今回の列車旅ポイント
最近のわたし、ぜんぜん豊かに暮らせてない。
慌ただしい朝に、倒れ込んで眠りにつく夜……
東京での生活は楽しいけれど、ふと息ぐるしくなることもあります。
ひとり旅でもして、少し気持ちをリセットしてみたいな。
そこで、週末を使って「ゆったりせざるを得ない環境」に身を置いてみることにしました。
JR東京駅からほんの1時間。
静けさの中でゆっくりと温泉やアートに浸かる休日は、案外すぐに叶うみたいです。
息抜き旅だからこそ、頑張って早起きするなんてお門違い。
午前中はゆるゆると準備をして、12時過ぎに東京駅から東北新幹線に乗り込みます。
行き先は、栃木県那須塩原市にある板室(いたむろ)温泉。
東京駅から那須塩原駅まで約1時間10分という気軽な距離感は、おひとり向けショートトリップにピッタリです。
東京駅構内の「駅弁屋 祭」で買ってきたお弁当をもぐもぐしながら車窓を眺めているうちに、気づけば景色が緑深くなってきました。
那須塩原駅に到着!
外に出たらさっそく、「板室温泉」の文字が。さらに、事前に予約しておいた送迎用のタクシー(片道1,000円)がお出迎えしてくれました。
ここから30分ほど乗車して、目的の温泉宿へ向かいます。
到着したのは、保養とアートの宿「板室温泉 大黒屋」さん。
なんと、利用客の7割以上がリピーターという人気のお宿です。長期滞在してゆったりと休養する方も多いそう。
到着してすぐに目に入ったのは、入り口からお宿に向かって左手に広がる見事な庭園。
現代美術家の菅木志雄氏が手がけた空間は、一般的な日本庭園とはひと味違った美学を感じます。
茶道の文化を大事にしているようにも思える大黒屋さん。
実は茶道のお稽古を十数年続けているわたしとしては、ときめきが止まりません。
荷ほどきが済んだら、ほっとお抹茶でもいただきたい気分に。
栃木県名産の大谷石(おおやいし)で作られた大きな囲炉裏では、これまた大きな鉄瓶で、いつでもお湯が沸かされています。
そばに置いてある道具を使って、自由にお茶をいただいていいんですって。
この庭園喫茶「水琴亭」では、注文すれば和菓子などの甘味もいただけるとのこと。
せっかくなので、お抹茶と和菓子のセット(税込864円)を。
大変結構でした。
ひと息ついたところで、今度は館内を散策します。
フロントのすぐ横に広がるサロンは、終日利用可能。ソファに座ってゆったりのんびりしながら、ここでもコーヒーやお茶、甘味を注文(有料)できます。
そして、気になる客室はこちら。
ここで忘れてはいけないのが、肝心の温泉ですよね。
大黒屋さんには、時間をかけて味わいたい4種類の温泉施設があります。
陽ざしにパワーをもらえそうな「たいようの湯」。
川のせせらぎが心地よい露天の湯。
やわらかな木の香りに癒やされる「ひのきの湯」。
黄土浴でじんわり身体をあたためる「アタラクシア」。
スタッフの方に伺ったところ、お宿に到着したらひとまず温泉に浸かって夕食を待つのも、乙な楽しみ方だそう。
ということなので……
明るいうちから、ひとっ風呂浴びてまいりました。
源泉かけ流しの温泉で、身も心もほっかほかです。幸せだなぁ。
でもでも、夕食まではまだたっぷりと時間があります。
東京じゃこんなにゆったり過ごせることなかなかないかも……。夢みたいな時間です。幸せすぎてにやにやが止まりません。
なんといっても大黒屋さんは「保養とアートの宿」。
芸術家の育成にも尽力する当代の大黒屋16代目・室井俊二代表の想いのもと、広い敷地内のあちこちにアートや展示室があります。
企画展も常に行われているので、訪れるたびに新しい作品に出逢えるのも魅力です。
取材時は、伝統工芸である和紙が展示販売されていました。
そして、屋外には日本の文化に触れられるこんな場所も。
庭園の片隅に佇む四阿(あずまや)「投吟亭」。
ここではなんと、「色紙に一句お詠みください。」との案内が……!
