ども。老舗のITライター荻窪圭です。今や歴史散歩のガイドをしたり、カメラの記事を書いたりと本職が何だったのかわからなくなってるのだけれど、いろんなところへ写真を撮りにいくうちに、列車旅が好きになって今やここにいるという感じ。
で、群馬である。群馬といえば温泉。水上温泉、草津温泉、万座温泉、さらに伊香保温泉や四万温泉と名湯が目白押しなのだ。
そこからセレクトされたのがJR吾妻線で行ける四万温泉と、奥にある川原湯温泉。目指すは、ローカル線と温泉と紅葉の旅である。
そんな欲張りな旅は成功するのか、というわけで本文をどうぞ。
【行程】
JR吾妻線の吾妻は「あがつま」と読む。こう書いて「あづま」と呼ぶ地名もあるが、ここでは「あがつま」。日本書紀に出てくる日本武尊の逸話が語源で、「我が妻」という意味だ。
JR吾妻線は高崎駅から北上してJR渋川駅で上越線と分かれ、吾妻川に沿ってどんどん山の方へ向かう。
東京駅から高崎駅まで上越新幹線で約1時間、高崎駅から中之条駅へはJR吾妻線で約50分で到着。
車窓を眺めていると徐々に風景が街から田園へ、そして山が近くなる。車窓の変化を楽しみながら進むべし。
でも残念ながら、車窓からの紅葉にはまだ早かった。あとで地元の人に尋ねてみたところ、例年より1週間ほど遅いのだという。
(例年は10月下旬から11月上旬が見頃)
ちなみに紅葉の時期には、このような景色が見られるのだとか。
四万温泉へは中之条駅から「四万温泉」行きの路線バスで約40分。
四万温泉は「しまおんせん」と読む。平安時代に「四万の病を治す霊泉」という神託を得て名づけられたくらい古い温泉なのだ。
歩きながら見つけた、おすすめスポットを紹介しよう。
まず四万温泉行きバスの終点あたりの、ひなびた温泉街。そば店や喫茶店、スマートボール(昭和の温泉街には必ずあったよね)、土産物店。そんな小さな店が、旅館やホテルに挟まれた路地沿いに並んでいる。レトロ好きにはたまらない。
続いて、色づきはじめた景色を楽しみつつ、渓谷沿いの街道を上る。
温泉街から徒歩18分ほどで現れる「小泉の滝」。滝のそばまで行かなくていい。道路からはみ出た休憩所から、滝がきれいに見えるのだ。
耳にはごうごうと落ちる水音や鳥のさえずりが聞こえ、紅葉した葉の隙間から白く流れ落ちる見事な滝が見える。必見。
さらに上ること5分で、丁字路へ差しかかる。右へ折れると四万川ダムの下に出る。1999年に竣工した新しいダムだ。
このダム湖の水はコバルトブルーで非常に美しいというので、ひぃひぃ言いながら上がってみると、これまた眺望が素晴らしい。
ふぁーっと広がった青空と青い湖面の間に、色づき始めた山々が挟まれているのだ。大自然と文明の融合が織り成す21世紀の名勝かも。
四万温泉を歩いていて驚いたのは、「飲泉所」がいくつかあること。
宿泊する「鍾寿館」へチェックインすると、ロビーにも「飲泉湯」が用意されている。宿の主人に尋ねると、四万温泉は少しの塩分を含み、硫黄は含まれていないため、飲みやすいのだという。確かに、ロビーを通るたびに飲んじゃうくらい美味しい。わずかな塩気が、よい味を出している。
四万温泉は昔から「飲めば胃腸によく、入れば肌によい」と言われてきたそうなので、訪れたら飲まなきゃ損である。
「鍾寿館」は明治40年創業の温泉旅館。明治になって交通網が発達し、湯治客が増えたのを機に温泉宿を開業したのが始まりだそうな。
ここの温泉はすごい。旅館の地下から湧く温泉を源泉としているのだ。源泉の上にある旅館である。だからロビーにある「飲泉湯」も、混じり気なしの源泉そのもの。
館内には家族風呂(古式風呂)や歩いて数分の外湯も含めていくつもの浴場があるのだが、必ず入っておくべきは、地下にある露天風呂「源乃湯」。
源泉に一番近い風呂!
