今度はそのタイミングに合わせて訪れてみたいと思います。
男鹿駅前のナマハゲのモニュメントやイラストに迎えられた後は、宿の送迎バス(要予約)で25分ほど揺られてお宿へ。
今日のお宿「元湯 雄山閣」は、自家源泉を保有していて、たっぷりの湯量を誇るそう。冷えた体をはやく温めたい! と期待が高まります。
ナマハゲがお出迎え! 髪の毛は漁で使った網だそう。
到着そうそうお風呂にご案内いただくと、女湯も男湯も、なんとナマハゲの口からお湯が噴出しているではありませんか!
こうもダイナミックに噴出するお湯を前にすると、大地のパワーを感じずにはいられません。う〜ん、これぞ温泉の醍醐味。
こちらは温泉露天浴場(男湯)。あまりの勢いに、浴槽の外にまでしぶきが!
宿の代表であり、温泉の管理人でもある「湯守(ゆもり)」の山本貴紀さんにその魅力を伺いました。
【湯守】山本貴紀さんに聞く
秋田男鹿温泉郷 元湯 雄山閣の魅力
「なんといっても、一番の特徴は『源泉直行の噴き流し』で勢いがあるということです。地下から温泉を汲み上げ、そのままナマハゲの口やパイプから出しているからこその、温泉の成分、湯の花の濃さが自慢です」
たしかに底にはうっすらと、鉱泉のなかにある沈殿物(通称「湯の花」)が積り、湯の肌触りはかなりまったり。保湿効果があるといわれているのも納得です。
経年変化でいびつな形になった浴槽も成分の濃さを物語っています。
「湯の花が濃いので、3ヶ月に1度はお湯を汲み上げるパイプを交換しないと詰まってしまうんです。今日は交換してから2ヶ月ほど経っているので、これでも湯量が少ないほうなんですよ」
そう言って見せてくれたのは、湯の花がパイプに付着し、バームクーヘンのように年輪状に重なり作られた結晶。大自然が作り出した芸術作品は、男鹿温泉の温泉効力を証明するかのような静かな迫力がありました。
「季節や気温によって、毎日、温泉の温度も色も変わります。茶褐色がかっていることもあれば、緑色のことも、白いことも……その温度調整をするのが湯守の役割。男鹿水族館GAOや入道崎、雲昌寺のあじさい、なまはげ館など見所もたくさんありますので、ぜひ男鹿温泉に遊びにきてください!」
そんな、男鹿自慢の温泉を堪能し、部屋から遠くに見える海を眺めました。なんだか、身も心もじんわりほぐれていくのを感じます。
元湯 雄山閣のもうひとつのおすすめ、お夕食の時間です。地元の食材をふんだんに使った男鹿伝統のお料理がずらり!
こちらは伝統料理の「あんぷら餅」。あんぷらはジャガイモのことだそうです。
注目は、「一瞬だから見逃さないでね!」と湯守の山本さんに言われた「石焼料理」です。
お味噌汁が入った桶に、アツアツに熱した石を投入して一瞬で煮立て、そこに海鮮を加えます。石焼料理に使用するのは、男鹿の海で取れた溶結凝灰岩(火山灰などが積み重なって固まった岩石)。炭を使って約3時間焼くことにより、なんと800℃にまでなるそうです。
一気に熱を通すと、魚介特有の生臭さが吹き飛んで美味しいっ! そしてあったまる!
その昔、男鹿の漁師達は浜の岩場でこの石焼料理を食べて、漁で冷え切った体をあたためていたそうです。
この日は冬季休業中でしたが、時期によってはナマハゲと和太鼓を組み合わせた郷土芸能「なまはげ太鼓」も堪能することができるんだとか。心も体もホッカホカになり、1日目はおやすみなさい。
稲とアガベ醸造所は、「男鹿の風土をそのまま瓶に閉じ込めたようなお酒造り」を目指すクラフトサケの醸造所。2021年秋、築90年の旧男鹿駅駅舎跡にできました。旧駅舎に対する人々の思い出を大事にするために、改築は最低限に留めたそうです。
日本酒の製造技術をベースとした新しいジャンルのお酒「クラフトサケ」を製造しており、土と風ではボトル購入のほか試飲もできますよ。
私は「DOBUROKU series 水酛」をお土産に。
実は、どぶろくもクラフトサケのひとつなんです。どぶろくって、原料を濾していないので栄養たっぷり、でも、独特のお味で少し飲みにくいイメージがあったのですが、これはとっても美味しくて飲みやすい! 無肥料無農薬の自然栽培米を原料に用いているので、ダイレクトに素材の味を楽しめます。乳酸菌たっぷりなのも嬉しいポイント。
ほかにも、見た目は日本酒と変わらないアガベシロップを副原料にした「CRAFT series 稲とアガベ」など、さまざまな種類のお酒がありました。この土地でワクワクするような事業を創出し、未来につなげていきたいという想いに溢れる稲とアガベ醸造所の今後に期待が高まります。
こうして、1泊2日の男鹿トリップは終了! 男鹿の文化を守り、未来へ向けて活動する男鹿のひとたちが大好きになりました。
掲載情報は2023年3月30日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR秋田駅→JR男鹿駅→元湯 雄山閣
【2日目】元湯 雄山閣→稲とアガベ醸造所→JR男鹿駅→JR秋田駅→JR東京駅