「おとぎの国」青森で、異国情緒な建築とカフェ&クラフトをめぐる

りんご農園

本州の一番端っこ、最北の青森県。もう何度も訪ねてはいるけれど、毎度どこか別の国に来たような気分になる。延々果てしなく続くりんご畑は、いわゆる日本の田舎の風景とは一味違うし、津軽弁は異国の言葉のようにも聞こえる。極彩色の巨大なオブジェがぐるぐる回りながら行進するねぶた祭りは、まるで夢を見ているかのような幻想的な世界だ。

今回は弘前、黒石を中心に、心ときめくレトロな建物や、丁寧でぬくもりあるクラフトなどをめぐり、「おとぎの国」青森を感じてみたいと思う。

独学で自身の才能を開花させた天才棟梁、堀江佐吉の洋風建築をめぐる

「おとぎの国」を最も彷彿させる場所といえば弘前である。街を歩くと、異国情緒あふれる建物に多く出会う。地方の小さな街に、これだけ多くの古い洋風建築が残っていることには驚かされる。特に多いのは弘前公園の周辺で、和の象徴のような弘前城を囲むように洋風建築が建ち並ぶ様子は、どこか不思議な光景だ。しかも、その多くは堀江佐吉という棟梁によるもので、彼は一度も外国へ行ったことがないという。出稼ぎで訪ねた函館で洋館を見て回り、独学で学んだらしい。和の技術を集結させて洋風を表現した、空想洋建築ともいえるものだった。弘前に「おとぎの国」のような雰囲気を感じる理由は、空想が醸し出す夢の世界があるからかもしれない。

旧東奥義塾外人教師館の洋室

最初に訪ねた「旧東奥義塾外人教師館」は、1900年に東奥義塾の外国人教師用宿舎として建てられた。前述の棟梁、堀江佐吉による木造2階建ての建物(現在の建物は1900年に再建)で、クリーム色の壁に緑の縁取り窓、レンガの煙突などが可愛らしい。内部も一般公開されており、クラシカルな調度品、子供用に天井からブランコが下がっている部屋もあったりして、見ているだけで楽しい。1階は建物の雰囲気を味わえる内装のまま、カフェとして利用されている。

旧弘前市立図書館

続いて、すぐ隣にある「旧弘前市立図書館」へ。1906年の竣工で、こちらも堀江佐吉が熱意を持って設計に関わっている。赤い屋根が双子のように二つ並び、絵本の中に出てきそうな雰囲気。やはり空想だからこそ生み出せる形のようにも思う。細かい装飾などを見ると、2階の軒などに和の要素が見え隠れし、自分がどこの国にいるのか、だんだんわからなくなってくる。

旧第八師団長官舎

1ブロック5分ほど歩くと見えてくるのは「旧第八師団長官舎」。堀江佐吉の長男、堀江彦三郎による設計で、1918年に建てられた。この建物は、なんとスターバックスになっている!

中に入ると、学生も近所のおばあちゃんも気軽に利用している様子。内装には、ブナの木を特殊技術で薄く裁断した「ブナコ」を使った照明や、津軽の伝統的な刺し子技法「こぎん刺し」のソファなど、青森らしい工芸を品良く取り入れていた。こぎん刺しソファはいつも人気で、早い者勝ち。こんな空間を日常的に利用できる弘前市民が羨ましい。

旧藤田家別邸洋館

さらに弘前公園の堀端を数分歩けば、藤田記念庭園内に「旧藤田家別邸洋館」がある。設計は堀江佐吉の六男の金造、施工は長男の彦三郎という、またしても堀江一家の作品。もともとの持ち主である藤田氏は政財界のボスともいえる大物実業家だったらしいが、そんな職業とは対照的に、まるで妖精でもすんでいそうな建物。内装も趣向を凝らしていて、壁や天井のレリーフ、ステンドグラスなどの細やかな装飾に心惹かれる。

内装

窓を大きくとったテラス部分は「大正浪漫喫茶室」として利用され、ここはパリのカフェなのかと錯覚する。弘前のレトロ洋建築は、気軽に中に入れて、お茶まで飲めてしまうところが多いのでうれしい。さらにここでは、弘前市内のあちこちのお菓子屋さんで作られているアップルパイが何種類か揃っていて、食べ比べすることもできる。それぞれに違う味の特徴があり、うっかり何個も食べてしまう人もいるそうだ。

フランス帰りの建築家 前川國男の建物へ

弘前市民会館

弘前市民会館の中の様子

藤田記念庭園の目の前に広がる弘前公園に入ってみると、モダンで優美なコンクリートの建物が目に留まった。これは、世界的建築家ル・コルビュジエの元で2年間修業していた前川國男の設計で1964年に完成した「弘前市民会館」だ。

弘前の建築は、堀江佐吉と前川國男が二大巨頭。外国には一度も行かずに想像力と匠の技を駆使して洋風を表現した堀江佐吉と、当時の海外最先端技術を学んだモダニズム建築の巨匠・前川國男。二人の建築を比較してみるのも面白い。