せっかくなので。
はい、ととのいました。
「せせらぎに 日々遠ざかる 大黒屋」
そうこうしているうちに、お腹が空いてきました。
お部屋に運ばれてきた夕食を見るなり、「わぁーい!」と思わず歓喜。
地産地消を大事にし、季節の食材を使った料理は、健康にも配慮されたバランスのとれたメニューです。
ちなみに、「早めに夕食を済ませて、あとは自由に過ごしてほしい」という心配りから、大黒屋さんの夕食時間は18時台とちょっぴり早め。
たしかに、長い夜をじっくり自由に過ごすのにはぴったりな環境ですもんね。
ということで、今夜はスマホもPCもお片付け。ひとりで過ごす静かな夜を満喫しようと思います。
美術書や小説なども豊富な図書室。自室への持ち出しも自由です。
自室にこもってしっぽりお酒を飲みながら読書するもよし。お風呂にゆっくり入りなおすもよし、夕涼みをしながら星空を眺めるのもよし。
なにを選んでも贅沢な夜だなぁ……。
これはたしかに、リピート率が高いのも納得です。
目覚めてすぐ、窓越しに飛び込んでくる緑の借景に、思わず「おはよう」とひとこと。
ぐっすり眠れたせいか、いつもよりちょっぴり早起きできました。
今日は活動的に過ごす予定なので、まずはしっかり朝ごはん。
お腹が満たされたら、大黒屋さんのアートの大本命ともいえる「倉庫美術館」へ。
宿泊施設から歩いて5分ほどの場所まで案内してもらいます。
足を一歩踏み入れると、アート作品がずらり壁一面に。
案内付きで約1時間、毎日10時からの1回しか入ることのできない倉庫美術館には、現代アートの巨匠・菅木志雄氏の作品が保管されています。(要予約)
大黒屋16代目の室井代表は、30年以上前に菅木志雄氏の才能に惚れ込み、毎年「菅木志雄新作展」を開催するなどして、世界的な作家へと後押しをされたお方です。
菅氏の作品がこの地でじっくり味わえるのは、そうした縁があったからこそなのです。今では海外からも、作品を見るために泊まりに来るお客さんがいらっしゃるとのこと。
作品に宿る魂に圧倒されて部屋に戻ってきたら、チェックアウトの時間ももうすぐ。
最後に、思い出の品を求めてショップに立ち寄るのもおすすめです。
リピーターさんが多い宿だからこそ、よくあるお土産のお菓子よりも、自分へのプレゼントになるような工芸品などを中心に取り揃えているそう。
温泉もアートも満喫したところで、大黒屋さんを後にします。
絶対にまた来る……!
送迎タクシーで再び那須塩原駅に戻りました。今日は、ここから関東バスで約40分、那須郡那須町にある美術館へ。
バス停「一軒茶屋」で降り、緑のトンネルのような林の道を15分ほどお散歩していくと……?
ここは、影絵作家として現役で活躍する、1924年生まれの藤城清治(ふじしろせいじ)さんの作品を展示している美術館です。
入り口に到着するまでの200mほどの道のりも、癒やしの森。
まずは、館内にあるカフェでランチをすることにしました。
藤城先生の好きな味付けにしてあるというミートローフサンドは、どこか懐かしいお味。
作品の世界観にもぴったりな、かわいらしい盛り付けで提供してくれます。
ここには、藤城先生の影絵やデッサン、貴重な資料を含め約200点が常設展示されています。
展示室内には、藤城先生の遊び心が反映された仕掛けがたくさん。
水たまりのようなプロジェクションマッピングや回転舞台などもあり、他の来館者さんたちも童心にかえって楽しんでいました。
庭に広がる森の中には、藤城先生がデザインしたステンドグラスのあるチャペルも。
贅沢なこの2日間のことを振り返りながら、ステンドグラスを眺めました。
関東バスで約50分。来た道を戻り、再び那須塩原駅へ。
ここから東北新幹線の東京行きに乗り込みます。
缶ビールを片手に、夢のようだったアートと温泉の旅に乾杯しました。
車窓の風景がだんだん都会になってゆく……
リフレッシュして、充電完了。ゆっくりと温泉やアートに浸かることができて、忘れかけていた感性を取り戻せたような気がします。
よし、明日からまた働くぞ〜!
掲載情報は2019年8月13日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】東京駅→那須塩原駅→板室温泉 大黒屋
【2日目】板室温泉 大黒屋→那須塩原駅→藤城清治美術館→那須塩原駅→東京駅