女性誌や書籍で編集や執筆を行っているという仕事柄、女性に人気の旅スポットである那須は何度か訪れています。そのため、黒磯というと那須のオマケのように感じていたけれど、近頃はぐーっと注目が集まっているそう。友人たちからも黒磯のおいしいものの話を聞くことが増えてきて、これは気になる……。そこでさっそく、週末に黒磯へ。
【行程】
栃木県の黒磯は、東京からぎりぎり通勤圏内。JR東京駅から東北新幹線でJR那須塩原駅へ向かい、JR宇都宮線に乗り換えてひと駅。1時間半ほどで到着できる近さです。気軽に行けるのは魅力だけど、せっかくのひとり旅だから、旅気分を味わいたい! ということで、まずは東京駅の地下街で、パンとコーヒーを購入。
駅弁を食べるほどでもない乗車時間。だけど、ゆったりと車窓からの風景を眺めたり、パンをかじりながら本を読んだりできるのは、新幹線ならではの旅の楽しみです。
黒磯駅に到着したら、駅から徒歩で15分ほどの場所にある「1988 CAFE SHOZO」に。このカフェは元「オリーブ少女」(※)ならきっとみんな知っている、カフェ文化のパイオニアのような存在。コーヒー好きの間でも憧れている人は多く、「いつかは行かねば」とされる黒磯本店は聖地といっても過言ではないのです。
※編集部注:『オリーブ』は、1982-2003まで株式会社マガジンハウスより刊行されていたファッション系雑誌。同誌を愛読し、ライフスタイルやファッションにこだわる若い女性は「オリーブ少女」と形容された。
いざ店の前に立ってみると、なんとも素敵なたたずまい。全部がかわいくて、オリーブ少女の血が騒ぎます。主に1階は焼き菓子やコーヒー豆、雑貨などのショップで、カフェは2階。落ち着いた雰囲気で、心なしかお客さんも大人が多いような。
スタッフの対応も、メニューも、カフェのインテリアも、何ひとつ気負ったところがなく、あくまでさりげないのが素晴らしい。メニューにまでその空気感が表れていて、眺めながらクスッと笑ってしまう人も多いはず(ぜひ実際に見てみて)。訪れた人がこの空間の一部になって馴染んでしまうような、不思議な魅力がありました。多くの人が「理想のカフェ」と言うのも納得!
今日はメニューに載っていないいちごタルトがあると聞き、我慢できるわけがなく、スコーンとケーキのセットをオーダー。甘酸っぱいいちごに口どけのいい生クリーム、スポンジ生地、なめらかなカスタードクリーム、さくさくのタルト生地が層になった幸せな味! 濃いめのコーヒーと相性抜群で、あっという間に消えていきました。おいしいケーキって、もはや飲み物です。
「1988 CAFE SHOZO」の周りには、元スタッフであるSHOZO卒業生の人たちが開いたお店がいくつもあり、それぞれ個性が光りながらも、どこか似た雰囲気を持っています。シンプルな生活雑貨や、ナチュラルな洋服が好きな人たちは、ここでのショッピングツアーがきっと楽しいはず!
「1988 CAFE SHOZO」に隣接している系列店「04 STORE」は、洋服や雑貨のセレクトショップ。ディスプレイの隅々にまで行き渡ったSHOZOの世界観を堪能できます。
1泊だからと大きめのトートバッグひとつで身軽にやってきた私も、気づけば買ったもので両手がふさがっていました。これがあったら毎日が楽しいだろうな、と物欲が湧くお店が並んでいるので、仕方ないのです。
「ROOMS」では、北欧をはじめとしたヨーロッパやインド、日本の古い家具や道具を販売しています。年月を経たものの風合いを生かしながら、使いやすくメンテナンスされているので、デイリーに使いたくなるものばかり。私は、ニュアンスのある古いガラスの実験道具・シャーレを購入。調味料やアクセサリーを入れるつもりです。
同じ通りにある「Chus」は、良質の食材がそろったマルシェと、それを使った料理が楽しめる食堂、旅の拠点となる宿を兼ねた複合施設。こちらでは、話題のお菓子「バターのいとこ」を購入しました。しっとりしたワッフル生地に挟まれているのは、牛乳からバターを作る際に出る副産物のスキムミルクを活用したミルクジャム。今は生産数が追いついていないため、午前中に売り切れてしまうこともあるよう。
市街地からバスで少し足を延ばせば、日光国立公園。その中にある温泉旅館「幸乃湯温泉」が今日のお宿です。黒磯駅からは関東自動車バスで約30分、那須塩原駅から無料バス(要予約)で約30分。
