青森のレトロなローカル線「ストーブ列車」で太宰治ゆかりの地へ♪
こんにちは。ひとり旅が大好きな、写真家の大村祐里子と申します。冬なので、カメラを持って雪景色を見に行きたい! ……ということで、今回はゆっくりと冬模様を楽しめそうな青森へ、列車旅をしてきました!
【行程】
雪景色を求めて! 津軽五所川原駅へ
8時40分、JR東京駅発の東北新幹線に乗車し、約3時間かけてJR新青森駅へ。同駅で奥羽本線に乗り換え、30分ほどでJR川部駅へ。さらにそこから五能線に乗り換え、約30分でJR五所川原駅へ。
五所川原駅の改札をいったん外に出ると、真横に津軽鉄道の津軽五所川原駅があります。本日はここから、旅のメインとなる「ストーブ列車」に乗ります!
津軽五所川原駅から津軽中里駅まで約20kmを運行している津軽鉄道というローカル線があり、これから乗車するストーブ列車は、毎年12月1日から3月31日の冬期、1日3往復のみ運行する車両のこと(12月中は運行日ご注意ください)。1930年12月に運行を開始し、客車に設置された「だるまストーブ」で暖をとりながら、車窓の雪景色を眺めることができるノスタルジックな列車です。
ストーブ列車に乗るためには、駅舎の中にある小さな切符売り場で、目的地までの乗車券とストーブ列車券の2枚を購入する必要があります。私は始点の津軽五所川原駅から終点の津軽中里駅までを往復しようと思ったので、往復用の乗車券を買いました。
旅情あふれるノスタルジックなストーブ列車
発車時刻が近づきホームへ降りると、そこには、昭和初期にタイムスリップしてしまったのではないかと勘違いするほどレトロ感あふれる車両が! これがストーブ列車です。今からどんな世界へ運ばれるのだろうと、ワクワクが止まりません。ストーブ列車案内板横の乗車口から車内へ。
ストーブ列車の車内は、座席や窓枠や床、ほとんどが木で作られていて、ぬくもりが感じられます。列車名にも採用されているストーブは、車両の両サイドに2基設置されています。平日だったのでお客様は5〜6組程度でしたが、ストーブ周りの座席がやはり人気。私も乗車してすぐにストーブの前の席を確保!
発車すると、すぐに車内販売のワゴンが登場。オススメされるがまま、真っ黒な石炭クッキーと、スルメを購入。
「車内が寒いのではないだろうか」と心配だったのですが、だるまストーブのおかげで、雪の中を走行しているのをすっかり忘れるくらいポカポカしており、ストーブの前は顔が火照るくらい暖かかったです。
購入したスルメをどうしたらいいのかわからずうろたえていると、ストーブ列車に同乗している観光アテンダントのお姉さんが、だるまストーブの網の上であぶってくれました。
香ばしく炙られたスルメをいただき、心地よい顎の疲れを感じながら、窓の外を流れていく一面の銀世界をゆっくりと眺めます。窓枠に頭を持たせかけて遠くを見つめると、まるで異世界へ運ばれていくような気分になります。涙が出るくらい、贅沢な時間です。
ストーブ列車は基本的に田んぼの間を走行しているので、周囲には街や高い建物はほとんどありません。ときどき、木々や川がぽつんぽつんと現れるだけで、あとは真っ白な世界が広がっています。それは、私が思い描いてきた「雪景色」そのものだったので、乗車中はずっと夢見心地でした……。
親しみの持てる津軽弁で軽快にガイドしてくださる観光アテンダントさんが、折に触れて話しかけてくださったので、ひとり旅にもかかわらず、車内では優しく充実した時間を過ごせました。
津軽五所川原駅から終点の津軽中里駅までは約45分。あっという間です。
夕方だったので、帰りの車窓からは夕焼けが見えました。この数日ずっと天気が悪かったようで、「夕焼けが見えるのは久しぶりですよ」と、観光アテンダントさんが笑顔でおっしゃっていました。
津軽五所川原駅に戻って、この日は駅の近くのホテルに宿泊。列車の旅は明日も続きます。
レトロでかわいい! 赤い屋根の喫茶店「駅舎」
旅の2日目は、津軽五所川原駅から津軽鉄道に乗り、芦野公園駅にある、赤い屋根の喫茶店「駅舎」を目指します。昨日のストーブ列車ではなく、味のあるフォントで「走れメロス」と書かれた、一般車両に乗り込みます。津軽出身の作家・太宰治の作品『走れメロス』から命名されているのでしょう。メロスとセリヌンティウスの熱い友情を感じさせるようなカラーリングです。
津軽五所川原駅から揺られること約35分。無人の芦野公園駅で下車します。目的地である喫茶店「駅舎」は、ホームの真横にあります。こちらの喫茶店、芦野公園駅の旧駅舎をそのまま活用しているとのことです。
店内には、旧駅舎時代の名残があちこちに見受けられますが、不思議と違和感なく、まわりに溶け込んでいます。