床下から自然湧出する源泉の湯温は60度。源泉に近いため、入浴には熱い。そこで高いところから湯を落とし、冷ますと同時に湯をかき混ぜているのも面白い(写真は、許可をもらって撮っています)。
地下の露天風呂。60度の源泉がそのまま高いところから落ちてくる、斬新な掛け流し。「源乃湯」は混浴だが、16時から18時は女性専用となっているので、そこはご安心を。
夕食は、イワナの塩焼きや刺身こんにゃく、目の前で炊く釜飯など、群馬の名物を中心に美味しくいただきました。
2日目は中之条駅行きのバスに乗り約40分、中之条駅へ戻り、JR吾妻線でもうちょっと奥へ。目指すは群馬が誇る名勝、「吾妻渓谷」だ。
吾妻渓谷は、中之条駅から4つ目の岩島駅と、5つ目の川原湯温泉駅の間にある。吾妻川を挟む山と山がすごく近づいていて、深くて狭い渓谷を作っているのである。その渓谷が絶景で、国指定名勝「吾妻峡」として有名だ。特に紅葉の時期が素晴らしいのだとか。
かつては車窓から渓谷を眺められたのだが、八ッ場(やんば)ダム建設によって吾妻線がトンネルを通るルートに変更され見えなくなったので、歩いて散策。
小さな無人駅の岩島駅までは15分、駅を下りたら、タクシーで「道の駅あがつま峡」へ(約10分)。
「道の駅あがつま峡」では、実証実験中の電動アシスト自転車をレンタルした。電動アシスト自転車なら風景を見ながら渓谷沿いを走れるし、景色が良さそうと思ったらさっと止められてよいのだ。(2018年のレンタル期間は11月11日で終了。2019年以降の実施は予定していないとのこと。)
自転車で15分ほど行ったところにある、吾妻峡橋から見た渓谷。まだ色づき始めたばかりだけど、絶景である。
猿橋や鹿飛橋(しかとびばし)では自転車を止め、橋の上から眺めを楽しむべし。特に「鹿飛橋」から見る渓谷は絶景。水が青いのもまた幻想的でよいのだ。このあたり「八丁暗がり」と呼ばれている。1丁は約109mなので、八丁は900m弱。それだけ長い距離、狭い渓谷が続いているということ。
だがしかし、前述した通り、今年の紅葉はちょっと遅れている様子。紅葉はこれがあるので難しいですな。
散策で汗をかいた後は、「道の駅あがつま峡」まで戻りタクシーを呼び、うどんを食べにいく。「道の駅あがつま峡」から、10分弱の場所に、「うどん専科 麦の香り」があるのだ。
ここ、行ってみてびっくり。
お店のすぐ裏に「やんば見放台」という展望台が作られていて、そこに上ると、建設中のダムと紅葉を一望できるのである。
ダムが完成して(2019年度完成予定)水がたたえられたら、新たな名勝になること間違いなし。吾妻渓谷とセットで訪れたい場所だ。
「うどん専科 麦の香り」は、八ッ場ダム建設に伴って開業したお店。
店名はインターネットで募集して決めたという、ユニークな店主・中島安さんによると、この地を得て好きなことをやろうと始めた結果、大成功。平日昼間でも行列ができていたほどだ。
いただいたのは「肉汁たらいうどん」。温かい肉汁にうどんをつけていただく。これに天ぷらがつく。
もっちりして清涼感のあるうどんや肉汁もうまかったが、感動したのは「自家製こんにゃく」。
美味しいというか、食べるのが快感、とすら言える。訪れたらぜひこれもいただきたい。
美味しいうどんを食べたら、腹ごなしに「麦の香り」から川原湯温泉の「王湯」(おうゆ)へ20分弱歩く。
王湯も八ッ場ダム建設に伴い、旧温泉街から引っ越した(2014年)ため建物は真新しいが、温泉の歴史は古い。鎌倉幕府を開いた源頼朝が発見したというのだ。入湯料は500円と安く、露天風呂もあって景色を見ながら入れるので、疲れを癒やしてゆっくりしたい。
王湯を出たら、トンネルを抜けて真新しいJR川原湯温泉駅へ20分ほど歩き、吾妻線で帰宅の途へ。
行きと同じようにJR吾妻線で高崎駅まで戻り、上越新幹線で東京駅へ向かいました。
旅を振り返ってみたら、「JR吾妻線と紅葉」というよりは「温泉とダム」って感じになっていて申し訳ないけど、考えてみると「狭い渓谷+紅葉」で幽谷の美をめで、「広いダム+紅葉」で雄大な美に圧倒される、この両方を楽しめるって、実はすごいことなんじゃないかと思うのだ。
紅葉、幽谷と雄大な景色、そして温泉を一度に楽しんで来てくださいまし。
この記事の内容は2019年9月16日現在の情報です。
うどん専科 麦の香り
住所:群馬県吾妻郡長野原町川原畑994-11
営業時間:11:00~14:30頃
定休日:水曜日
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR高崎駅→JR中之条駅→四万温泉→四万川ダム→鍾寿館
【2日目】鍾寿館→JR岩島駅→道の駅あがつま峡→吾妻渓谷→八ッ場ダム→うどん専科 麦の香り→川原湯温泉 王湯→JR中之条駅→JR高崎駅→JR東京駅