今回の列車旅ポイント
誰かの記憶に残る一枚が撮りたい。いつもは撮れない絵が撮りたい。そう考えた私は旅に出ることにしました。旅の目的は「写真映え」。旅のお供は1台のカメラと絵になる被写体。ライター&写真家として活動する私キンマサタカが、インスタグラムで大人気のお笑いタレント・岩井ジョニ男さんと旅に出ます。目的地は絵になる街「函館」です。
JR仙台駅から東北・北海道新幹線に揺られること約2時間半、終着駅のJR新函館北斗駅に到着します。はこだてライナーに乗り換え20分ほどでJR函館駅、「はるばる来たぜ」と思わず口に出して言いたくなる街「函館」に着きました。青函トンネルを抜けてからはあっという間でしたが、やはり遠くに来たという実感が湧きます。
改札を出ると一瞬身震いします。本州と比べるとやはりすこし気温が低いんですね。そして鼻をくすぐる潮の香り。きっと海が近いのでしょう。
さてどこへ行こうかしら。到着したのは午前11時半、まずは腹ごしらえを試みます。「何を食べます?」「やっぱり海鮮系かな」そんな会話をしていると目に入ったどんぶり横丁市場の看板。フラフラとそちらへ向かいます。
戦後の闇市を起源とする函館朝市が現在の場所に移転したのが1956年のこと。それ以来、地元の人々や観光客で賑わいを見せています。併設された食堂街「どんぶり横丁市場」には魅力的な店が軒を連ね、どこに入ろうか悩んでしまいますね。
悩んだ末に入ったのは「朝市の味処 茶夢」。40年以上前から営業を続ける老舗で、人気はやはり海鮮丼です。私たちは、いくら・エビ・サーモン・うに・ホタテが入った五色丼を選びました。
さらに目を引くのが、色とりどりの小鉢。もともと店にあった惣菜をサービスで出したら好評で、それ以来、丼や定食には8皿ほどの小鉢がつくようになったとのこと。イカのわた味噌や煮物など、どれもお酒が進みそうなものばかりですから、思わずビールに目がいってしまいます。「まだお昼だからお酒はあとで」というと、ちょっと寂しそうな顔のジョニ男さん。夜になったらゆっくり飲みましょうね。
函館市内には函館市電が走っていて、市内観光のちょっとした移動に大活躍します。道路の真ん中にポツンとある電停で待っていると、小さな車両が入ってきました。「ガタン」と音を立てて車両が停車すると、「プシュー」とドアが開きます。後ろの車両から乗り込んだら整理券を取りましょう。降りるときに料金を支払うシステムで、Suicaも使えるようです。
函館駅前電停から約6分、十字街電停で降りて街を散策しているとレトロな外観の「佐藤理容院」を発見しました。細めの三色ポールも珍しく、かわいらしい建物が街の景観と見事にマッチしていたので、思わずパシャリ。調べたところ、なんと1921年に建てられ、函館市の伝統的建造物にも指定されているそう。こういう素敵な建物が現存していることにびっくりします。「もし、お店が開いていたらヒゲをカットして欲しかったな(※)」とジョニ男さん。
※編集部注:理容院は営業していません。
函館は坂の多い街で、市内を観光しているとかならず坂を上り下りすることになります。CMなどでもおなじみの「八幡坂」は、海から函館山方向に向かってまっすぐ延びているので、坂の上に立つと海まで一直線に見下ろすことができるのです。まさに絶景。
八幡坂から徒歩5分ほどにあるのが「元町公園」。このあたりはかつて北海道における政治の中心地で、洋風木造2階建ての「旧北海道庁函館支庁庁舎」は道指定有形文化財のひとつ。
写真スポットとして知られているこちらでも一枚撮りたいなとベストポイントをあれこれ探していたら、掃除のおじさんが「こっちこっち」と手招きしてくれます。見れば建物の前にカメラ台があり「ここから撮るといいですよ」とのこと。おじさんの優しさに感謝しながら撮影すると、素敵なカットに仕上がりました。建物のブルーと庭の緑が、函館の抜けるような青空に映えます。
末広町電停から再び市電に乗り約4分、近くに造船メーカーがあることから命名された、函館どつく前電停に到着。駅から坂を登ること約5分。レトロな和洋折衷建築の銭湯「大正湯」へ足を運びます。創業はなんと1914年(現在の建物は1928年建築)。ピンクの色合いは、建築当時はさぞかしハイカラだったことでしょう。おじさん二人(私とジョニ男さん)は「かわいー」を連発していました。
「今日はたくさん歩きましたね」と心地よい疲労を感じたところで今夜の宿へ向かいます。大正湯から5分ほど歩けば「函館元町ホテル」に到着。敷地内の土蔵は、1909年に建てられたそうで、なんと築100年以上。オホーツク・千島・樺太の漁業で財をなした漁業家・桂久蔵(かつらきゅうぞう)の残した蔵は、現在は客室に改修され宿泊することもできます。函館ロマンあふれる蔵の部屋にもずいぶん心惹かれましたが、今回は眺めのいい本館に宿泊します。
