今回の列車旅ポイント
約15,000年前に始まり、約2,400年前には終わった「縄文」という時代があった。1万年以上もの長期間に渡って人々は採集や狩猟を行いながら定住し、日本独自の文化を築いていたのだ。その様子は今、遺跡を通して知ることができる。
それをぜひ見たい。私は写真や動画を撮ったり、このような記事を書いたりしているのだけれど、そんなの関係なく顔が縄文なのだ。縄文顔。だから見たいのだ。そしてせっかく見るなら世界遺産がいい。ということで、青森に行こうと思う。
2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコの世界遺産に登録された。この縄文遺跡群は、北海道・青森・岩手・秋田に点在する17遺跡から構成されている。そのなかでも、まずは大きいものに行こうと、縄文顔の私は「三内丸山遺跡」を目指すことにした。つまり青森だ。
JR東京駅から東北新幹線「はやぶさ」に乗って約3時間、JR新青森駅に到着する。新幹線の移動は楽しい。車窓が、今回でいえば、東京から青森までの街の変化がグラデーションのようにわかる。そこが飛行機やどこでもドアとの違いだ。
そんなポエミーなことを書いている間に、新青森駅に到着した。だって3時間なのだ。あっという間。
新青森駅からは、この周辺の主な観光施設を結ぶ、あおもりシャトルdeルートバス「ねぶたん号」に乗って「特別史跡 三内丸山遺跡」を目指す。15分ほどなのでやっぱりあっという間だ。
三内丸山遺跡は、江戸時代からその存在を知られる日本を代表する縄文時代の遺跡だ。縄文時代前期から中期にかけての約1,700年間、ここで生活が営まれていたという。42ヘクタールと、縄文時代の遺跡としてはかなり大きな規模になる。
三内丸山遺跡へは、「縄文時遊館」から入ることができる。縄文時遊館は発掘されたものが並ぶミュージアムや飲食店などがある施設だ。そして、この縄文時遊館はボランティアガイドを希望する者の集合場所でもある。
我々は令和に生きているので縄文時代のことなんてわからない。だったら、知っている人、つまりボランティアガイドさんに教えてもらえばいいのだ。三内丸山遺跡では、予約せず、集合時間に集合場所に行くだけで、無料でガイド(※)してもらえる。
※編集部注:三内丸山遺跡のボランティアガイドについて、詳しくはホームページをご確認ください
ガイド時間は50分ほど。三内丸山遺跡を一緒に巡りながら説明してくれるので、友達とか親戚とかに自慢げに説明できるほどの知識は得られる。知識を得ながら見る三内丸山遺跡は、いろいろと納得できるので、より面白く感じる。
当時の人々は、ウサギやムササビを食べていた。もちろん海が近いので魚介類も食べたし、木の実も食べただろう。
黒曜石が先についた槍で獲物を捕まえていた。その黒曜石は北海道のもので、黒曜石と木の接着にはアスファルトが利用されている。そのアスファルトは日本海側のもの。当時、いろいろな地域間で交流があったことがわかる。
「大型掘立柱建物」は驚きしかない。復元されたものだけれど、当時もこのような感じだったという。高さは15メートルほどあり、クリの木でつくられている。当時は重機なんてないのにつくっちゃうのだからすごい。縄文時代のすごさをわかりやすく感じるものの1つだ。
いま、如何にも自分の知識のように書いたけれど、全部ガイドさんから説明を受けたものだ。自分は詳しいんですよ、と後で誰かに話せるというのも旅の楽しみの1つだと思う。実際は、歩いているだけで楽しいけどね。縄文ロマンが溢れているから。
縄文時遊館に戻り、施設内にある「れすとらん五千年の星」で食事をする。縄文人が食べていた食材がメニューに取り入れられているのだ。ということで、栗・どんぐり・長芋が練り込まれた縄文うどん、「厚み野菜かき揚げの縄文うどん」を注文した。
食べてみるとこれが非常に美味しい。食感もいい。当時の人々はおそらく、うどんは食べていなかったけれど、ガイドさんもまだわかっていないこともたくさんあるといっていたから。もしかすると、縄文時代にもうどん職人がいて食べていたかもしれない。そう思いながら食べると美味しさがさらに増した気がする。
三内丸山遺跡を後にして、10分ほど歩き「青森県立美術館」に行く。奈良美智の《あおもり犬》などが有名な美術館だ。ただ、今回のポイントは展示物ではなくて、この美術館そのもの。
