今回の列車旅ポイント
平日会社員の旅フォトグラファー、hirotographerです。今年の桜、みなさんはどのように楽しまれましたか? 気軽に行ける近所の桜並木もいいですし、都内の名所はもちろん、ちょっと遠出してまだ見ぬ素敵な桜と出会うのもよいものです。
東北は福島県に美しい桜のトンネルがあると聞き、いてもたってもいられず桜前線を追いかけて、辿り着いたのは「日中線しだれ桜並木」。春時雨の滴る中、咲き誇る3kmに及ぶ桜色の美しい回廊が、そこにはありました。
まずは東北新幹線「やまびこ」に乗ってJR東京駅を出発し、桜を目掛けてJR郡山駅まで約1時間半の旅路です。
福島への旅は、びゅうトラベルの「JR東日本びゅうダイナミックレールパック」を利用すれば、新幹線往復きっぷとホテルがセットでお得に申込みできます。
郡山駅からは磐越西線(会津若松行き)の列車に乗り、1時間少し。4人掛けのボックス席での相席も旅の風情を加速させます。
途中、翌日に立ち寄る予定のJR川桁駅付近に差し掛かると「次の川桁駅を過ぎますと桜の名所、観音寺川が車両右手に見えて参ります。速度を落として運行します。一瞬です。くれぐれもお見逃しのないよう御覧ください」と車内アナウンス。
どうやら、例年、桜の開花の時期に数日だけ実施している猪苗代~川桁駅間の速度低下運転に乗車できたようでラッキーです。
予定通り川桁駅を過ぎたところで少しスピードが落ちたものの、本当にあっという間に観音寺川を通り過ぎ、「……一瞬でした。お粗末さまでした」と再度クールにアナウンスする車掌さん。本当に一瞬の出来事で車内はどっと笑いが起きて盛り上がります。こういうところもローカル線の魅力のひとつです。
和やかな雰囲気の車内のまま、列車はJR会津若松駅に到着し、野沢行きの磐越西線に乗り換えてJR喜多方駅までは約20分。
蔵の外観を模したかわいらしい駅舎を出ると外は生憎の雨。
この時期の雨は桜雨、花時雨、育花雨など、花にちなんだ名前も多数。きっと雨に濡れた桜も美しいはず、と気持ちを切り替えて出発です。駅から「日中線しだれ桜並木」までは徒歩5分ほど。途中で出会う蔵造りの建物にもテンションが上がります。
日中線しだれ桜並木はその名の通り、1984年にその歴史を閉じた国鉄の鉄道路線・日中線の線路跡を一部整備した遊歩道にあります。3kmにわたって約1000本のしだれ桜が咲き誇る姿はまさに圧巻。日本最大級のしだれ桜並木です。
途中には日中線営業当時に走っていたSLも展示され、在りし日の面影を添えています。
喜多方駅側の遊歩道入り口から桜並木を2kmほど進むと、桜の花びらが絨毯のように足元を覆い尽くしている光景に出会いました。
ふと目線を上げると道路を渡った向こうに、目的の桜のトンネルが現れました。
正直、先ほどまでの桜並木を「桜のトンネル」と言われても納得してしまう美しさだったのですが、本当の桜のトンネルゾーンはその枝と花の迫り出し具合、密度、色合い、どれをとっても圧倒的です。
並んで歩くカップルもそれだけで絵になります。傘にくっついた桜の花びらもなんだか、うれしくなるお土産です。
桜を目一杯楽しんだ後は徒歩で20分ほど、田付川の近くにある「Cocco tree(コッコツリー)」で遅めのランチです。こちらのお店、福島県内産の「いきいきたまご」と会津のブランド牛乳「べこの乳」を使ったパンケーキが自慢。甘党代表として私も季節限定の「宇治抹茶のフィルムパンケーキ」とドリンクバーを注文!!
