今回の列車旅ポイント
人生で1番使ったお金が飲み代で、好きを仕事にするために、お酒のなかでも1番好きな「日本酒」を若い世代に広める活動をしています、卯月りんです。普段は酒蔵さんのPRプランナーとして活動するかたわら、人のつながりと日本酒を楽しむ大人の遊び場、日本酒コミュニティ「酒小町」の運営をしています。
今回の舞台は、日本一の「酒どころ」として知られる兵庫県の「灘五郷」。灘五郷とは、神戸と西宮にまたがる西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷の5つの地域からなる総称です。おいしい日本酒と、その背景にある文化やつくり手の想いに触れる旅へ、さっそく出かけましょう!
「旅先で、ご当地のお酒をいただく」ことは、お酒が好きな人にとっての醍醐味ですよね! そんな旅を心ゆくまで楽しみたい方におすすめしたいのが列車旅。「JR東日本びゅうダイナミックレールパック」を利用すると、新幹線と宿をお得なセットで申込みできますよ。
まずはJR東京駅からJR新神戸駅へ、東海道新幹線で約2時間50分。新神戸駅から西神・山手線と阪神本線を乗り継いで約20分、魚崎駅に到着です。
灘五郷が日本一の日本酒生産量を誇る酒どころになった理由は、その土地柄にあります。酒づくりに欠かせないミネラル豊富な上質の地下水「宮水」や、最高品質の酒米「山田錦」などが手に入りやすく、古くから酒づくりに最適な立地だったのです。
しかも、数百年の歴史を持ちながら今もなお多くの酒蔵が存在し、酒蔵の多くは最寄り駅から徒歩圏内という、お酒好きにとっても最高にありがたい立地!
訪れたのは、魚崎駅から徒歩約10分にある「菊正宗酒造記念館」。灘五郷の1つ、御影郷にあります。
国の重要有形民俗文化財に指定された「灘の酒づくり用具」を保管している唯一の博物館。酒造展示室や映像・展示コーナーなどがあり、酒づくりの歴史と文化に触れることができます。
見学後には試飲もできます! 無料で2つの銘柄(各1杯)が試せます。もっと試したい方は有料の試飲もぜひ。
この日、私が試したのは「菊正宗 特撰 きもとひやおろし」と「菊正宗れもん冷酒」。
「きもとひやおろし」は、ひと夏を越して熟成され、味わいがまるくておいしい! 今回は冷たくいただきましたが、燗にも合いそう!
「れもん冷酒」は、瀬戸内れもんと大分県産かぼす、沖縄県産シークワーサーの果汁がブレンドされた、アルコール10%のお酒。爽やかさとほろ苦さが感じられてスイスイ飲めちゃいます。夏は、紙パックごと冷凍庫で凍らせて「酔えるシャーベット」としても楽しめますよ。
酒粕を使った酒蔵ソフトクリームや「菊正宗 純米吟醸酒」を使用した酒まんじゅうといった、酒蔵ならではのスイーツも販売されています。お酒が苦手な方とも一緒に楽しめますね。
ここで、旅の思い出となる「御酒印」をいただきます。
御酒印帳
御酒印とは、酒蔵を訪れた証として、その酒蔵の登録銘柄のラベルを御酒印帳に授与されるもの。御朱印のお酒版のようなもので、全国の公認酒蔵でお買い物や見学をすれば、いただくことができます。スタンプラリー感覚で楽しみながら集めることができ、旅の思い出も深まる御酒印は、まさに大人の遊び!
御酒印帳(R)は公式のオンラインサイトか、公認酒蔵・一部書店で購入できます。御酒印について詳しくはこちら。
菊正宗酒造記念館の登録銘柄「菊正宗 上撰」の御酒印をいただきました!
菊正宗酒造記念館に併設されているのが「樽酒マイスターファクトリー」。菊正宗が日本一の生産量を誇る樽酒の魅力を伝える工房です。
かつて樽づくりを依頼していた樽屋さんが廃業される際、その技術を守るため、樽屋の職人さんを社員として自社(菊正宗酒造さん)に招き入れたんだそう。樽造りの技術が継承されてきた、そのストーリーに胸が熱くなります。
実際の樽づくりは木槌の大きな音が響く大迫力! 釘や接着剤をまったく使うことなく、お酒が一滴も漏れないつくりにしているんです。
こうした歴史やつくり手の熱量に触れると、日本酒がもっとおいしくなりますよね!