この建築は、三内丸山遺跡の発掘現場から着想を得て設計されているのだ。発掘現場のように幾何学的に切り込まれ、その上から白い煉瓦が覆い被さっている。展示物はアートだし、建物もアートなのだ。三内丸山遺跡を見すぎて、時間がなかったから、今回は中を見ることができなかったけれど。また来ようと思う。
再び「ねぶたん号」に乗り青森駅へ。青森駅からは、「青い森鉄道」で浅虫温泉駅へと向かった。乗り継ぎなどがうまく行けば、青森県立美術館から浅虫温泉駅までは1時間ほどだろうか。やはり旅に温泉は欠かせない。浅虫温泉は、古くは青森の奥座敷とも呼ばれた、夏泊半島にある温泉地だ。
浅虫温泉駅から3分ほど歩いて、「南部屋・海扇閣」に到着した。本日のお宿だ。部屋からは陸奥湾を望める。平安時代に慈覚大師が発見したという温泉を楽しむこともできる。心地よい雰囲気があるお宿だ。
オーシャンビュー欲と温泉欲を私は人生において大切にしているので、日が暮れる前にお宿に着きたかった。そして、その欲に従った私は正しかった。心からの喜び。精神的にも物理的にも癒やされた。いまこの原稿を書きながら、また泊まりたいと強く思っています。
食欲だって完璧に満たしてくれる。晩御飯も最高なのだ。席には「鮪の炙り県産大蒜ソース添え」などが用意されており、他はビュッフェで好きなものを食べることができる。
ビュッフェには、注文してから焼いてくれる青森県産のサーロインステーキ、注文してから揚げてくれる天ぷら、注文してから握ってくれるお寿司、青森といえばのホタテなど、挙げればキリがないほど魅力的なものが並ぶ。どれを食べるか悩む。いや、悩まなくていいのだ、全部食べればいいのだ。
三内丸山遺跡を堪能し、お宿で海を見て、温泉に入り、宝石のような食事を食べる。これ以上何を求めればいいの、という感じ。幸せは青森にあり、といいたい。
怖いのは、幸せがこれで終わらないことだ。青森といえば、そう「津軽三味線」ですね。こちらのお宿では毎日20時45分から30分間、津軽三味線の生演奏があるのだ。そんなのね、聴きたいに決まっている。もちろん聴きに行った。
私は三味線に詳しくないのだけれど、奏でられる音が知識なんて必要ないことを物語っている。迫力があるのだ。この日、演奏していた方は津軽三味線の大会で優勝したこともある方だった。音が心臓に響く。いや、心の臓に響くのだ。
津軽三味線の後は温泉に再び入り眠り、朝起きて温泉に入り、朝食を食べ、温泉に入り、お宿を後にした。本日は「ねぶたの家ワ・ラッセ」で、ねぶた祭を楽しみたいと思う。
青い森鉄道で、浅虫温泉駅から青森駅を目指す。25分ほどで到着するので遠くない。青い森というネーミングが素敵だ。緑でもない、赤でもない、青なのだ。それは幻想的な森を想像させる。
青森駅から徒歩1分ほどにある、ねぶたの家ワ・ラッセ。毎年8月上旬に行われる「ねぶた祭」を1年通して楽しめる施設だ。とても特徴的な外観をしている。メゾンエルメス銀座本店などの設計に携わったオランダ出身の建築家、フランク・ラ・リヴィエレの設計で、青森周辺のブナの原生林を連想させるデザインになっているそうだ。
ねぶた祭で運行された「ねぶた」が展示されている。館内は薄暗く、ねぶたの輝きが美しい。近くで見るねぶたは実に精巧で、ねぶたの中も見ることができるので、その仕組みについて知ることもできる。骨組みだらけだが、それもまた美しい。
1日3回「ねぶた囃子演奏・ハネト体験」が行われる。ハネトとは、ねぶた祭の際に「ラッセラー」の掛け声と共に跳ねて踊る人のこと。生演奏でその体験ができるのだ。太鼓は大きく、その音はやっぱり心臓に、いや、心の臓に響く。
写真はどうしたってブレる。踊っている私がカメラを持っているからだ。基本的には跳ねればいいのだ。本当のねぶた祭ではハネトの衣装さえ着ていれば誰でも参加できる(※)。その衣装はレンタルもあるし、売ってもいる。いつか参加したいと跳ねながら思った。結構な運動になる。
※編集部注:感染症対策のため参加方法が変更となる場合があります。詳しくは青森ねぶた祭のホームページをご確認ください
ねぶたの家ワ・ラッセを後にして、再び青森駅から青い森鉄道に乗り、八戸駅を目指す。1時間半ほどの列車旅だ。これがなかなかに素敵で、急いでない移動という感じ。海沿いを走り、やがて山の中を走っていく。海あり、山ありの青森を堪能できる。
車内から見ると、列車の窓に影のようなものがあり、「これはなんだろう」とずっと不思議で、駅に着いてから見てみると、青い森鉄道のイメージキャラクター「モーリー」だった。芯の通った性格だそうだ。
この日は八戸駅周辺に泊まり、明日はまた世界遺産を楽しもうと思う。