パンケーキに巻かれていたビニールフィルムを店員さんが丁寧に持ち上げると、雪崩のようにおいしそうなクリームがパンケーキの上を駆け降りていきます。
パンケーキがふわふわなのはもちろんのこと、このクリームも軽い舌触り。頬張れば抹茶の香りが鼻腔をくすぐります。パンケーキの間にはフルーツとカスタードが重ねられていて全体の甘さのバランスがとてもいい感じ。もちろん、カスタードにもパンケーキと同じ牛乳と卵が使われています。
クリームとパンケーキだけだと、どうしても単調になってしまうところですが、サイドに配置された黒蜜やわらび餅、あんこをパンケーキと組み合わせることで最後まで飽きずにおいしく食べられます。特に黒蜜との相性にハマってしまい、あっという間に完食。
ドリンクバーも、種類が豊富なのがうれしいところ。
同じ卵と牛乳を使ったプリンも食べたかったのですが……満腹なので次回来た時の楽しみに取っておくこととしましょう。
この日は喜多方市内の宿に宿泊です。
2日目は、喜多方駅から会津若松駅を経由して1時間ほど、JR猪苗代駅に降り立ちます。
猪苗代駅からバスを利用して15分ほどの「亀ヶ城公園」に到着です。
歴史上重要な拠点でもある猪苗代。猪苗代氏代々の居城・亀ヶ城があった亀ヶ城公園も桜の名所です。戊辰戦争においては亀ヶ城を守りきれないと判断した会津藩軍が自ら火を放ち、若松に逃れて降伏したとされています。
将軍と深い縁のある城も今は石垣跡を残すのみですが、失われた景色と紡がれた歴史に想いを馳せながら愛でる桜もよいものです。まだ山頂に雪をうっすらと纏ったまま、磐梯山だけがその雄大な姿を変えることなく鎮座しています。
桜はまだ満開よりも少し早く、蕾も見られますが、ピクニックをしている老夫婦や石碑前に腰掛けて談笑するおばさまたち、手をつなぎ歩く母子など、それぞれに桜を楽しんでいる様子が印象的でした。
花より団子を地で行く私。ランチは亀ヶ城公園から歩いて5分ほどの「まるいち食堂」へ。
ここは会津発祥といわれるソースカツ丼が名物。その歴史は古く、昭和のはじめから親しまれているとか。
福井のソースカツ丼は細かいパン粉をまぶして揚げた薄めのトンカツをベースにするのに対して、こちら会津のソースカツ丼は分厚いトンカツを使った真逆のタイプ。新政府軍側の福井藩と旧幕府軍側の会津藩によるソースカツ丼対決の様相を呈しています。
着丼とともに試合開始です。厚切りのローストンカツから肉汁が通奏低音のようにどっしりと駆け抜け、鼻腔を揚げ油のラードの香りが、そしてカツとご飯の熱気で程よく蒸されたキャベツがしっとりと、食感のリズムを軽やかに刻みます。
やがて福島の誇る白米がその両者を受け止めて、見た目とは裏腹にさわやかな主旋律を奏でればソースカツ丼オーケストラが始まり、食欲にまかせて4分33秒ほどの小曲はおいしく幕を閉じました。思わず無言になる旨さです。
使われているのは猪苗代の国産豚。赤身主体で脂身も控え目なため、ソースカツ丼とも好相性ですが、その厚みとは裏腹に柔らかくしっとりと味わえるのは、筋切りや肉を叩くなどしっかりと下処理された丁寧な仕事によるものであることは明白です。
ソースはトンカツソースの酸味を軽く飛ばしながら、独自にみりんや砂糖とバランスを整えるとのこと。まろやかでカツのサクッとしたテクスチャーも残しているバランスが心憎く相性抜群です。
以前、猪苗代にはスキーで訪れたことがあるのですが、ソースカツ丼は全くのノーマークだったことを後悔しました。
まるいち食堂
福島県耶麻郡猪苗代町字町尻342
営業時間:11時~17時30分
定休日:不定休
昨日、車掌さんのアナウンスとともに列車内から一瞬だけ楽しんだ「観音寺川の桜並木」へ。猪苗代駅の隣駅・川桁駅から徒歩約1分の好アクセスの桜の名所です。
川沿い1kmほど続く桜並木は、まだ五分咲きといったところですが、雪解けの水を伴って豊かに流れる川、緑を添える草木にスイセンが差し込む黄色、それらを包み込むように咲き誇る桜はやはり美しい。まごうことなき春の情景です。
川のサイズも比較的コンパクトなこともあり、途中にかかる橋の真ん中から撮影すれば、桜の木々の間から水が流れ出てくるような絶景です。
時折通り過ぎる列車も桜の隙間をすり抜けていくようで、こちらも絵になります。
毎年桜の時期になると開催される、18時半~21時までのライトアップも見逃せません。LEDの7色の光がソメイヨシノを照らします。
桜前線を追いかけた旅もこちらで終了。帰りは郡山から東京まで、少しうとうとと桜の思い出に浸りながら幸せな気持ちで新幹線に揺られました。
掲載情報は2025年6月23日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR郡山駅→JR会津若松駅→JR喜多方駅→日中線しだれ桜並木→Cocco tree(コッコツリー)→JR喜多方駅(宿)
【2日目】JR喜多方駅→JR猪苗代駅→亀ヶ城公園→まるいち食堂→JR猪苗代駅→JR川桁駅→観音寺川の桜並木→JR郡山駅→JR東京駅