続いては、菊正宗酒造記念館から歩いて10分ほどにある「白鶴酒造資料館」へ。魚崎駅からは歩いて15分ほどです。
こちらは大正初期の酒蔵を利用した施設で、日本酒の歴史が学べます。等身大の人形を使って、昔ながらの酒造工程がわかりやすく展示されています。
特に注目してほしいのが、白鶴酒造さんの新しい挑戦である「HAKUTSURU SAKE CRAFT」のコーナー。
ここで生産しているクラフトサケとは、日本酒の製造技術をベースに、米・水・米麹以外の材料も入れてつくる新しいジャンルのお酒。
HAKUTSURU SAKE CRAFTでは、毎月1種類を200〜300本という少量生産し白鶴酒造資料館限定で販売。「同じSAKEは二度とつくらない」というポリシーのもと、ラベルには種類ごとにシリアルナンバーが振られています。
今回は、桜色がかわいいホップのお酒「HAKUTSURU SAKE CRAFT No.11」に遭遇しました。ホップと聞くとビールの苦みを思い浮かべますが、こちらのお酒は、口に含むとまずはメロンのようなフルーティーな味わい! そのあとグレープフルーツのような柑橘系の爽やかさとほのかな苦みが立ちます。お米を使ったフルーツジュースのような飲み口でした。度数も12%と、一般的な日本酒より低めでとっても飲みやすい!
こちらにも無料の試飲と有料の試飲があり、有料試飲では先ほどのクラフトサケや限定酒、高級酒も試飲できます。
伝統を守りながらも、新しい日本酒の可能性を追求する酒蔵さんの熱い想いに触れることができたひとときでした。
御酒印も忘れずに! 白鶴酒造資料館の登録銘柄は、「白鶴 特別純米原酒 蔵酒」でした。
1日目の締めくくりは、2022年4月にオープンした「灘五郷酒所」へ。白鶴酒造資料館からは歩いて10分弱です。
酒蔵を改装した建物は、酒神社をコンセプトにしたおしゃれな内装で、日本酒好きの私には抜群の居心地の良さです。
ここでは、灘五郷にある全26酒蔵から約40種類のお酒が味わえます。さらに料理とのペアリングもできる、夢のような大人の遊び場!
今回は、灘五郷酒所一押しの「灘五郷ペアリングディナーコース」をいただきました。7品のお料理とベストマッチな日本酒がコースで出てきます。
料理と日本酒を口に含むと、その相乗効果にびっくり。食材のおいしさが増幅されたり、脂がすっきり切れたり。料理の五味が日本酒によって補完され、味わいが格段に進化するんです!
ミルク系の料理と相性抜群の「黒松白鹿千年壽」は、「いちじくとマスカルポーネチーズ」とともに。純米大吟醸の上品な甘さとともに果物の香りがブワッと広がり、さらにマスカルポーネチーズが溶けて夢のような味わいに。
メイン料理の「神戸ビーフのメンチカツ」には、牛肉とのペアリングのために開発された櫻正宗の「Bonds Well with Beef 純米吟醸」を。しっかりとした神戸ビーフの旨みと濃いソースを、濃醇でまろやかな味わいのお酒ががっちり受け止め、さらに深みと複雑さが際立つ味わいになりました。
このベストマッチな体験こそが、灘五郷酒所での醍醐味なんです! 1日の酒蔵巡りで高まった知識とともに、ゆっくりと灘五郷の味を堪能しました。
灘五郷酒所から徒歩約10分の御影駅から阪神本線で神戸三宮駅に戻り、駅近くのホテルにチェックイン。旅の疲れを癒やします。
2日目のスタートは、神戸三宮駅から歩いて約5分の「生田神社」から。
縁結びや恋愛成就のご利益で知られた神社ですが、実はこちら、灘五郷の歴史と深いつながりがあります。というのも、境内の末社の1つ「松尾神社」は、酒造の神「大山咋命(おおやまくいのみこと)」を祀る神社なんです。
松尾神社
その脇には「灘五郷酒造の発祥地」の石碑があり、灘の発展を支えてきた歴史を静かに感じることができます。神社の北側に広がる「生田の森」は、都会の喧騒を離れて憩える緑豊かなエリアとして地域の方々に親しまれています。
御朱印やお守りをいただいて、旅の安全と良縁を祈願します。
再び神戸三宮駅へ。神戸三宮駅から阪神本線で石屋川駅まで約10分、石屋川駅からは歩いて10分ほどにある清酒「福寿」の蔵元「神戸酒心館」へ向かいます。
4つの蔵を利用した、酒蔵見学ができる醸造蔵「福寿蔵」・お酒の購入や試飲ができる蔵元ショップ「東明蔵」・お酒とお料理を楽しむ「蔵の料亭 さかばやし」・酒蔵を利用した多目的ホール「酒心館ホール」からなる複合施設です。
醸造蔵「福寿蔵」
酒蔵見学では、酒づくりのビデオ鑑賞や醸造工程などの見学、試飲(無料&有料)なども楽しめます。
酒蔵見学
醸造工程
動画を見たあとにエレベーターで上に上がると醸造工程を見学(見学は予約制)できます。この日はガラス越しに蔵人の方が働く姿を見ることができて、臨場感たっぷりでした!