北海道・北東北の縄文遺跡群には先の三内丸山遺跡だけではなく、八戸にある是川石器時代遺跡も含まれている。この遺跡から発掘されたものが展示されているのが「八戸市埋蔵文化財センター 是川縄文館」だ。見ようではないか。
是川縄文館へは八戸駅からバスを乗り継ぎ1時間ほどで到着する。土日祝日は直行のバスも出ている。バスでの移動も楽しい。自分で運転しなくていいので窓の外の流れる景色をゆっくりと堪能できる。街並みには地域差があって楽しいのだ。コンビニの入り口が二重とかね。
是川石器時代遺跡は、縄文時代晩期の「中居」、縄文時代前期中期の「一王寺」、縄文時代中期の「堀田」の3つの遺跡の総称となる。昭和32年に国の史跡に指定され、2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」として世界遺産に登録されたわけだ。
漆を使った土器や櫛、弓などが展示されていた。これがとても美しい。漆工芸は、採取・精製・塗装・乾燥の一連の工程が複雑で、当時の人々が高い技術を持っていたことを示している。また、これらが多く出土していることから、漆工芸は当時の流行りだったのだ、きっと。
こちらの施設には国宝になっている土偶もある。1989年に発掘され、2009年に国宝に指定された風張1遺跡出土の「合掌土偶」だ。体育座りをしており、膝に肘を置き、正面に向かい手を合わせている。高さ約19センチ、幅約14センチ。当時は赤く彩色されていたと考えられている。
言葉を飲むといえばいいのだろうか、失うといえばいいのだろうか、ただただ見つめてしまう。喧嘩しているカップルだってもう少し話すと思うけれど、言葉を発することができない雰囲気をまとっている。至極控えめにいって感動する土偶だ。体育座りして手を合わせているだけなのに。
両足の付け根と膝、腕の部分が割れていて、そこにアスファルトが認められるそうだ。この遺跡に住んでいた人々が別の集落との交流があったということ。私が東京から青森に来たように、当時の人たちもどこかへと旅に出ていたのだ。なんだかまたポエミーなことを書いてしまった。青森は人をポエミーにするのだ、きっと。
是川縄文館からバスを乗り継ぎ1時間ほどで「八食センター」に到着する。ここで昼食を食べたいと思う。八食センターは、1980年に開業した食品市場。
基本的には魚介類がメインだ。しかし、なんでもあるといっていいかもしれない。乾物はあるし、パンもあるし、お茶もあるし、お酒もあるし、おもちゃもあった。もちろん飲食店もある。約60店舗もあるのだ。
施設内には、生の魚やエビや貝などを買って七厘で焼いてすぐに食べることができるお店や、のっけ丼のお店もある。海鮮を自由に白米の上に乗せる最高のやつ。
今回、私は海鮮丼を食べることにした。七厘ものっけ丼も魅力的だったけれど、私に海鮮を選ぶ才能がある気がしなかったから。それ選ぶ? みたいな残念なビジュアルは避けたい。写真を撮るから映えたいのだ。
ホタテ・いくら・ぼたん海老・鮪・ズワイガニ・サーモン・白身魚と、豪華。高さがあるもの、器の高さに収まりきれない高さが。食べる前から「美味しい!」といってしまった。食べたらやっぱり「美味しい!」といってしまう。幸せだ。
八食センターへはバスでのアクセスもよくて、八戸駅から八食センターへは「八食100円バス」が走っている。時間も15分ほどで着いてしまう。便利で安い幸せが青森にあるのだ。便利で安い幸せっていうとマイナスにも感じるけれど、これは完全にプラスのやつ。プラスでしかないやつだ。
世界遺産を堪能し、建築物を楽しみ、温泉と食事で癒やされ、踊りや音楽で脳を活性化させる。そんな旅だった。縄文時代のロマンがいい。どんな道を歩いていても、あるいは走っていてもここを縄文人も歩いたんだな、と思うとゾクゾクするのだ。そんなゾクゾクを感じながら私はJR八戸駅から東京へと戻った。ありがとう、青森。また来ます。
掲載情報は2022年11月9日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR新青森駅→特別史跡 三内丸山遺跡/縄文時遊館/れすとらん五千年の星→青森県立美術館→青森駅→浅虫温泉駅→南部屋・海扇閣
【2日目】南部屋・海扇閣→浅虫温泉駅→青森駅→ねぶたの家ワ・ラッセ→八戸駅(ホテル)
【3日目】八戸駅→八戸市埋蔵文化財センター 是川縄文館→八食センター→JR八戸駅→JR東京駅
1泊3日/東京駅⇒新青森駅・八戸駅⇒東京駅/夕朝食付き
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