夏は“冷たい”温泉へ。温泉マニア東大生おすすめ!信州湯めぐり旅

夏は“冷たい”温泉へ。温泉マニア東大生おすすめ!信州湯めぐり旅

夏こそ温泉、その極意とは

「夏こそ温泉」と聞くと「暑い時期に熱い風呂ねぇ……」と渋い表情を浮かべる人は多い。暑さに弱い僕とてその1人だ。では、温泉が冷たかったらどうだろう? 「温」泉が「冷」たい? 字面からして矛盾しているが、そのような温泉は実は各地にある。「温かい泉」だけが温泉ではないのだ。
実は、温泉を定義する「温泉法」では、特定の成分が基準以上あれば25度以下でも「温泉」としている。かつて泉温が高い「温泉」と、泉温が低くても温泉として認められる「鉱泉」に分けて呼んでいた名残で、今でも「冷たい温泉」を「鉱泉」と呼び分けることも多い。湧水と同じくらいの温度の鉱泉も珍しくなく、まさに“冷たい”温泉なのだ。
僕の所属する「東大温泉サークルOKR(おける)」は、東大を中心とした温泉好きな大学生からなるサークルだ。年間30回以上温泉に行くメンバーも少なくない(僕もその1人だ)。そんな温泉マニアの僕が夏にオススメしたいのは、信州の冷たい温泉である。

ハイキングの後は、鉄分豊富な本格濁り湯を堪能

JR新宿駅を出た特急あずさは、山に沿ってびっしりと住宅が立ち並ぶ郊外を抜けて、気づけば山々に囲まれた田園風景の中を走っていた。
車窓を眺めながら食べるために、ここまで我慢してきた駅弁を開けることに。

山の信州いろどり弁当

信州の山の幸が、ぎっしりと詰まっている

新宿駅特急ホームにある駅弁屋で購入した「山の信州いろどり弁当」(1,000円)は、たけのこやマス、きのこ、鹿肉と、信州の山の恵みがふんだんに詰まっていて、それぞれ素材の味を活かして調理されている。あっという間に食べ終わり八ヶ岳を眺めていると、新宿駅を出てからものの2時間ちょっとで、JR茅野駅に着いた。
送迎バスでこの日泊まる横谷(よこや)温泉旅館に向かう。2日前までの予約で駅まで迎えに来てくれるのがありがたい。バスの車窓には蓼科高原が広がり、早くも期待が高まる。バスに乗ってから20分ほどで着いた宿は大きく、きれいだった。従業員の皆さんが優しく、家庭的な雰囲気を感じる。

横谷温泉旅館の外観

山あいにたたずむ静かな旅館

横谷温泉旅館の客室

広い部屋にいながら、森林浴を楽しめそうだ

案内された部屋はとても広く、1泊だけではもったいないな、と思いながら、荷物を降ろして横谷峡散策へと繰り出した。

宿の目の前から始まるハイキングコースは、いきなり轟々と音を立てて流れる「乙女滝」に出迎えられる。かなり近くまで寄れるのだが、水しぶきが半端でない。

横谷峡の乙女滝

轟々と流れる滝を間近に見る

横谷峡の霧降の滝

川底が赤く、魚はいない

横谷峡の森

異世界感さえ漂う

すっかり涼しくなって川に沿って歩いていると、すぐに川底が真っ赤なことに気づいた。鉄分が原因かな……。そんなことを考えながら、突き抜けるような青空の下、散策を楽しんだ。木々がほどよく日差しを遮ってくれ、湿気もなく涼しいので爽やかに歩ける。途中の湧き水は冷たくておいしかった。
宿に戻って貸切露天風呂へ。通常は40分3000円だが、今回の宿泊プランでは1泊につき1回無料で入れるのがありがたい。明るい空の下で入る露天風呂、しかもハイキングで汗を流した後。これだけで気持ち良さは伝わるだろう。

横谷温泉旅館の貸切露天風呂「月あかり」

貸切露天風呂「月あかり」。写真ではわかりにくいが、湯はかなりの赤褐色だった

湯は鉄分で濁り、手を入れると指先すら見えないほどの赤茶色をしていた。湯口から出るのは透明な湯だが、空気に触れると赤くなる。どっしりとした力強いお湯に入ると、ピリッと刺激を感じる一方、肌が包み込まれる感じもする。湯上がりは、肌が鉄分でコーティングされるようなスベスベ感がある。
温泉を五感で感じるため、僕は初めて入る温泉の湯は飲んでみることにしている(飲泉は許可されていない温泉が多く、泉質や体調によっては体に悪影響をもたらす場合があるので注意してほしい)。今回も僕は湯口の湯を少しだけすくって口に含んだ。このお湯は鉄臭さだけでなく、酸味や塩味もあり、熱中症対策の塩レモンタブレットのような味だった。
ちなみにここの温泉の源泉温度は湧水と同じくらいで、入浴のために42℃まで温めてある。まさに「冷たい温泉」なのだ。

山の幸ずくめの食事と、広々とした大浴場

横谷温泉旅館のお茶請けのきんつば

そば粉入りの生地の中に、あんがぎっしりと詰まっている

すっかり満足して部屋に戻り、お茶請けにと用意されていた、そば粉を使ったきんつばをいただいた。生地がもっちりとして、そばの香りもよくする。同行した同期の友人とあれこれ話しているうちに眠ってしまい、気づけば夕食の時間に。

