恐山の大祭でイタコに母を口寄せしてもらう
恐山という場所がある。青森県の下北半島の中心部に位置する外輪山で、霊場として知られている。ここに菩提寺という寺院があり、古くからあの世の死者への供養の場所とされてきた。毎年夏と秋には恐山大祭も行われる。
この「恐山大祭」に死者を口寄せする巫女で霊能力のある「イタコ」がテントを作り、多くの人が列をなす。ぜひ私も死者と交信するイタコに会ってみたい。そして、母を口寄せしてもらいたいと思う。
【目次】
あの世への入り口、恐山への道
聞いたことはあるけれど、知ってはいるけれど、行ったことのない場所というものは多々存在する。そのひとつが「恐山」なのではないだろうか。青森県の下北半島の山の中にある霊場だ。イタコと言われて思い浮かべる場所でもある。
恐山では毎年夏(7月20~24日)と秋(10月上旬の3連休)に「恐山大祭」が行われる。期間中は「大施餓鬼法要」や「大般若祈祷」が催され、イタコがテントを張り、口寄せを行う。そこには長い列ができ、数時間、場合によっては10時間以上待つ必要があるそうだ。
イタコと言われると恐山を思い浮かべるが、恐山大祭の時以外はイタコは恐山にはいない。個人で口寄せを頼むこともできるけれど、一番手軽で確実なのが、この恐山大祭ということになり、長蛇の列ができるのだ。
はい、いま私は「手軽に」と言いました。ある意味では正解であり、ある意味では間違いでもある。東京から恐山へは6時間ほどかかるのだ。新幹線に乗り、鈍行列車に乗り、バスに乗り、ようやくたどり着く。日帰りでは難しいかもしれない。手軽ではないのだ。
今回は、一泊二日でこの恐山大祭へ行くことにした。口寄せをしてもらうためだ。“口寄せ”と先ほどから書いているけれど、一番わかりやすいのは、死者を自分(イタコ)の体に乗り移らせる降霊術だ。その先は知らない。会話をするのだろうか? それを知る意味でも、私は恐山に向かっているのである。
青森・むつ市内JR+宿泊 ホテルフォルクローロ大湊
1泊2日/東京駅⇒大湊駅・下北駅⇒東京駅
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死者のいる恐山にレッツゴー
大湊駅は、てっぺんの終着駅である。これ以上先はないのだ。地図的にはひとつ前の駅「下北駅」が本州最北端の駅になるけれど、どちらにしろ、遠くまで来たものだ、と思う。駅前のホテルで明日の恐山に向けて休む。6時間も移動し続けたのだ。徒歩で向かっていた昔に比べれば、早くて楽だけれど。
下北駅から恐山へ向かうバスもあるのだけれど、私はレンタカーを選んだ。恐山という場所を、自分の運転で走ってみたかったのだ。今もっともらしいことを言ったけれど、トイレが近いので、バスよりもいつでもトイレに行けるレンタカーを選んだだけだ。
私が恐山に行ったのは7月21日、大祭2日目ということで、人が少なかった。事前情報では、朝の山手線くらいに人がいるとのことだったので驚いた。ただ、イタコの口寄せには人が列をなしているだろうと思う。
入山料500円を払い、境内へ入る。するとすぐに「イタコマチ」と呼ばれる、イタコがいるテントがあった。3つしかテントはなく、人もまばらだ。最近はイタコの数も減っていて、テントの数も減っているようだ。
大祭の3日目と最終日は、すごい列ができるそうだ。今回は2日目なので、人が少なかったようだ。ラッキーだ。恐山にご利益があるとすれば、すでにご利益があったといえる。一番手前のテントに足を踏み込んだ。
あの世にいる母を降ろす
イタコのいるテントの中に入った。朝から30度を超える日で、当然テントの中も暑かったけれど、小さな扇風機がイタコをめがけて回っている。70代くらいの女性が正座をしており、周りにはお菓子やペットボトルのお茶が置かれ、手には普通の数珠の10倍くらいはありそうな大きさの数珠が握られている
誰を降ろしますか? と聞かれ、「母」と答えた。亡くなった日は? と聞かれたので、「8月2日です」と即答した。私の二十歳の誕生日の前日に死んだので、よく覚えているのだ。それを聞くと、イタコは数珠を手洗いの洗濯物のように揉みながら、何かを唱え始めた。だんだんと暑さが気にならなくなってくる。
その呪文は、何を言っているのかわからなかった。私に、そのような心得がなさすぎるからだろう。しばらくすると呪文が終わり、イタコはなにかを話し始めた。死者である母が降りてきたのだろう。先ほどの呪文とは明らかに異なるからだ。ただ問題があった。
めちゃくちゃ訛っているのだ。津軽訛りと言えばいいのだろうか。よくわかんないのだ。イタコと会話をするわけではない。イタコは母を降ろすと一方的に話し続ける。5分ほどだろうか。ずっと話しているのだ。ただわかんないのだ、津軽弁が。
母は福岡生まれなので、津軽弁ではない。ただ津軽訛りが激しい。どうやら「体に気をつけろ」と言ってくれている。これは私の解釈だけれど、イタコは母と会話をして、それを私に伝えてくれているのだと思う。
津軽弁じゃん! とツッコむような雰囲気ではない。母が津軽弁を話していることに、不自然さはないのだ。ホッとする感じがある。ただわかんないのだ、津軽弁が。しばらくするとまたイタコは呪文を唱えだして、イタコ体験は終わった。
4000円を支払った。どのイタコも4000円で統一されている。一人降ろすのに4000円なので、2人降ろせば8000円ということになる。また、お釣りはないそうだ。1000円札を準備しておかねばならないだろう。終わると、暑さが戻ってきた気がした。
あの世への途中にある賽(さい)の河原を歩く
口寄せが終わると、恐山を歩いた。温泉が湧いているので、硫黄の匂いがする。境内に温泉もあり、入山料に、その温泉代も含まれている。また菩提寺の周りには石が積まれ、そこには風車が回っている。イメージする、あの世の風景だ。
この石が積まれた中を歩くと、間違いなく感じることがある。特に太陽光が全力で注がれる日にはだ。そう、「まぶしい!」である。地面が白いので照り返しがすごくて、目を開けていられない。サングラスがあると便利だと思う。
そんな場所を歩くと、宇曽利湖(うそりこ)に着く。噴火で形成されたカルデラ湖で、温泉が湧き出ていることからもわかるように、強い酸性の水で満たされた湖だ。魚はいないのかな? と思ったけれど、ウグイが一種類だけ生息しているそうだ。
菩提寺からグルッと回ることができるので、賽の河原や血の池地獄、宇曽利湖などを、順路に従うと、効率よく見ることができる。確かに、普段生活している場所とは違う感じがする。コンビニがないし、とかではなく、別世界という感じなのだ。一度は来るべき場所だ。
通訳を連れて
午後1時に恐山を後にし、帰りも6時間かけて恐山から東京まで戻ってきた。
イタコによる口寄せは初体験だった。津軽弁は予想外で、今度行くときは津軽弁のわかる人を連れて行きたいと思う。もちろん、通じなくても成立はしているのだ。それでなんの問題もない。ただ今思うと母が何を言っていたか知りたくなってきたので、青森に友達を作ろうと思います。
この記事の内容は2019年3月29日時点の情報です。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR八戸駅→JR大湊駅
【2日目】JR下北駅→恐山→JR下北駅→JR八戸駅→JR東京駅
青森・むつ市内JR+宿泊 ホテルフォルクローロ大湊
1泊2日/東京駅⇒大湊駅・下北駅⇒東京駅
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