メニューの中で「おすすめ」と書いてあった「りんごジャムーン珈琲」を注文してみました。カップの底に、りんごジャムと角切りの果肉が沈んでいます。りんごと珈琲なんて合うのかな? と思ったのですが、杞憂でした。りんごの甘さが珈琲の酸味をうまく中和し、しかもお互いの風味を引き立て合い、いままで体験したことのないフルーティですっきりとした味わいの珈琲に仕上がっていました。クセになってしまう美味しさ。
壁掛け時計のカチ……コチ……という音だけが聴こえてくる静かな空間で、珈琲をいただきながらしばらくの間お気に入りの本をゆっくりと読みました。心がすっと浄化されていくのを感じました。
太宰治を知る上で欠かせない「斜陽館」
赤い屋根の喫茶店「駅舎」でのんびりと過ごしたあとは、芦野公園駅から再び津軽鉄道に乗車し、隣の金木駅で下車します。乗車時間は3分ほど。今度は、金木駅から7分ほど歩いたところにある、太宰治記念館「斜陽館」に向かいます。太宰治作品のファンとしては、絶対に訪れたいスポットです。
斜陽館は、地元の大地主であった太宰治の父・津島源右衛門が1907年(明治40年)に建てたもので、太宰治の生家でもあります。青森ひば材を贅沢に使用し、1階は11室・278坪、2階は8室・116坪、庭園などを合わせると約680坪もある豪邸となっています。
印象深かったのは、斜陽館のパンフレットの表紙にもなっている、2階へと続く階段です。重厚感があり、手すりの細部まで寄木細工で彩られています。明治時代、本州の北端にこのような立派な建物が存在していたことに驚きを隠せません。
太宰作品では特に短編が好きなのですが、斜陽館には『津軽』『故郷』『帰去来』に登場する部屋が多くあり、作品がよりリアリティを持って迫ってくるような感覚がありました。「ああ、この部屋でお兄さんと話したんだな」などと考えながら館内をめぐる体験は、ファンとしては感涙ものです。
太宰治の文学を理解する上で、生家が大地主であったことと、そこの六男坊として育ったことは重要な要素だといわれています。実際に建物の中を一周してみると、このような家で育てば、自分の家が特別であるという貴族意識と、それに対する後ろめたさ、また、六男坊ゆえの反骨精神のようなものを抱くのは必然だな、と思いました。
「斜陽館」を見学して、太宰文学の根底に常に流れているものを体で感じることができました。今後はさらに深く、太宰作品を読み込めるような気がします。
圧巻! 高さ約23メートルの立佞武多
金木駅から津軽鉄道で津軽五所川原駅まで戻り、徒歩で旅の最終目的地である「立佞武多(たちねぷた)の館」に向かいます。駅からの所要時間は5分ほど。
巨大ねぷたが街を練り歩く「五所川原立佞武多」は全国的に有名です。その魅力を、いつでも体感できるのが立佞武多の館です。
展示室に足を踏み入れた瞬間、高さ約23メートル、重さ約19トンの巨大な立佞武多3体が立ちはだかります。生まれて初めて立佞武多を見たのですが、想像をはるかに超える大きさに、ただただ圧倒されました……。
展示室は4階から1階までがスロープになっており、立佞武多の顔を真横から眺めることができます。スロープの横には展示物があり、立佞武多の歴史を学びながら降りてこられる仕組みになっています。
五所川原のねぷたは、明治時代にはかなりの高さがあったのですが、電線が普及すると共に、ぶつからないようだんだん背が低くなっていったそうです。しかし、巨大だった頃のねぷたの写真と台座の図面が発見されたことをきっかけに、1996年、市民有志が高さ約23メートルの巨大ねぷたを復元。それを「立佞武多」と命名しました。98年からお祭りの名前を「五所川原立佞武多」として、約90年ぶりに練り歩く立佞武多を復活させた……という歴史があるそうです。
お祭りのときは、館の側面の壁が開き、そこから立佞武多が出陣するそうです。ロボットアニメが大好きな私は、その要塞のような仕組みに、たまらないかっこよさを覚えました。
見学を終えて、立佞武多には、この地域の方々の精神や、さまざまな想いが込められていると知り、感動しました。旅の最後に、津軽の方の「熱さ」に触れることができたように思います。
今回の道中は、思う存分写真を撮りながら、自分のペースで、心静かに雪景色を楽しめました。冬の青森の美しさと温かさを同時に感じられ、非常に充実感のある旅となりました。この思い出を糧に、またしばらく頑張れそうです!
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR新青森駅→JR川部駅→JR五所川原駅→津軽五所川原駅(ストーブ列車)→津軽中里駅(ストーブ列車)→津軽五所川原駅
【2日目】津軽五所川原駅→芦野公園駅→赤い屋根の喫茶店「駅舎」→斜陽館→金木駅→津軽五所川原駅→立佞武多の館→JR五所川原駅→JR川部駅→JR新青森駅→JR東京駅