新型コロナウイルス感染症対策として入り口には除菌スプレーが置かれ、フロントにはアクリル板も設置されていました。
チェックインを告げると、対応してくれた女性はホスピタリティの塊のような方で、とても感じが良く、部屋まで案内してくれながら施設の説明もしてくれました。内風呂の他に大浴場もあるそう。こういうちょっとしたことに旅情を感じながら、本館3階のコンクリート打ちっぱなしの広々としたツインルームへ。この部屋ならゆっくりと眠れそうです。
さて、夕食です。函館では新鮮な食材を使ったリストランテやトラットリアも人気なんですって。そのひとつ「クッチーナ イタリアーナ 柿崎」は、気鋭のシェフが作る料理が話題のイタリアンレストランです。
2019年にオープンしたばかりということで、古民家をリノベーションした店内は気持ちが良いくらいピカピカ。
メニューを眺めながら、まずは食前酒を頼みましょう。おすすめされた「リブランディ」というイタリアワインは、どんな料理にも合うという上品な味わいが印象に残りました。
ジョニ男さんが「肩肘張らなくて実家みたい」と思わず漏らしたように、くつろいだ雰囲気で食べるミラノ風イタリアンとワインの相性は抜群で、お酒が進んでしまうことでしょう。ああ楽しい。ほろ酔い気分で函館の夜はふけていきます。
2日目も市内観光へ向かいます。ホテルから徒歩約4分、「函館市旧イギリス領事館」は函館が国際貿易港として開港した1859年から、閉鎖される1934年まで領事館として使用されていました。今でも当時と同じようにユニオンジャックが掲げられています。
当時の領事執務室などが再現されていて、椅子に腰掛けたり、家具などに手で触れたりすることができます。家族居室では、イギリスのティータイムが再現されています。イギリスでは紅茶を飲む時間が決まっていて、それぞれに名前が付いているんですって。
ブロンズの噴水と多くのバラが彩る洋式庭園でも一枚。「ここは日本だよ」と言われてもにわかには信じられません。ここにはイギリスの時間が確かに流れていました。
旧イギリス領事館から徒歩約5分、散策の途中で立ち寄った「MOSSTREES(モストゥリー)」でちょっとひと息。明治末期に建てられたというレトロな建物とシックな内装が人気のカフェレストランです。お客さんは観光客と地元の人が半々くらいとのこと。この街にしっかりと根付き愛されているんですね。
シックな店内にはジャズが静かに流れ、その世界観にぐっと引き込まれます。音楽に身を委ねていると時間に取り残されたような不思議な気持ちに。「音楽は世界だ」とジョニ男さんが小さくつぶやきました。音楽は時間と場所を超えて人の心を揺さぶりますね。感情が高まってしまったジョニ男さんは、ラムレーズンパフェを注文しました。
自家製のラムレーズンのシロップをかけたパフェは、口に入れた瞬間、芳醇なラムと濃厚なレーズンの香りが鼻腔をくすぐります。シロップはすっきりとした甘さで、クリームを軽く感じさせてくれます。「うん。うまい」「私にもひと口ください」。丁寧に淹れたコーヒーも絶品でした。
そろそろ帰りの時間が近づいてきました。函館駅に戻り、駅ナカの「北海道四季彩館JR函館店」で狙っていたお土産、「箱館塩かすてら」を買います。北海道産の原料を使用したシンプルなカステラなんですが、隠し味に海水のミネラルが凝縮した天日干しの海水結晶塩を使用しており、後味がさっぱりとして、いくらでもいただけると評判なんですって。「カステラはウイスキーのアテにもなるんです」とジョニ男さん。お世話になっている人に贈るそうです。
今回は時期がずれてしまいましたが、2020年12月1日から25日まで、ベイエリアの赤レンガ倉庫群前で「はこだてクリスマスファンタジー」が行われます。ツリーが点灯(点灯時間はHPをご覧ください)され、毎日18時には花火が上がりクリスマス気分を盛り上げます。
さて、そろそろ函館にサヨナラしましょうかね。初めて訪れた函館は、想像を超えた素晴らしい街でした。レトロな建物、時間が巻き戻ったかのような街並み、おいしい食事。そして温かい人たち。函館は訪れた人の心を温かくしてくれる街だと思いました。「イルミネーションが灯るころ、絶対にまたこようね」と誓ったおじさん二人なのでした。
掲載情報は2020年12月8日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR仙台駅→JR新函館北斗駅→JR函館駅→朝市の味処 茶夢→佐藤理容院→旧北海道庁函館支庁庁舎→大正湯→函館元町ホテル→クッチーナ イタリアーナ 柿崎→函館元町ホテル
【2日目】函館元町ホテル→函館市旧イギリス領事館→MOSSTREES→JR函館駅→JR仙台駅