敷地は3万坪という大きな旅館ですが、「幸多かれと人訪れてわが家のごとく暮らす宿」をモットーとしているだけあって、到着した瞬間からくつろいでしまう居心地の良さ。「ここに来ると安らげる」という常連客も多く、中にはなんと毎月4日間滞在するという95歳のおばあちゃんもいるとか。
パワースポット的な評判もあるようですが、注目すべきはなんといっても気持ちのいい露天風呂。「施設は古いですが、気持ちよく温泉に入っていただくために、清潔感を大切にしています」とオーナーの荻原正寿さん。お湯は無色透明で、泉質はナトリウム・カルシウム硫酸塩温泉(低張性アルカリ性高温泉)。きずの湯とも呼ばれ、きりきずややけどに効果的だそう。約41度とぬるめなので、長湯ができて、体の芯まで温まります。
連泊客が多いため、食事は毎日違うメニュー。女将自らが食材を仕入れ、献立を考えているそう。甘めの卵焼きやシンプルな酢の物といった、手作りならではの素朴な味わい。なんだか友達のお母さんが作ってくれた料理みたいでほっとします。昔ながらの酸っぱい梅干しも、女将の手作り。
旅館から黒磯駅まで戻るには再びバスに乗りますが、なにせ森の中なので本数が少ないのです。バスの待ち時間にまたお風呂に入るのもいいけれど、近くの木の俣川へ散策に。徒歩10分で川沿いの遊歩道にたどり着きます。森林浴をしながら透明感のある水の美しさを眺めていたら、なんだかパワーが湧いてきました。
さて、バスで市内へ戻ったら、ちょうどお昼どき。ランチは、駅の近くにあるレトロな建物のカフェに入りました。
「カフェ ド グランボワ」の店舗は、旧黒磯銀行本店として大正5年に建てられた重厚感のある建物。幾度かの大火をしのいで現存する貴重な建物で、国の登録有形文化財に指定されています。中のインテリアも期待を裏切らないクラシカルな雰囲気。
パスタやピザ、オムライスといった洋食が充実していますが、ランチの人気メニューは10食限定の和食、日替わり御膳。シフォンケーキやカボチャのプリンといったスイーツもあります。
ランチ後は、黒磯の街中を散策。古い建物も多く、昭和の懐かしさが漂います。というのも那須には御用邸があるため、歴史と治安が守られているのだとか。栃木の名産、大谷石(おおやいし)の風情ある石塀や石蔵も多く、ノスタルジックな看板を眺めながら散策するのが楽しい!
魅力的な個人店も多い黒磯。タイミングが合えば、アンティークショップの「吉田商店」などで買い物したり、その近くにある行列のできる小さなパン屋さんに並んだりするのも一案です。
最後まで食&物欲に執着する私は、駅前に戻って「KANEL BREAD」へ。ここのパンの噂を友人たちから聞いていたので、黒磯に行ったら食べたかったのです。店内にずらりと並んだラインアップは、バゲットやカンパーニュといったハード系も、クロワッサンやブリオッシュなどの甘い系もあって目移り必至。
その日の夕食のために田舎パンを、明日の朝食用に食パンを、友人へのお土産にミニドーナツをと選びつつ、買ったパンを隣の「Iris bread&coffee」に持ち込んでコーヒーブレイクを。「Iris bread&coffee」のパンメニューにはKANEL BREADのものが使われていて、自分で購入したKANEL BREADのパンも持ち込みで食べることができます。こんな素敵なパン屋さん、家の近くにあったら毎日通ってしまうだろうなあ。
おいしいコーヒーを飲みながら、あっという間だった1泊2日の旅を振り返っていると、いつの間にかじんわりと癒やされていることに気づきました。お店の人も旅館の人もみんなやさしくて心がほぐれたし、おいしいもので満たされたし、温泉で疲れもとれたし。
帰宅して荷ほどきをしたら、大量のパンに「1988 CAFE SHOZO」のスコーン、キッチン雑貨、源泉水で作られた幸乃湯温泉オリジナルの化粧水「ゆあがり素肌美人」、「Chus」で買った森林の牧場のヨーグルト、バターのいとこ、野菜……と、お土産がどっさり。買い出しか! と笑ってしまったけれど、そう、黒磯って買い出しに行けるくらいの距離感なのでした。
きっとまたすぐに行きます、黒磯。
掲載情報は2020年2月21日更新時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】東京駅→那須塩原駅 →黒磯駅→1988 CAFE SHOZO→04 STORE→ROOMS→Chus→幸乃湯温泉
【2日目】宿→木の俣川→カフェ ド グランボワ→KANEL BREAD→Iris bread&coffee→JR黒磯駅→那須塩原駅→東京駅