無料の試飲コーナー
今回、おすすめで飲ませてもらったのはこちらの3種類のお酒です。左の「福寿 純米吟醸」は、福寿の看板商品で「福寿」といえばこのお酒。熟した桃のようなフルーティーな香りがします。チーズやテリーヌ、生クリームを使ったお料理に合うんだとか。ぜひ家でもやってみたい組み合わせです。
真ん中の「純米吟醸 HS85」は、蔵元限定酒。2017年に兵庫県が登録した酒米「Hyogo Sake 85」を使ったお酒で、透明感のある飲み口です。米の旨みがありつつ、なめらかに喉に吸い込まれていくきれいなお酒でした……! こんなにおいしいお酒が蔵元でしか販売されていないなんてずるい!
右の「蔵直採り生酒」は、しぼりたてのまま、加水調整などを行わない生酒で、20年以上愛される蔵元限定の名物酒。生ならではのフレッシュさと力強い味は圧巻!
この蔵でしか飲めないお酒は、用意されている専用の瓶(300mlまたは720ml)を購入することで持ち帰りができるのだとか! 購入した瓶は、お酒を飲み終えたあとに洗ってから、ショップに持参すると、その瓶を再利用してお酒のみを量り売りしてくれるそうです。
ここでも忘れずに御酒印をコレクションします。神戸酒心館の登録銘柄は、「福寿 大吟醸」でした。
酒蔵見学のあとは、神戸酒心館に併設された「蔵の料亭 さかばやし」でランチをいただきます。
こちらの一押しは自家製豆富とおそば! 特に日本酒をそばにかけていただく「酒そば」が有名なんです。まさに酒どころならでは!
自家製豆富と前菜3種、刺身湯葉に、茶碗蒸し、自家製そばと季節の甘味が楽しめる「そば膳」をいただきます。酒そばにするための日本酒として、「純米酒 御影郷」のグラス小をチョイス。見てください、この贅沢な酒蔵ランチ!
何を食べても日本酒との相性が良くて最高です。
そばには日本酒をかけていただきます。そば汁につけるのは最小限に、日本酒の香りを楽しみながら食べるおそばは格別です。
日本酒の文化や歴史を学んだ旅路の最後に、酒蔵で日本酒とともにおいしい食事をいただく。最高の大人の旅でした。
石屋川駅から神戸三宮駅を経由して新神戸駅へ。再び新幹線で帰京します。今回の灘五郷の酒蔵巡りでは、単にお酒を飲むだけでなく、酒蔵の歴史や文化、酒づくりの神さまの存在、そして造り手の熱い想いに触れることができました。「酒蔵巡り楽しそう!」と感じた方は、灘五郷の酒蔵と歴史を巡る旅で日本酒の奥深さに触れてみてください!
掲載情報は2025年11月20日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
今回の旅の行程
【1日目】JR東京駅→JR新神戸駅→三宮駅→神戸三宮駅→魚崎駅→菊正宗酒造記念館/樽酒マイスターファクトリー→白鶴酒造資料館→灘五郷酒所→御影駅→神戸三宮駅(ホテル)
【2日目】神戸三宮駅→生田神社→神戸三宮駅→石屋川駅→神戸酒心館/蔵の料亭 さかばやし→石屋川駅→JR新神戸駅→JR東京駅