この建物はコンクリート打ちっ放しだが無機質ではなく、グラフィカルで一定の心地よいリズムのようなものを感じさせる。よく見るとコンクリートに独特の質感があり、周りの自然とも緩やかに調和している。大ホールには青森出身の板画家、棟方志功の緞帳があることでも有名。

喫茶室batonのホットケーキ

管理棟2階の宙に浮いたような空間には、「喫茶室baton」がある。ここでホットケーキを食べて一休み。バナナやイチゴがのったものもあったが、生クリームとバターだけのシンプルなプレーンを頂く。素材の持つ優しい味で、厚さ4cmのふんわりふかふかな食感は、ベッドにして眠りたいほどだった。建築探訪のつもりが、気づけばカフェのハシゴになってしまった。

弘前こぎん研究所(木村産業研究所)

黒い鉄柵や窓枠、赤く塗られたバルコニーの天井

前川建築は、弘前市内に数多く残っている。日が暮れる前に向かったのは、「弘前こぎん研究所(木村産業研究所)」。前川國男がフランスから帰って最初に手がけた1932年の処女作である。真っ白で四角いシンプルな建物は、ル・コルビュジエらしさを彷彿させ、黒い鉄柵や窓枠、赤く塗られたバルコニーの天井、床のタイルなど、しゃれた要素が細部までちりばめられている(トイレのクリスタルのドアノブなども、ひそにかっこいい)。2階には、前川建築の設計図や直筆スケッチなどが展示されており、前川國男プチ博物館になっている。

伝統工芸 こぎん刺し

そしてここは伝統工芸「こぎん刺し」研究の事務所でもあり、作品を買うことができる。こぎん刺しは津軽地方独特の刺し子の技法で、繊細に組み合わさった模様の美しさが特徴的。ボタンは色や大きさが各種あり、お菓子のようにカラフル。名刺入れ、バッグ、メガネケースなど商品もさまざま。お土産を買って、ホクホクと満ち足りた気分になり、ホテルへ戻った。

弘前郊外、黒石はこけしの街

中町こみせ通り

古い酒蔵

津軽こけし形のボトルに入ったお酒

次の日はレンタカーで30分ほどドライブして、まずは古き良き街並みが残る、黒石の「中町こみせ通り」へ。こみせとは、藩政時代から残るアーケード状になった屋根のある通路で、冬に雪の多い地域で重宝されている。こみせが長く続く黒石のこのエリアは、重要伝統的建造物群保存地区。前日に散々洋風建築を見てきたので、ザ・江戸時代な和の街並みが、かえって新鮮に感じた。通りには古い酒蔵が2軒あり、どちらも美味しいお酒を醸している。鳴海醸造店には、津軽こけし形のボトルに入ったお酒もあり、お土産にしたくなる。

民芸店おくせの店主、奥瀬陽子さん

こけし

津軽こけし館へ向かう途中に、小さな民芸店を見つけた。「民芸店おくせ」は、こけし工人(こけしを作る職人)でもある奥瀬陽子さんが店主を務めている。いつも開いているわけではないので、行く前には連絡したほうがいい。

蔦の絡まるこぢんまりとした建物は、ここも妖精の隠れ家のようで、うっかり通り過ぎてしまいそうになる。店内には全国各地、また海外からも集まってきた民芸の器や道具、人形などがぎっしり並んでいて目が泳ぐ。そしてこけしのコレクションがすごい。小指ほどの小さなこけしたちが可愛くて夢中になる。奥瀬さんとのんびり工芸談義をしていたら、居心地がよすぎて体に根っこが生えそうだった。

津軽こけし館の展示

こけし工人による実演

この日の目的地「津軽こけし館」は、こけし好きの聖地とも呼ばれる。津軽はもちろん、全国各地のこけしがこれほどまでに集まっているところはほかにない。2階には5000本ものこけしが展示されていて、ぎっしり並ぶ様子は圧巻。棟方志功からさくらももこまで、著名人が絵付けしたこけしにはワクワクする。1階ではこけし工人による実演も行われている。毎年10月には、各地のこけし工人が集まって展示即売会を行う「全国伝統こけし工人フェスティバル」も行われ、こけしファンが全国から駆けつけ、大混雑するそうだ。

夜のカトリック弘前教会

カトリック弘前教会の祭壇

カトリック弘前教会の扉

弘前へ戻ってきて新幹線まで時間があったので、最後に「カトリック弘前教会」を覗いてみた。設計はオージェ神父、施工した横山常吉は堀江佐吉の弟だ。教会内部正面の祭壇は荘厳だが、左右に佇む天使の像の優しい表情に、ほっと穏やかな気持ちになる。椅子の下は畳敷きになっており、ステンドグラスにりんごや岩木山、津軽三味線などが描かれているのは青森らしい。入り口の扉にはこぎん刺しの十字架があった。夕闇にぼんやりと浮かぶ小さな教会の姿は可憐で幻想的で、やっぱりここはおとぎの国なんだなあと実感した。

 

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