横谷温泉旅館の夕食

びっくりするほど豪勢な夕食

鮎とマスの刺し身、川エビの揚げ物、鮒の佃煮、鮎の塩焼きなど、たいへん豪華な夕食。揚げたての天ぷらと打ちたてゆでたての十割そばも出てくる。リンゴの天ぷらは柔らかく煮てから揚げてあって、香ばしさもあっておもしろい。そばのうまさは言うまでもなかった。
大満足で部屋に戻り、少し休んでから大浴場へ。ぬるめの内湯と、熱めの露天がある。露天風呂は貸切露天風呂と違って色が薄く、塩味が強い。クセが少なく、肌への刺激があまりないので、入りやすいかもしれない。
翌朝も再び大浴場へ。朝のまだ涼しい中、寝起きで鈍る体を温める温泉にはなんともいえない心地よさがある。

横谷温泉旅館の内湯

清潔感があり、広々とした内湯

横谷温泉旅館の露天風呂と巨石の石灯籠

露天風呂はそれぞれ異なる造りだが、男女入れ替え制で両方楽しめる

横谷温泉旅館の貸切風呂前のスペース

木造りで落ち着いた雰囲気

入浴後は、フロント前にある味噌汁のサービスで、ほっとひと息。シジミのだしがよく出ていて、落ち着く味だった。すっかり温まって朝食をいただくことに。健康的で懐かしい味付けのメニューが並び、具だくさんのなめこ汁が食欲をかき立ててくれた。

横谷温泉旅館の朝食

野菜中心の健康的な朝食。このほかに、野菜のせいろ蒸しがつく

神秘の冷泉は、飲んでよし入ってよし

後ろ髪を引かれる思いで宿を後にし、再び送迎バスで茅野駅へ。中央本線に乗って向かったのはJR下諏訪駅。ここから4km弱の道のりを歩いて、次の温泉に向かう。コミュニティバスがあるが、たらふく食べた後なので歩くことに。

毒沢鉱泉神乃湯に向かう途中の景色

好天に恵まれて、坂の上から諏訪の町を一望する

諏訪大社・下社春宮を横目に坂を上る途中で、ふと後ろを振り返れば、青空の下に諏訪湖の湖面が輝いている。民家が多いから夜景もさぞきれいだろう、などと話しながら、汗を拭ってさらに坂を上る。

毒沢鉱泉 神乃湯の外観

森に溶け込むような落ち着いたただずまい

山の中腹にある毒沢鉱泉 神乃湯は、こぢんまりとした構えだが、訪れる客は多いようだ。建物の正面には神棚が設置され、自然に対する畏敬の念が伝わってくる。
ご主人には、いろいろなことを教えていただいた。ひとつの温泉地でも泉質はそれぞれ異なること、毒沢は神のお告げで見つけた湯だということ、科学的な分析では割り切れない力が温泉に宿っていること――頭で考えてばかりではわからないことだらけだった。温泉の楽しみは、実際に現地で湯に浸かり、素直に感じることにあるのだろう。
飲泉ができるというので試してみると、酸味は強烈だが、クセになるおいしさも含んでいる。「健康な人は『おいしいおいしい』と言ってたくさん飲むんですが、胃腸が弱っている人にとっては、まずいらしいですよ。そういう人にこそ飲んでほしいですね」とご主人。

毒沢鉱泉の飲泉と水風呂

源泉そのものは透明

毒沢鉱泉の鉱泉水と、ソーダを混ぜたもの、お茶を混ぜたもの

鉱泉水(左)にソーダを混ぜたもの(中)とお茶を混ぜたもの(右)。鮮やかな実験結果に

ここで「理科実験」。毒沢鉱泉は、お茶と混ぜると黒く、ソーダと混ぜると黄色くなるというのを確かめる。結果はまさに予想通りの色となった。黒いお茶は錆び鉄の味がしてお世辞にもおいしくはないが、黄色いソーダは見た目のせいか、レモンスカッシュのような軽やかな酸味に感じる。これならいくらでも飲めそうだ。理系の同期によれば、お茶に含まれるタンニンが鉱泉水の鉄分と反応しているのだという。しかし、ソーダが黄色くなる理由は、ご主人にもわからないそうだ。「なんでもわかってしまうよりも、その方が不思議でいいでしょう?」と微笑む。
舌で鉱泉を楽しんだ後は、実際に入ってみることに。まずは温めると赤茶色になるという沸かし湯へ。鉄分の匂いを強く感じるうえに、酸性ならではの肌への刺激も感じる。ご主人の言う通り「鉄分だけでなくミョウバンや塩も入っていてバランスがいい」からか、長湯できそうだ。じっくり入って汗をかいてきたので、透明な冷泉へ。沸かし湯と冷泉、交互に入ることで血流が増して代謝が上がるといわれている。そんなことは知らずとも、ただ浸かるだけで気持ちの良いものだ。冷泉は沸かし湯とはまるで別物で、飲むと酸っぱくて刺激的なのに、入ってみるとまろやかだ。火照った体が冷泉で冷やされて、永遠に入っていられるのではないか、などと思ってしまう。沸かし湯と水風呂を何度も往復しているうちに、気づけば帰りの列車の時間が迫っていた。

毒沢鉱泉 神乃湯の内湯

透明な鉱泉を温めると赤褐色になる。その隣には冷泉がある

ムササビの子ども

つぶらな瞳が愛らしい。会える機会は、なかなかないのだとか

窓の向こうにはご主人が置いた巣箱が見え、その穴からムササビの子どもがこちらをうかがっている。温泉だけではない自然の恵みを求めて、ヒト以外にも、さまざまな生き物がこの宿にやってくるのだ。
温泉の快感を思い出しながら長い坂を下りて、下諏訪駅から再びあずさに乗って帰路に就いた。帰りの電車は旅の思い出で会話が弾む。新宿駅までは、あっという間だった。少し日焼けした腕からは、まだほんのりと鉄の香りがする。

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